116:戻ったら殺されるかも。
転送の魔導具はふたつで対となる。
なら、対となる方も解析しなきゃいけない。
「どこかの転送先を見たいのですが、可能ですか?」
「よかろう。公爵邸に飛ばしてやろうではないか。くくく」
まって!
どこかわからない所に飛ばす気じゃ!?
「じゃあ、私が公爵邸をご案内いたします」
「え、エヴァ」
「さ、お父様。魔導具を起動してください」
にっこり笑う娘の言葉に、ヴァルドリヒ様が再び膝を折る。
「はぁ……二人分か……」
「二人分、とは?」
「魔導具の起動にも魔力が必要なんです。転送する人数に合わせて、消費する魔力量も変わってしまうので……。お父様、頑張って!」
エヴァ嬢がぐっと拳を握って父親を鼓舞する。
するとどうだ。落ち込んでいたヴァルドリヒ様が元気に復活!
「娘のために、パパは頑張ろう」
クールな口調で言ってるけど、全然クールじゃない。
「魔力の消費は多いのですか?」
「ん? まぁまぁだな。大魔法一発分といったところか」
まぁまぁじゃなく、結構多かった!
「実際の転移魔法より、わずかにマシだ。転移魔法の使える宮廷魔術師がそう言っていた」
「ということは、個人で利用するのが限界なんですね」
「その通りだ。むしろそうでなくては困る。起動させるぞ。エヴァ、帰りはプレスコに魔力を込めてもらいなさい」
「はい、お父様」
ヴァルドリヒ様が言う「そうでなくては困る」というのは、何十人、何百人と転送できたら、簡単に王宮に攻め入られるから、だろう。
「ディル様、真ん中へ。起動時に魔法陣に乗っていなければ、転送できないのです」
「起動後に移動ではダメなのですか?」
「それをすれば、タダ乗りする不届き者もいるからな」
これも暗殺者対策だろう。
貴族が利用しようとしているところへ、起動後に押しのけて飛び込むなんてことができないように、だ。
それでも、念のためだろうな。
転送の魔導具が設置された部屋は、王国騎士が常駐していた。
個室の真ん中へ。エヴァ嬢も一緒なので、自然と密着する形になる。
ここでヴァルドリヒ様の眉間に、血管が浮き出たのを、俺は見逃さない。
怖い。
戻ったら殺されるかも。
次の瞬間、足元に魔法陣が浮かび、景色が一変した。
「お、おぉ。もう転送された?」
「はい。我が家へようこそ、です」
床も壁も天井も石造り。地下室だろうか。
あれ? 階段の前に鉄格子がある。地下牢?
その脇に机があって、呼び鈴が置かれていた。
「ディル様、ごめんなさい。侵入者対策なんです」
「いえ。当然の処置だと思います。そうか、こういうのも必要なんだな」
王城からなら侵入者が来ない。
そんな常識は捨てた方がいいってことだろう。
エヴァ嬢がベルを鳴らすと、すぐに騎士がやってきた。
「エヴァ様、お戻りになられたのですか?」
「ゼナスのディル様に、転送の魔導具をお見せするためです。屋敷を少しご案内したら、また王都へ戻ります。プレスコ先生に連絡してくださいますか?」
プレスコ先生? さっきヴァルドリヒ様が仰っていた人物だけど、先生ってことはエヴァ嬢の教師か?
魔術も学んでいるって言ってたし、魔法の先生なのかもしれない。
「プレスコ殿でしたら、今日は賢者の塔へと出かけられておりますが」
「あっ。そうだったわ……どうしましょう……」
本来なら戻って来るはずじゃなかったんだしな。
「あの、起動するのに特別なことは必要ですか? 魔力の流し方にコツがいるとか」
「え? いえ、起動ボタンを押すと、必要量の魔力が吸い取られるだけなんです」
「それなら俺にもできますね」
「ディ、ディル様が?」
「はい。どうやら俺、魔力量は結構あるようなんで」
リディアレーゼには、魔術を学べとうるさく言われている。無駄に多い魔力が勿体ないからって。
魔法が使えるようになりたいとは思う。
思うけど、時間がない!
一日五十時間ぐらいあればいいのにな。
いや、五十時間あったらもっとたくさんフィギュアとかロボットとか錬金するね!
「やらせてください。転送の魔導具が錬金できたとして、ゼナスとここを結んだから実際にやらなきゃいけなくなりますから」
「ゼ、ゼナスと我が家を……そ、そうですね、必要ですよね」
「はい。もし気絶したら、よろしくお願いします」
「も、もちろんです! ディル様は私がお守りしますっ」
小さな握り拳を作り、ふんすと気合を入れるエヴァ嬢。
エリン嬢のことを思い出すと、なんとも心強い言葉に聞こえた。
ざっくりと公爵邸を見て回った。
といっても、屋敷の中には入らず、外から見て回っただけだ。
なんせ……デカい。
壁に囲まれた屋敷の敷地内だけで、ゼナスの町より大きいんだぜ!
さ、さすが公爵家だ。
屋敷の中まで見て回ったら日が暮れてしまう。それもあって、軽くパパっと見ただけ。
「転送の魔導具が置かれた部屋が、まさか騎士団の詰め所だとは思いませんでした」
「ふふ。それも侵入者対策の一環なんです」
「たしかに。魔法陣も小さいし、二人同時に転送してくるのがやっとですもんね。侵入者だったとして、出た先に騎士が待機していたら、そりゃ襲うものも襲えないってもんだ」
ゼナスでもそうするべきだろうな。
王国騎士団の詰め所はさすがに遠い。まぁ徒歩十五分ぐらいだけど。
辺境伯の私兵騎士団は屋敷の隣に詰め所がある。その地下を錬金して、魔導具を設置する部屋を作るかな。
まぁその前に、魔導具がちゃんと錬金できればだけど。
帰りに対の魔導具を解析。
素材は同じだ。
どうやら魔導具に刻む魔法陣に、同じ文言を入れることで対になるようだ。
これなら王城にある魔導具を参考に、そっくりそのまま、文言だけ変えて錬金してもよかったな。
まぁこちら側の魔導具を解析したからこそ、そのことに気付けたわけだけど。
そしていざ帰還!
魔導具のボタンに手を伸ばし、魔法陣が展開される位置へと立つ。
なるほど。魔導具をちゃんと、手の届く位置に設置しないといけないな。
真ん中の魔石をぐっと押し込むと、ぶわっと魔力が吸い取られた。
同時に視界が一変し、王城にあった個室へと戻って来た。
「ディル様っ、大丈夫ですか?」
「あぁ~、はい。確かに結構取られますね」
でもこれならあと五、六回は平気かな?
「足取りもしっかりなさっていますし、顔色も普通ですし……ディル様、凄いです」
「いやぁ。赤ん坊のころから錬金魔法を使いまくっていたからでしょうね。さ、戻って錬金錬金っと」
そういえば、ヴァルドリヒ様はどこに行ったんだろう。
そう思いながら個室を出ると、そこに、でんっと椅子に腰を掛けたヴァルドリヒ様がいて、目が合った。
「よぉやく、戻ってきたなぁぁぁぁ」
「うひいぃぃぃ!?」
目が、目が怖い!




