180:あと一カ月、頑張るぞ!
「大岩から砂漠を南北に罠を埋めるだぁ? まったく、なんてこと考えやがるんだ、お前ぇはよ」
ゼナスに入港した砂船の中で一番速度の速いものに乗り込んだ。まぁその船ってのが、キャット・ルー族の族長の船なんだけどね。
この船では人命救助はせず、まずは大岩を目指す。乗船者数も必要最小限にしたため、その速度はかなりのものだ。三日で大岩に到着すると、そこから真っ直ぐ西へ向かって移動する。
といっても、錬金しながらなので今度はスピードを出せない。
「錬金魔法――ほりゃ!」
ゼナスで岩を補充してきた。西側の崖沿いを更に西へ少し進むと、南にせり出した場所がある。そのせり出した部分を削り取るように、岩をストックした。
それを縦横三メートルのブロックに錬成して砂の下に落としていく。ずぶずぶずぶずぶと、十八メートルほど沈めた所で岩盤に当たる感触が脳裏に情報として流れ込んできた。
「結構深いなぁ」
「何言ってんだ。この辺りはまだ砂が浅い方だぜ」
族長が言う通り、前方には砂の山が見える。あの辺りは五十メートルとかなりそうだ。
岩、足りるかな。
城壁を砂の中に向かって錬金する。
でもこれには難点があった。
砂の中を移動するといっても、砂から出られない訳じゃない。
砂の表面をうねうね移動することはできるし、魚が水面を飛び跳ねるように、奴ら砂から勢いよく飛び出すことだってできる。そして弧を描く様にしてまた砂に潜るから、城壁を横一直線に沈めたとしても、易々と飛び越えられるだろう。
じゃあどうするか。
そこで考えたのがこれだ。
「じゃ、もう一回錬金っと。成形――トゲトゲ金平糖!」
イメージとしては機雷だ。めちゃくちゃ鋭利なトゲトゲ金平糖を、砂の中に錬金する。大量にだ。
いくら砂から飛び出て弧を描けるといっても、全身が砂から飛び出るほど跳ねることはできない。ワームをよく目にしているっていう砂漠の民でも、いいとこ十五メートル先に着地するぐらいだって。
そこで俺は、厚さ三メートルの城壁を錬金して埋めたその北側に、幅二十メートル渡って機雷を砂の中にばら撒いた。
どんどん。どんどんどんどん。どんどんどんどんどどんどん。
数日かけて城壁と機雷を砂に埋め、ストックが尽きれば北上して岩山を削る。
岩を補充して目印にした砂上の柱まで戻ったら再スタート。
どんどん。どんどんどんどん。
大岩から西を終え、ゼナスへと戻って来たのは一ヵ月後だった。
あ、あと東ルート、だ……。
幸い、奴らの姿は見ていない。このまま何事もなく終わってくれればいいんだけどな。
まぁ、本当に終わるのは南の蛮族を殲滅できたときだろうな。
「日焼け、されましたか?」
「あ、はは。わかる? 一カ月、ずっと砂船の上に居たら焼けちゃって」
岩の補充と、さすがに一カ月ずっと砂船の上で船員も疲れ切っていた。三日は陸の上で休むことにして、今日はエヴァが来てくれた。
急に砂漠へ行ったのもあって、彼女は心配してくれていたようだ。
「砂漠……蛮族がいるのでしょう? 危険ではないのですか?」
「蛮族は砂漠に生息しているわけではなく、もっと南の荒野だ。この国に進行するためには、どうしても砂漠を横断しないといけなってだけで」
蛮族も生き物だ。奴らも食料や水を必要とする。徒歩で砂漠を横断するとなると、大量の水が必要だ。
それ以上に厳しいのが体重。
蛮族は大きい。大きいから重い。重いと砂に足が取られて歩きにくい。
「だから蛮族は自らの足で砂漠を横断できないそうなんだよ」
「まぁ。重いと砂漠を歩けないなんて、思いませんでした」
「聞いたときには俺もちょっと笑っちゃった」
だから移動用ワームは必須なんだと。
ちなみに、もし砂漠の民の砂船が盗まれたらどうなるか……。あれもまぁね、重くなり過ぎると浮かなくなるからさ。
「あ、そうだ。ディル様が出発した二日後に遊びに来て、砂漠へワーム対策をしに行かれたと聞き、何かお手伝いできないかとお兄様とお話したのですが……これ」
「これ……魔石かい?」
「はい。黄色いのはお兄様の雷が付与された石で、真っ白なのはお父様の氷です。あと、少ししかないのですが、この薄い緑色のは」
「風だね。誰か用意してくれたの?」
そう尋ねると、エヴァはおずおずと自ら指さした。
「エ、エヴァが!? 魔法、使えるようになったのかい?」
「が、頑張って学びました。ちょこっと驚かせる程度の風しか、出せませんが」
「凄いよ、エヴァ。ありがとう。機雷の中に魔石付きのものも埋めておくよ」
小指の先ほどの小さな魔石だけど、砂の中で魔法を喰らえば驚くだろう。
よし。あと一カ月、頑張るぞ!




