199:やっぱり守られ役だよな?
「自然の要塞だな、あれは」
南の蛮族の支配領域は、遠目からだと切り立った断崖絶壁しか見えなかった。その標高はゼナスの東西にある山より圧倒的に高い。
望遠鏡で確認すると、断崖絶壁には奥へと続く渓谷があった。
ゼナスよりも狭い。多分幅は数百メートルしかないんじゃないかな。
「じゃ、まずは地下を固めて行こうか」
「城壁は錬金しないのですか?」
「明るいうちはね。望遠鏡でなんとか見える程度の距離だけど、地表に城壁を錬金してたら、さすがに見つかるかもしれないしさ」
それでも念のため移動することにした。
たぶんこの船にマストがあったら、見つかってしまうかもしれない。あと船の色だ。砂漠にカモフラージュできるよう、船体の色を似せている。
それでも念には念をだ。
蛮族が北上するなら、あの渓谷から出入りしているはずだろう。山はゼナスみたいに、スパッと切り落としたような断崖絶壁だ。しかもかなり高い位置までそうなっている。
奴らの出入り口があそこにしかないのなら、あの渓谷を楕円形に囲ってしまえばいい。
「ディルムット殿。あの渓谷は東にもう一つある」
「二カ所ですか。まぁそこを塞げばいいわけですね。いっそ渓谷を塞ぐことができればいいのですが。近づけますか?」
「いや、止めた方がいい。ワームを飼育するならあの辺りだろうし、蛮族が常駐しているだろう」
「さすがにひとり、ふたりではありますまい」
オルマンさんとロバート卿が揃って首を振る。
無理はしないでおこう。
「じゃ、当初の予定通り」
奴らの目の届かない、渓谷から遠く離れた山沿いから始めていきますか。
「錬金魔法!」
「お、思ったよりも砂が足りない」
いや、考えればわかることだ。
バケツ一杯の砂を錬金で圧縮してブロックにする。圧縮するのだから、バケツより小さくなるのは当然だ。
砂の下の部分に錬金する壁は、そこにある砂で作るつもりだった。
実際にやってみると、結構圧縮されて周囲より低い位置に完成してしまう。そして周りの砂がザァーっと流れ込んでくる。
「そうだ。オルマンさん。砂船を反転させていただけませんか? 風の付与石の力で、向こう側にある砂を飛ばして、こっちに持ってきたいんです」
「了解。砂ならいくらでもありますからな」
船尾に取り付けた風の付与魔石を使えば、砂をどんどん飛ばせる。ついでに俺の魔法陣で砂を一時保存をしてブロックにしておこう。
ある程度、砂を飛ばしたら作業再開。
今度は圧縮錬金と同時に、ストックしてある砂ブロックを上に乗せて高さ調節をしていく。
四、五百メートル錬金したら休憩だ。暑くてこれ以上の連続作業は無理!
俺がせっせと錬金している間、エヴァは何をしているかというと……。
「砂漠のモンスターは硬い奴らが多いのが特徴です。サソリなどはその最たるもので、ほぼ全身が硬い外骨格で覆われております」
「はいっ」
「そのようなモンスターを倒す際は、関節を狙います。大型であれば顎下に潜り込むようにして飛び込み、前体、もしくは中体の底面に集中している足の付け根の関節を狙うのです」
「わかりました、先生!」
ロバート卿とサソリを虐めていた。
そのサソリは今晩のおかずになる予定です。
頼もしいね!
うおぉぉ、ヤベェ。俺も後れを取らないよう、鍛えないと。
でもこれ以上、鍛錬に割く時間は確保できないし……。
もう、諦めた方がいいのか?
俺、守られる役に徹した方が世界は上手くまわる?
そんな感じで数日かけて休憩と錬金とを繰り返し、渓谷から離れている付近では地表にも壁を作った。
だんだん作業が進んでいくと渓谷に近づき、そうしたらいったん止めて東ルートに回る。
最終的には夜の間に一気に錬金をして壁を繋げて完成。
東側の渓谷も同じように封鎖しするために移動を開始して気づいた。
砂漠の砂を固めてブロックにしているだけあって、結構遠目から見ると、砂漠と壁の区別がつかない。
砂漠の表面からそびえたつ壁ではあるんだけど、わかんないよな。
じゃあ、ちょっと手を加えて……。
壁の高さは二百メートルだ。直径五十メートルの魔法陣四つ分の高さだからね。
その頂上は真っ直ぐ一直線にせず、遠くから砂漠を見たような山あり谷ありにしてみた。
「じゃ、東の渓谷も同じように封鎖しようか」
「はい! サソリも飽きてきましたし、別のモンスターがいるといいのですが」
「バジリスクなどいるといいですね」
「バジリスク!? いいですね、先生!」
俺、やっぱり守られ役だよな?




