176:そういう映画、見たなぁ~。
「地盤の上に穴の空いた岩を乗せ、その中に水を流すのですか。はぁ……普通はそんなこと、考えませんぞ」
ん? それは俺が普通じゃないっていいたいのかな、アスデローペ卿。
すっかり忘れていた誕生日を終えた三日後、アスデローペ卿が定期来訪したので例の岩水道管の話をして、積もった砂の量が比較的少ない地帯を教えてほしい……と頼んだら、「じゃあ行きましょう」と言われ、今、砂船に乗っている。
手始めに一番近いキャット・ルー族の里までのルートを進むことになった。
いいルートを見つければ、帰りのルートで岩ブロックを設置していく。ただ岩のストックが足りなくなるだろうなぁ。その時にはなくなる前に岩の柱をびよ~んと伸ばして目印にする。
まっすぐではなく、やや西に迂回するような形でキャット・ルー族の里へ……。
里へ、向かう途中だった。
「船長、前方に砂煙発見!」
そんな声がマストの上の見張り台から聞こえたかと思うと、甲板上の人たちが慌ただしく動き出す。
「アスデローペ卿、砂煙って?」
「おそらくワームでしょう。ディルムット殿、申し訳ないがルートを変更しますぞ。砂船で振り切る!」
「振り切れるんですか!?」
「はっはっは。安心めされよ。ワームは見た目に反して確かに移動速度が早い。徒歩で逃げれば確実に追いつかれますな。しかし砂船には敵わんのですぞ」
それを聞いて安心した。ワームって巨大ミミズだし、あんなのに食べられたくない。
「船長! に、西と東からも砂煙が!」
「こいつぁ、一体や二体じゃありませんぜ」
「ちっ。急速反転する。全員、しがみつけ!!」
え? ちょ、何この急展開!?
こういう時って、来るよね? 絶対くるだろ、後ろからも!
「後ろにもワームが現れやがった!」
ほら来た! 誰だよフラグ立てたの!
俺か?
「船を泊めろ! 総員、戦闘準備!」
「ディルムット殿、船室へ!」
「下にですか? いえ、ここにいます。下にいようとここにいようと、変わりませんから。それに」
一時保存した岩ならいくらでもある。これをタイミングよく、奴らの体の上に落とせれば。
錬金の魔法陣は、何も俺の手の届く範囲にしか展開できないわけじゃない。
俺の手の届かない、自分を中心に半径五十メートルの範囲内に魔法陣の中心が入れば展開できるようになっていた。
魔法陣の直径は五十メートル、半径なら二十五メートル。どうもこれが最大幅らしい。
つまり二十五メートル向こう側に魔法陣を展開できるってことだ。
「奴ら、今どのあたりですか!?」
近くの船員に尋ねたが、砂に潜ってしまってわからないらしい。
ただ。
「南の方、一体だけ砂から出ている小せぇのがいるな。そいつの背に人が乗ってるみたいだが、人型に見えるだけで人間じゃねえな」
それを聞いて思い出すのは蛮族だ。そしてワームを飼いならしているのも蛮族。
まさか飼いならしが完了したのか!?
この先にはキャット・ルー族の里が……まさか!?
「左手前方!!」
ハッとなって視線を向けると、砂が空へと舞いあがっていた。まるでクジラの潮吹きみたいに、上がっているのは砂だ。
ミミズ……ミミズの分際で!!
「錬金魔法!」
展開範囲ギリギリの所で魔法陣を出す。
あぁ、クソ。また潜りやがったか!?
あいつら、砂の中を泳ぐみたいにして進みやがるから、潜られるとどこに移動したのかわからな……いや、奴らが向かおうとしている場所ならわなる。
ここだ。
砂の中は進める。でも硬い土の中は進めない。だったら、こうすればいいんじゃね?
展開したままの魔法陣を動かし、砂の表面へ。錬金するのは――石の柱!
一瞬見えたワームは、太さが五、六メートルぐらいあった。あいつらと同じぐらいの太さの円柱を、砂の上に展開した魔法陣から突き刺す!
魔法陣の上に向かってズモモモモモと生えさせるんじゃなく、下に向かってズモモモモモモと沈めていく。
少しだけ隙間を空けて二本目をズモモモモモモモ。三本目、四本目。
「お、おい、アスデローペ卿。あの坊ちゃんは何やってんだ?」
「さ、さぁ。だが考えがあってのこ――」
アスデローペ卿の声が終わる前に、ズガァァァンッと物凄い音がして柱が揺れた。
「おっしゃー! これで止めだっ」
揺れた柱の向こう側で、今度は先端が尖った石の杭を魔法陣から射出する。
ブチャッと、あまり迫力のない音がしたけど、砂から紫色の液体が噴き出た。
「「いよっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!」」
おっし。まずは一体。
同じように船をぐるっと囲むようにして石の柱を立てていく。
二体を同じように始末した後、ワームが襲ってこなくなった。残りは蛮族が乗っている個体だけ?
「船長、ワームはもういなくなりましたか?」
「いや、いるな。ただ突っ込めばやられることを理解したんだろう」
「俺たちもここから動けないとなると、そのうち食料が尽きてしまう。そうなる前に動くしかねえが、奴らはそれを待つつもりなんですよ」
「ふぅん。あいつらってもしかして、砂の上を動く振動や音に反応しているとか?」
「振動ですぜ。砂ん中を移動するんで、目と耳は退化しちまってんでさ」
そういう映画、見たなぁ~。
じゃあやることは簡単だ。
「錬金魔法――みなさん、この石をあの柱にぶつけてください」
ストックしてある石を投げやすいサイズに錬成して、大量に置く。
船員が首を傾げつつも、次々と石を投げては柱に命中させていった。その結果、石が柱に当たる振動が砂を通してワームへと届く。
で、おバカなワームは「かかったな人間め! 食べてやる~」と出てくる。
そこへ。
「錬金魔法――ほいっ」
モグラ叩きのように石杭を落として潰すだけ。そうして五体ほど潰したところで――。
「奴ら逃げていくぜ、船長!」
蛮族が乗るワームが、南西方向へと逃げて行った。




