200:野菜、いっぱい食べようっと。
「エヴァアァァァァァァァ。寂しかったよおぉぉぉぉぉぉ」
「お父様!? は、恥ずかしいから、そんなに大きな声を出さないでください!」
ゼナスへ戻って来たのは出発してからちょうど一ヵ月後。
どうやら俺たちの乗る砂船が見えてすぐ、騎士がヴァルドリヒ公爵に伝えたようで。
下船して、屋敷まで徒歩で戻る頃には、新旧の公爵様がお越しになっていた。
「じぃじも寂しかったぞおぉぉぉぉぉぉ」
「も、もう! おじい様まで。恥ずかしいからやめてください!」
そういいつつ、エヴァの顔は笑っている。本当は嬉しいんだよね。
「兄上は寂しかったですか?」
「ん? お兄ちゃんが寂しかったかって? はっは。ジーク君。お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ。一カ月ぐらい、どうってことないさ」
「というか、兄様はこれまでも一カ月ぐらい、しょっちゅういなくなってたし」
「いや、いなくなってたわけじゃなくって」
「それもそうだね。あ、兄上。ドールハウスの売り上げは順調ですので、追加のハウスをお願いしますね。それと土を均す作業も終わっています。カーク様の模型も完成していますので、町づくりを本格化したいそうですよ」
「あ、うん。あとでカーク卿のところ行ってくるよ」
「うわあぁぁぁぁぁぁん。エヴァアァァァァァァァァァ」
あっちとこっちで、温度差が全然違う。
なんだろう、ちょっとエヴァが羨ましくもあるな。
「おかえりなさい、ディル。お風呂を入れてもらっているから、ゆっくり入ってきなさい。その間に食事の用意もしておくから」
「母上……ありがとうございます」
「今日はお前が大好きなメニューを取り揃えたよ」
「父上! うぅ、ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ふふ。やっぱり父上殿と母上は俺を大切にしてくれているんだ。
エヴァが羨ましいなんて言って、ごめんなさい。
もちろん、風呂は俺のためだけに用意されたわけじゃない。
屋敷内にある大浴場ではロバート卿や他の船員たちも入り、俺とエヴァはひとり用の豪華浴槽だ。
もちろん、男女別だぞ!
あぁ、でも生き返るなぁ。
そりゃ砂漠に行ってた間も、風呂は用意してたけどさ。でも、ゆったり寛げる環境じゃなかったんだ。船上じゃなく砂漠の上に石風呂を設置したから、気を抜くとモンスターが寄って来てさ。
風呂自体は砂ブロックで囲って安全を確保していたけど、上がったそばからモンスターが来てまた砂まみれ……そんなのが一カ月も続いたんだ。
こうしてモンスターの襲撃に悩まされることなく、ゆっくり足を延ばせるなんて……あぁ、なんて幸せなんだ。
風呂上りには夕食も用意されているし。あぁ、一ヵ月ぶりに砂を食べずに済むな。
どうしても砂漠での食事は、ちょっと風が吹いただけで砂が料理についちゃってさぁ。
重量の関係で船室も作れなかったし。
まぁ幌をかぶせて日除けは作ってたけどさ。
さぁ、体も擦ったし髪もあらったし!
ふやける前にあがろうっと。
エヴァが上がって来るのを待ってから、待ちに待った夕食の時間だ。
今日は新旧の公爵様もご一緒だ。
エーリヒ様がこの場にいないってことは、もしかして領主としての仕事を任せてきてるとか?
おかわいそうなエーリヒ様……。
ま、それはそれ、これはこれ。
夕食を楽しもうじゃない……か……。
めちゃくちゃ楽しみにして食堂の扉を開くと、テーブルに並んだ見覚えしかないものが目に入った。
蟹……いや違う。蟹味のサソリだ。
この一ヵ月、毎日見ていたあいつだ!!!
「ディルの大好物ですものね」
「そろそろ戻ってくる頃だろうって、キース卿とウェイド卿が獲ってきてくれたんだよ」
「そ、そうなんですね。わぁ、嬉しいなぁ」
キース卿、ウェイド卿……できれば砂漠の方じゃなくって、山の方へ狩りに行ってほしかったなぁ。
俺、この一ヵ月で蟹嫌いになったかも。
野菜、いっぱい食べようっと。




