201:この卵が腐ったようなニオイ。
「出たぜ出た出た。出やがったぜ!!」
砂漠の城壁錬金から戻ってきて三日目。今度は親方たちが出た出た言いながら戻って来た。
俺が砂漠で錬金している間もずっと、地下を掘っていたようだ。
「何か良い鉱石でも出ましたか?」
「あぁ、こいつが出たぜ」
そう言って親方が差し出したのは、ちょっと懐かしくも感じる――。
「金鉱石!?」
「あぁ。他にもお馴染みの銀と石英、それと鉛に鉄も出てきてるぜ」
「本当ですか!? これはぜひとも工房を作らねば」
「あぁ、それでちと相談なんだがな」
相談? 親方が相談って、なんだろう。
親方からの相談は、父上殿を交えて行われた。その内容とは――。
「砂漠から町へ向かって地下道を掘る?」
「あぁ。地上を歩くよか、よっぽど涼しいからよ。それに、わしらの居住区と直接繋げちまえば、移動も楽だしな。あと地下道にトロッコも引いて欲しいのよ」
「じゃあ今の居住区に工房を?」
「あぁ。つっても火を使うからな、崖沿いに用意しようと思ってんだ」
煙が出るからね。あんまりその煙を吸わない方がいいし。
相談っていうのは、まぁ一応領主に許可を貰っておこうかってのと、新しく作っている町の方へは、ドワーフ族は移らないってことだ。そっちへ移ってしまうと、砂漠から離れてしまうからね。まぁ距離にして五百メートルかそこらなんだけど。
「わかりました、親方。あなた方の過ごしやすいようにしてください。入用なものがあれば仰っていただければご用意しますので」
「あぁ、感謝するぜ、旦那」
「感謝だなんて、とんでもない。これでまたゼナスが潤いますから」
「がっはっはっは。金だけはいっぱいあるからなぁ、ここは」
まったくだ。
不毛の地と呼ばれたこのゼナスでは、お金はいっぱい生るんだよなぁ。
とはいえ、野菜も必要最小限の実りを得ることができ始めたし、お金以外の面でも豊かになってきたよな。手に職を持つ領民の育成も始めたし、ここは暑いだけの豊かな領地になるぞぉ!
そう、思っていたのにだ。
金鉱石が出てきたって親方が報告に来たのは一昨日のこと。そして今日――。
「大変だぜ、坊! また出るかもしれねぇ!!」
「また? いったい何がまたなんですか」
血相を変えてやってきた親方は、大袈裟ともとれるリアクションで項垂れた。
そしてぽつりと吐き捨てる。
「水だ……」
「え、水って……地下水脈!?」
「あぁ。もしかすると山から砂漠の方のオアシスに水を流しているヤツかもしれん。掘り進めてたらな、壁が湿ってきたんだ」
ということは、まだ水が漏れてきているわけじゃない?
「お前さん、魔法陣を壁ん中に差し込めるだろう?」
「えぇ、まぁ。最初から壁の中で展開はできませんが、目視できる範囲に展開して、その一部が壁の中に入ってても問題ないですし」
「だからよ、湿った壁ん中に魔法陣を差し込んで、見てくれねぇか」
あぁ、なるほど。直径五十メートルの魔法陣だ。一部は壁から出しておかないと、全部壁に埋めてしまうとプツンと消えてしまう。でも通路に一部でも出していれば展開できるから、魔法陣で壁の中の成分鑑定をするんだな。
親方に案内してもらって砂ブロックから階段を使って地下へ。
お、もう町の方へ向かって穴を掘り進めているんだな。俺が錬金で穴を開けて行けばすぐだけど、掘削が大好きなドワーフから楽しみを奪ってもいけないしね。
さて、問題の湿った壁は……う、なんだここ。凄く湿気が多いんだけど。しかも暑い。
「親方。地下の方が涼しいんじゃないんですか?」
「そのはずだったんだがな……」
もしかして気づかないうちに地表に近づいてた?
いや、それならまず、砂が出てくるはず。ここはちゃんと硬い岩盤地帯で、砂の層よりずっと下だ。
それになんだ、このニオイ。なんか腐ったようなニオイがするぞ。
「とにかく成分を鑑定してみます。錬金魔法――」
展開された魔法陣のほとんどは壁の中だ。
さてさて、奥に地下水道でもあるのかな?
ん? 成分の中に見覚えのある奴が……硫黄って、まさか!?
そうだ、この卵が腐ったようなニオイ。
これ、温泉じゃないのか!?
だとしたら、この先に温泉が流れている? もしくは溜まって……。
「まずい。親方、ここは封鎖します」
「水か? やっぱりあんのか」
「水と言うより、お湯ですよ、お湯!」
万が一にも決壊してはいけないし、岩ブロックで通路を完全に塞いだ。
まさか温泉が流れていたなんて……。
もしかして東西の山って、活火山だったのか!?




