190:気を引き締めていかねば。
「うあぁ、なんか緊張する」
「やめてよ、兄さま。そんなこと言われたら、私まで緊張するじゃない」
「忘れ物ありませんよね? 大丈夫ですよね?」
兄弟揃ってそわそわしている。そんな様子を側で父上殿と母上が見て笑っていた。
「昨日からずっと確認をしていただろう? 大丈夫さ」
「そうよ。それに万が一忘れ物があったとしても、取りに戻ればいいだけよ。転送で一瞬なんだもの」
「ま、まぁそうなのですが。あぁ……王族の誕生日パーティーにお呼ばれする日がくるなんて」
そう。今日は王妃様の誕生日パーティーが開催される。
多くの貴族が参加すると言っても、全員じゃない。だいたい三割ぐらいらしい。
元は男爵家だった俺たちが、パーティーに誘われることはなかった。
まぁ理由の一つは、辺境から王都までが非常に遠いからというのもあったけどね。
それが転送の魔導具によって問題解決したから、こうして呼ばれるようになったのだろう。
でも、貴族として王族の誕生日パーティーに呼ばれるということは、物凄く名誉なことだ。
「ディル様」
聞きなれた声に振り向くと、エヴァとエーリヒ様がこちらへやって来るのが見えた。後ろにはヴァルドリヒ様もいるが、前公爵様はいらっしゃらない。
現役の宰相だし、会場スタッフ側の人間なんだろうな。
あぁ、それにしても……エヴァはやっぱりかわいい。
白と、薄い赤。二色を基調にしたドレスだ。髪と、瞳の色に合わせられていて、凄く似合っている。
ティファニーは淡いオレンジ色のドレスで、こちらもかわいい。
俺の婚約者と妹、マジかわいい。
「ディル様、王妃様に頼まれたのでしょう?」
「あ、うん。エヴァにプレゼントしたのを見て、欲しくなったみたいでね」
「ふふ。王妃様、私のお部屋まで来たんですよ。羨ましい、羨ましいって」
「でもどこで君のドールハウスの話が出たんだろう?」
そう言うと、エヴァが後ろのエーリヒ様を見た。そのエーリヒ様は苦笑いを浮かべている。
「いや、リネージュに話をしたんだけどね。そのリネージュから王妃様に伝わったようなんだ」
「なるほど。でも、それって親子仲が良いってことですね」
恋人から聞いた話を母親に聞かせるって、仲がよくなければしないだろうし。
王族の仲がいいっていうのは、良いことだと思う。
「子供たちよ、そろそろ会場が開く。控えの間へ移動するぞ」
「はい、お父様。ディル様、行きましょう」
「え、いや俺たちは――」
こういったパーティーは、一斉にどばぁーっと雪崩れ込むわけじゃない。それぞれ呼ばれた家門から入るのだが、爵位が下だったり、国への貢献度が低い――つまり税収の少ない貴族から呼ばれるものだ。
しかも一番最初は複数人同時に呼ばれるらしい。誰が一番下か――というのを悟らせないために。
「シュパンベルク辺境伯家が最初の方に呼ばれると思っているのか。侯爵家と並ぶ地位だというのに」
「あ……そ、そうでした」
「お父様、そんな意地悪な言い方しなくてもいいじゃないですか」
「エ、エヴァ……い、いや、意地悪なんて言ってないぞ、な、なぁ、ディルムット。シュパンベルク家は税収の面でも優れておるのだ。王国にとってなくてはならぬ家門に成長したのだよ」
そういってヴァルドリヒ様が目配せをする。相変わらず、娘の尻に敷かれているなぁ。
今日は奥様もご一緒だ。エヴァの髪色や瞳の色はヴァルドリヒ様と同じだけど、顔立ちは奥様に似たんだろう。奥様は柔らかい印象の優しいお顔立ちだし。
「いまだに男爵家だった頃のことが抜けないから、ヴァルドリヒ様が教えてくださったんだよ。意地悪なんてとんでもない」
「むふぅ。そうかしらぁ」
「そ、そうだぞエヴァ。父はまったく、意地悪はしていない」
俺もうんうんと頷いて見せると、エヴァは溜息を吐いて「そういうことにしてあげる」と。
強い。
公爵家についていって控えの間で待っていると、続々と上級貴族様がくるわくるわ。
しかし、王弟の件もあって伯爵侯爵家の数が減っている。まぁ減ったからって補充されるわけじゃない。決まった数の家門がいなきゃならないわけではないからね。
パーティー会場の大ホールから、名前を呼ぶ声が聞こえてくる。今は伯爵あたりみたいだ。
そしてついに、この控室にも案内の従者に呼ばれる家門が現れた。
うちが最初じゃなかったのか。
ここには侯爵家と公爵家、それからシュパンベルク家と新しく北の辺境伯となったベリエンシャ辺境伯がいる。このベルエンシャ家は元々ハルテリウスと並ぶ公爵家だ。
そのベリエンシャ公爵からも、何故か笑顔を送られた。
どうやら間接的とはいえ、実弟に辺境伯の爵位が送られたのは、シュパンベルク家のおかげだと思っている。前にそう、ヴァルドリヒ様に教えてもらった。だから好意的なのかもしれない。
それにベリエンシャ辺境伯からも好感を持たれているようで嬉しい。北部の守備隊詰め所や宿舎、領主の屋敷と、錬金で寒さ対策もしてある。兵士や騎士からも評判がいいようで、そういう点でも辺境伯から評価されているのだろうな。
「って気付いたら侯爵家の方が誰もいない!?」
え……侯爵家より上にいっちゃってる?
そうして従者がようやく俺たちを呼んだ。しかもベリエンシャ辺境伯と同時に。
これは両辺境伯に差はないというアピールなのだろう。
ベリエンシャ辺境伯は、ベリエンシャ公爵の実弟であり王家とも遠縁にあたる。
そんな貴族と同等に扱われるなんて……嬉しいを通り越して驚き、更に通り越してちょっと怖い。
き、気を引き締めていかねば。




