204:フィッチャーの目が輝いた。
「温泉を浴槽に貯めてしばらく放置したら、どんどん茶色く濁っていくんだよね」
「鉄分が空気に触れて酸化してんだろ」
「でも成分抽出しないで放っておくと、だんだん透明に戻っていくんだ」
「底をよく見て見ろ。鉄成分が沈殿してんだよ」
温泉に入った後は浴槽の栓を抜いて砂漠に垂れ流し。
昨日入った時は、抜いた後に今日用の源泉を汲み上げとこうと思って浴槽に入れてたらこうなっていた。
いつもは入るときに浴槽へ入れて、成分抽出してたからさ。抽出後も少し薄茶色だったんだけど。
魔法陣鑑定の結果、塩分と鉄分の成分が確かに下がっていた。ただし、上の方から六割ぐらいだけ。浴槽の底に近いほど、成分が高くなっている。
「これ、上澄みだけ汲み上げれば抽出錬金しなくて済むのか」
「だろうぜ。汲み上げるんじゃなく、浴槽に穴開けて、そこから上にある湯だけパイプで流して別の浴槽に移しゃいいんじゃねえか?」
「おぉ! それいいね、親方」
じゃ、さっそくそんな風に錬金するか。
一日二日、温泉を溜めておくことを考えると、さすがにお湯の温度が下がり過ぎるだろう。
そこで、親方に「熱が逃げにくい岩」を探してもらって、溜めておくための浴槽は素材をそれにかえることにした。
砂が入らないように蓋もして、穴とパイプを取り付けて隣の浴槽へ流し込むようにする。
あぁ、どうせなら段々畑になるよう、高さ調節でもするか。
親方たちドワーフ族が注文通りの岩を持ってきてくれたら、錬金開始っと。
結局、最初の浴槽の位置から高さを一メートルぐらい上げ、浴槽のサイズも四倍にした。毎日、沈殿作業をさせるのが面倒くさかったしね。
だが、この時の俺の考えは甘かった。
俺ひとりなら四倍のサイズがあれば、三、四日は沈殿作業をせずに済む。俺ひとり……なら。
「ディルムット様。私たちも温泉、入らせてください!」
「マーガレット?」
「温泉でディルムット様のお世話をするようになってからというもの、手がすべすべになったのです!」
「あと足も。温泉がかかっていた部分が、どこもかしこもつるんつるんなんです!」
「それに、日焼けでカサカサしていた肌も、全体的にしっとりするようになったというか」
「お掃除の時にちょっと切った小さな傷も、すっかり治っていたんですよぉ」
ち、治癒効果って、やっぱり治癒そのものなのか!?
でも弱って書いてあったし、日常的な怪我程度なんだろうな。
なら、栄養促進って……飲んだら栄養補給になる? 栄養ドリンク的な?
飲んでみる? 誰も入っていない温泉なら、飲んでもいいだろ。
まぁとりあえず。
「ふっ。温泉の素晴らしさをようやく理解してくれたんだね」
「「はい!」」
彼女らに温泉の素晴らしさを、他の人たちにも伝えてもらおう。
ってことで、大浴場を、イッツァ、錬金!!
とはいえ、今んところは大浴場と小さめのお風呂一個ずつでいいや。
町が完成して向こうに温泉施設作るんだし、凝ったものをここで錬金すると勿体なく思ってしまう。
女性たち用に大浴場と脱衣室、涼める場所も用意。
そこに沈殿後の上澄み湯を流しいれると、昨日から用意した四倍溜め湯がなくなってしまった。
俺が入るための分が……なくなった。
い、いいんだ。成分抽出するからいいんだ。泣いてなんかいないもん!
この一件を境に、入浴希望者があれよあれよと増えて……。
「ディルムット様! これは良い儲けになりますよ! 入館料を取るべきです!」
と、フィッチャーが鼻息を荒くして進言する事態になった。
「カーク卿。多急ぎで【すぱ銭】なるものの建築をお願いします! 数十人規模が同時に入浴できるような、大きなもんをです!」
「建築! 良いだろう。だがどこに建てるつもりだ? 町を移転するのだろう?」
「移転というより、増築みたいなものやから、今ある町の北東に用意してくれたらえんじゃないですかね?」
「北東か。よしわかった。今すぐ設計に取り掛かろう! ところですぱ銭とは?」
フィッチャーとカーク卿が俺を見る。
最初はどうなることかと思ったけど、手のひらクルーが意外と早かった。
ふたりと一緒に、スパ銭計画を開始。
長方形の普通のお風呂。ひょうたんの形をしたもの。打たせ湯。壺湯。
よし、滑り台も付けよう!
いや、それなら温水プールだな。
スパ銭湯併設の温水――温泉プールだ!
泡風呂も欲しいな。風の付与石でどうにかならないかなぁ。
あとロボットも置こうぜ!
そして計画はとんとん表紙に進んでいって、一週間後にはゼナススパ銭オープン!
温泉を町まで送る水道管も錬金し、大量の源泉を溜め湯する設備も完備。
屋敷から近くなったのもあるし、成分抽出しにいくのも面倒ではなくなった。
領民の入館料は半額。それ以外の人はしっかりお金をいただきます!
これで従業員も雇えるってもんだ。
「ディルムット様……なんで半額やねん!?」
「お風呂だぞ? 高かったら誰も入りたがらないよ」
「もっとがっぽり稼がなぁぁぁ」
じゃあ――。
「貴族専用スパ、作っちゃう?」
俺がそう提案すると、フィッチャーの目が輝いた。




