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毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
3章

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111/119

111:おかしいだろ、あの辺りの人たち!

「お前の名はデュゼ、か」

「刑の執行は明後日じゃなかったのかよ」


 男のさるぐつわは外したけど、目隠しはしたままだ。


「刑はこれより執り行う。お前の命が、ひとりの命を救うことになるのだ」

「は? 俺様の? はっ、俺はこれまで八人殺してきた。そんな俺が人助けだぁ?」


 八人。それだけ殺していたのなら、罪悪感を抱かずに呪いを移せる。


「では、みなさんは少し離れてください。彼の手を取ってください」

 

 後半は殿下に向けて言った。

 だけど殿下が躊躇しているようだ。

 俺と違って、罪悪感を抱いているのかもしれない。


「デュゼ、と言ったね」

「あぁ? ガキの声が聞こえるぞ」

「子供ですよ。ところであなたに家族はいますか?」


 答えない。でもそれは答えになっている。


「その人はあなたのように悪党ですか?」

「関係ねぇ! 俺は俺だっ」

「でも八人も殺しているんです。どうしてあなたのような人間になってしまったのか、ご家族にも責任がありますよね?」

「お袋は関係ねぇ! 関係ねえんだ!!」


 母親がいるのか。そして意外なことに、この男は母親を巻き込みたくないと思っている。

 こんな殺人犯でも、親を大切にしようとしているんだな。


 八人も殺している殺人鬼より、前世の俺の親は家族を大切にしようとしなかったなんて……。

 いやいや、今世だけを考えよう。

 

「殿下。身代わりとなってもらう代わりに、この者の母親に謝礼をお渡ししてはどうですか?」

「謝礼?」

「で、殿下、そのようなもの必要ありません。この男は」

「よい。王太子の好きなようにするがいい」


 陛下も殿下のお気持ちがわかったのだろう。

 金の問題ではないけれど、それで少しでも罪悪感が和らぐのであればそうした方がいい。


「お、おい、殿下とか王太子とか、どういう意味なんだよ。おい?」


 瞬く沈黙が続いた後、殿下が男の手を取った。


「わたし、の名は、エルフェルド・オルフォンス、だ。この国の、王太子」

「お、王太子、殿下……」

「すまない。わたし、の身に、かけられた呪いを、あなたに……移す」

「の、呪いだって? は、はは。それで俺があんたの代わりに死ぬってことか」

「そうだ。どちらにしろ、あなたは処刑される。その日が、早まっただけ、だ」


 男が殿下の手を振りほどく。


「息子の命を救ってくれる礼として、そなたの母にはこの先不自由のない暮らしを約束しよう」

「あ、あんたは?」


 男は声の主を見る。目隠しはしていても、声の聞こえる方角でわかるのだ。


「余はリッフェルド・オルフォンス。オルフォンス王国の王だ」


 地下室が静まりかえる。

 数分、いや一分にも満たないかもしれない。

 その時間は長く感じられた。


 男が手を差し出す。


「お……お袋は……足が、悪いんだ……」

「国一番の、医者に、診て、もらいます。医療施設で、暮らせるよう、手配も。します」

「た、頼み、ます」


 男の声は震えていた。

 呪いとは話したけど、どんな呪いかはわからないから怖いのだろう。


 殿下が男の手を取った。


「錬金魔法」


 ダンッと地面に両手をつく。

 魔法陣が描かれ、頭の中に呪いの情報が流れ込んでくる。

 呪いを――繋がった手を伝って、殿下から男へ移す。


 途端。


「うぐあっ」

 

 男が苦しみ始め、その肌がみるみるうちに赤黒く変貌した。

 痙攣するように脈打つと、その体がぐんっと膨らむ。


「くははははははははっ。ようやく扉が開いたぞ。我は自由だ!」

 

 一般的な成人男性ほどの大きさだったのが、倍のサイズに。その背中には蝙蝠の翼が生えた。

 いや、生えたはずなのに閃光が走ったかと思ったらぼとりと落ちた!?


「ぐうおおおぉぉぉぉぉっ」


 頭には角が生え、すっかり悪魔らしくなったその姿は、だけど苦痛に顔をゆがめて吠えている。

 そこへ、母上の神聖魔法が炸裂。

 悪魔の足元に魔法陣が浮かび上がり、光が悪魔を包み込んだ。


「ぐうおおおぉぉぉぉぉっ」 

 

 さらに父上殿の光魔法が縄となって、悪魔の体に巻き付く。


「ぐうおおおぉぉぉぉぉっ」


 そして室内が冷気に包まれる。

 悪魔の足元からピキピキと冷気が這い上がり、奴の下半身は完全に氷漬けになった。


「ぐうおおおぉぉぉぉぉっ」


 悲鳴を上げる悪魔の頭上に、雷が落ちる。

 あの、ここ室内なんですけど?


「ぐ、ぐうお……ぉ……」


 息も絶え絶えな悪魔。

 最後はロバート卿が剣を閃かせ、その首が飛んだ。

 断末魔は、ない。


 悪魔。一分持たなかった。

 おかしいだろ?

 悪魔ってこの世界のモンスターの中じゃ、上位にランクインする強さのはずなのに。

 そりゃ下位のデーモンとかレッサーデーモンなら中位ぐらいになるかもしれないけど、それでも……この状況はおかしい。


「さすが、噂に聞くロバート卿だな。グレーターデーモンに気配を察知されることなく、奴の翼を切り落とすとは。だから貴公には北部守備隊に入ってもらいたかったのだが」

「もったいないお言葉ありがとうございます、ヴァルドリヒ様。しかしヴァルドリヒ様とて、ソードマスターではありませんか」

「何を言う。貴公は十七歳で王立騎士訓練学校へ入学した際には、既にソードマスターだっただろう」

「し、しかし自分は剣だけです。ヴァルドリヒ様は氷魔法の使い手。ご子息のエーリヒ様は雷の魔法をお使いになられるうえに、やはりソードマスターの素質があると聞きました。現公爵様もソードマスターの称号をお持ちなうえ、雷魔法をお使いになられる。公爵家ほど優れた人材を有する家門もございません」


 ちょ、待って。

 公爵様、ソードマスターだったのか!?

 って、後ろで見ていたはずの公爵様も、いつのまにか帯剣しているし!

 おかしいだろ、あの辺りの人たち!


「エルフェルド。エルフェルドよ」


 そうだ! おかしい人のせいで忘れるところだった。


「錬金魔法で殿下の状態を確認します。呪いが残っていればわかるはずなので」

「ディルムットよ、頼む」

「はい。――錬金魔法」


 近衛騎士に抱えられた殿下を、錬金魔法で見てみる。

 呪いの痕跡は……なし。


「大丈夫です。呪いはあの罪人に全て移っていました」

「そうか……そうか……よかった。エルフェルドよ、よかった」

「父上……あの者に、感謝しなければ」

「あぁ、そうだな。刑務官に連絡をし、あの者の母親を探させよう」


 ひとりの悪人が、ひとりの命を救った。

 その命は、この国にとって決して小さくはない命だ。

 殿下の罪悪感を少しでも軽くするためにも、あの男の母親を庇護するのは良いことだろう。


 問題は。

 何故殿下に呪いが付与されたのか、だな。

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