175:さぁ、食うぞおおぉぉ!
「ディル様。おはようございます」
「お、おはよう、エヴァ。あの、これは……」
な、なんでエヴァがもうゼナスに?
朝からまた、あれこれ注文されて錬金し、昼食前に少しでも会場準備をと思っていたのに。双子にせかされてやってきたのはその会場。
そして目の前にはエヴァがいて……ど、どういうこと。
なんで俺、囲まれてる?
かごめかごめ? あ、懐かしいな。やったことないけど。
「お、驚いていますよね?」
「そ、そうだね、少し」
嘘ですめちゃくちゃ驚いています。
「あ、あの。私がみなさんにお願いしたんです。ディル様を驚かせたいからって」
「そ、そんなんですか。さ、作戦成功ですね」
「ふふ、はい」
満面の笑みを浮かべるエヴァを見たら、驚いてよかったと思う。うん……でもなんで?
「エヴァンゼリン様。おそらく坊っちゃんはまだ気付いておりません。坊っちゃんのアレということを」
アレ?
「まぁ! 本当なのですか、ディル様?」
「え? い、いや、アレだよね。うん、わかってるよ。アレね。アレ……」
「「はぁ……」」
ちょ! 周りで一斉に溜息吐くのやめてくれる?
「ふふふ。コレですよ、ディル様」
「こ、これ?」
そう言ってエヴァが後ろ手に隠していたものを差し出した。
青い包装紙に包まれた箱。
んん?
「ディル様。お誕生日、おめでとうございます」
「た…………え? たん……え?」
「「はぁ……」」
誕生日……俺の?
「えっと、今日って何月何日でしたっけ?」
「今日は六の月の十四日ですよ」
「おお! まさに俺の誕生日! え、もうそんな日?」
まだ四月ぐらいだと思ってた……。あの正月祭りからもう半年? 早くない?
「おいおい。ボケるには早すぎんだろ。えぇっと、何歳だ?」
「親方、ボケるには早すぎですぜ。坊は今日で十四歳ですよ」
「うるせえ! お前ぇは一言多いんだよ」
十四歳……つまりえっと……三十四で死んだから……四十八……おっさんになったなぁ。
いや、もう前世の年齢を上乗せするのは止めよう。虚しくなる。
「もう六の月になっていたのには気づきませんでした。いや、ほら、ここってずっと暑いからさ、季節感ないんですよね」
「あぁ、そうですね。ふふ。毎日しっかりとカレンダーを確認しないといけませんね」
カレンダーか。カレンダー……部屋にはあるんだけどね。
「あの、これ開けても?」
「ひゃい! は、はい。どどど、どうぞ」
「は、恥ずかしいようでしたら、その……」
だってこのままじゃ、公開処刑ものだし。
だけどエヴァは首を振って「どうぞ」と言った。
じゃ、じゃあ開けるか。
……………………。
「ってかこんなに見られたら俺が緊張するんだけど!」
「頑張って、兄さま」
「諦めましょう、兄上」
他人事だと思ってぇ。あぁ、父上殿なんてにこにこだし。微笑ましい光景じゃないからね、これ。
はぁ……もういいよ。開けてやるよ!
箱の裏側から青い包装紙をべりってやると、まぁた一斉に溜息が漏れた。
あ、圧……え? 何? 身ぶり手ぶりでみんなが何かを伝えようとしている。
え? やぶる、な?
はぁ……わかったよ。丁寧に剥がせってんだろ。まったくもう。
ビリっとしたところから、今度は丁寧に剥がしていく。周りが頷く。
なんかじんわり汗ばむな。
やたら時間をかけて剥がした包装紙を、いつの間にか待機していたマーガレットが受け取る。
もしかしてそれ、綺麗にしてとっとけってこと?
ま、まぁいいや。
箱の中身は……これってカフスボタン?
オレンジ色した宝石が嵌め込まれている。
「お父様とお祖父様に手伝ってもらい、ディル様の瞳と同じ琥珀色のものを探していたんです」
「俺と同じ? わざわざその色で作ってもらったんだ。へぇ、綺麗だなぁ。何て名前の宝石なんだい?」
「はい。オレンジダイヤモンドです」
「へぇ、オレンジダイヤ……ダイヤモンド!?」
え、待って。ダイヤモンド? オレンジダイヤモンド?
ダイヤモンドが高価ってぐらいは知ってる。この世界でもそれは同じ。
ただのダイヤモンドじゃなく、オレンジ? さ、流石に知らないけど、色がついてたら価値は高いのかな?
こ、怖くていけない。
「い、色付きのダイヤモンドなんて、たぶん初めてみました」
「私はピンクを見たことがありますが、オレンジは初めてです。珍しいって、お祖父様も言ってました」
にこにこ顔で言ってるけど、もしかしてこれ、凄いもの?
チラりとドワーフの親方を見ると、その目が輝いていた。
ドワーフも虜にするオレンジダイヤモンド……マジか……。
そんな希少なものを俺のために。
「ありがとう、エヴァ。大事にするよ」
「大事にしまい込まないでくださいね。使って頂きたいもの」
「うん、わかったよ」
エヴァと会う時や王宮へ行く時に着けよう。
「それじゃあ、ディルムッドの誕生日祝はここまでにして」
え、父上殿。こ、ここまで?
「ここからは騎士団の歓迎会といこうか」
「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
俺の誕生日、あっさり終わってしまった……。
ま、いいか。
朝食の量がいつもより少なかったのは、この為だったのかな。
さぁ、食うぞおおぉぉ!




