197:南の蛮族。
「貴重な雌が死んでしまった!」
「クソ! 王国を襲って混乱させる手筈じゃなかったのか!?」
「いったどうやって砂漠に巨大な棘罠を仕掛けたんだ!」
ゼナスの南方、巨大な砂漠の更に南に蛮族が支配する国があった。国といっても人間の国のように法と秩序があるわけではない。
強いものこそ正義。強いものが王。ただそれだけなのだ。
蛮族の寿命は人間よりも長く、エルフよりは短い。平均すれば三百歳ぐらい。
外見は人に近いがその体躯はデカく、大きな者だと三メートルを超える。そして特徴的なのは角だ。
先祖はオーガではと言う学者もいる。
だがオーガと決定的な違いがあった。
知能が高いのだ。
蛮族の半数は魔法を使える。むしろ全員といってもいいのだが、半数は攻撃手段として使うには貧相なもの。だが半数は【攻撃手段として使える火力】を持ち合わせていると言ってもいい。
しかし魔法が使えるからといって肉体的に貧相というわけではない。
パワーもあり、魔法も使う。
そんな蛮族が群れを成せばどうなるか……。
「北の奴らは何をやっているのだ!」
「まさかオルフォンス王国に敗れたのか?」
「だから人間を利用するのは止めろと言ったんだ。どうせ奴が、オルフォンス王の弟がしくじったのだろう」
まさにその通りなのだが、既に王国襲撃から半年以上経過しているのだが、南北に分かれた蛮族同士での連絡の取り合いが難しい状況だった。
蛮族が支配する土地は大陸最南端。彼らの生息圏である国はゼナスの東西に延びる山々よりも険しく、その標高は五千メートルを超えていた。
いかに蛮族とて山越えは難しく、わずかに開かれた北の、砂漠に面した渓谷から出入りするしかなかった。
渓谷を超えれば砂漠だ。
蛮族とて、砂漠超えは命がけ。ワームがいなければ道半ばで干からびるだろう。
北の蛮族と連絡を取り合ったのは一年以上も前。
時期を決め、北の蛮族と彼らが手を組んだ王弟が王国を襲撃。その混乱に乗じて砂漠を超え、オルフォンス王国を拠点に大陸全土を支配する――はずだった。
「養殖中の奴が次の性転換するのはいつだ?」
「少なくとも一年は先だ。それとて、性転換するかどうか保証はない」
「一頭でも雌に性転換すればいいが。その時には絶対に動かせないぞ」
「あぁ。少なくとも雌は三頭欲しい。そのうえ交配させ、数を増やさねば」
ワームは生まれた時には雄で、性転換することで雌となる。だがワームが性転換する時期は決まっていて、その時に性転換するかどうかもわからない。
雌がいればそこで初めて雄を交配し、卵を産む。その数は数百産むが、やはり全て雄だ。
雌と出会わないまま、その一生を終えるワームは少なくない。
蛮族はそんなワームを飼いならすため、雌に性転換したワームをなんととしてでも手に入れたいのだ。
ようやく性転換した雌を手に入れ、雄のワームを集めるために砂漠へ向かわせたのだが……。
雌のワームも、そのワームを使役していたワーム使いも戻ってこなかった。
見つかったのは雌ワームの残骸。
そのショックは大きかった。
「もういい! 北の奴らと呼吸を合わせることが、そもそも不可能なのだ!」
「あぁ、その通りだ。国の一つも落とせず、帰還すらできないような弱者など、あてにはできん!」
蛮族はこれまで幾度となく、大陸を支配しようと戦を仕掛けてきたことがあった。
オルフォンス王国建国よりも前、約六百年前にもだ。
結局彼らは夢半ばにして撤退を余儀なくされたのだが、その際、南にではなく北へ逃れた蛮族たちもいた。それが今、オルフォンス王国の北にそびえ経つ山脈に生息する蛮族たちだ。
南の蛮族は北の蛮族を弱者と呼ぶ。
ちなみに北の蛮族は南の蛮族を「さっさと巣に引き籠った軟弱者」と呼んでいる。
「オレたちはオレたちだけで大陸を支配する!」
「そうだ!!」
「そのためにも雌だ。雌のワームだ!」
性転換のチャンスが訪れる時期まで一年。
それまでせっせとワームの餌となるモンスターを狩る日々が続く。




