108:錬金魔法で元通りにする。
昼食会を無事に(?)終え、我が家に与えられた客間へと向かった。エーリヒ様も一緒だ。
「リネージュ様をお一人にして大丈夫ですか?」
「あぁ。エヴァがいるからね。それにうちの騎士も一緒だ」
「はは。確かにエヴァンゼリン嬢が一緒なら、安全でしょうね」
「いや、あの子ひとりだとやっぱり心配だよ」
そりゃ妹だもんな。
「実戦経験が少ないし、人を疑うことを知らないからね。うっかり悪い奴らを信じてしまいそうなんだ」
そういう心配!? いや心配だけどさ。
まぁそこはお付きの騎士が上手く立ち回るんだろう。
公爵家の騎士団だ。一流が集まっているだろうし。
両親は公爵様とエヴァンゼリン嬢のお父上君と一緒だ。この件を陛下に伝えるためなんだけど、できるだけ目立たないようにするために、あちらのお父上君が俺たちの婚姻をごねる……という名目で陛下に会う。
いや、もしかすると本当にごねるかもしれない。
「ロバート卿、どう?」
客間は家族用になっていて、中に入るとリビング。左右に部屋がふたつずつという構成だ。
ロバート卿は俺が使っている寝室の方にいた。
「この者たちは最近、王城へ勤めはじめたばかりの者たちだそうです」
男が三人、女がひとりか。
女の人はメイド服を着ているのに、なんていうか……似合わない。
戦闘服の方が似合いそうだ。
「傭兵?」
「だと思います」
「だよねー。メイドさん、随分逞しそうだし」
「うっ。よ、余計なお世話よ!」
あ、気にしてるんだ。だったらせめて、長袖ロングスカートにすればよかったのに。
筋肉隆々ではないけど、細くもない。鍛えてそうだなってのが伺える手足だ。
まぁ暑いから、耐えられなかったのかもしれないけど。
「それで、君たちのような者がどうやって城に忍び込んだ?」
「な、何を仰っているのかしら。私たちは働くために、お城に来ているんです。それともこの国では、傭兵上りはまともな職にも付けないと?」
今のは失言だな。
あのメイドさん、他の三人と【仲間】だと自白している。
まぁ元々同じ傭兵団所属と言うのならそれまでだけど。
「ディルムット。少し失礼するよ。尋問を続けていてくれ」
「承知しました」
エーリヒ様がいない方が、尋問が捗る。
ヒヒヒ。さぁ、パーティーの始まりだぁ。
エーリヒ様が部屋から出ていく。
「メニューにないケーキを出したのはどうしてなんだ?」
誰も答えない。
「誰かに依頼されたのかな?」
これも答えない。
「はぁ。仕方ないなぁ。ロバート卿、ひとり殺してくれる?」
「承知しました」
「なっ。お、おい、こ、殺すって、あんた貴族だろ!?」
「え、そうですけど? えぇ、もしかして貴族が人殺しをしない生き物だとでも思っているんですか? やだなぁ。貴族って結構殺しますよぉ」
ロバート卿が問答無用で剣を抜く。
それを見た四人は更に悲鳴を上げ、手足を縛られたまま必死に後ずさった。
「やめたってぇな、ロバート卿」
フィッチャーが割って入る。四人の顔にぱぁっと笑みが浮かんだ。
今、あいつらの脳内ではフィッチャーが「神!」とか思っているんだろうな。
「貴賓室ですよ、ここは。こないなところで殺ったら、床が汚れます! この絨毯、見てくださいっ。最高級品やで! 卿の一年分の給料でも買えない品や」
「え……あの、俺たちを助けてくれるんじゃ」
「は? 何言うてんねん。助けるのはこの絨毯や。ロバート卿、やるなら浴槽ん中でやってください」
「なるほど。それなら血しぶきが飛んでも、水をかけ流せばいいだけだな。さすがだ、フィッチャー卿」
そう言ってロバート卿が男の首根っこを掴む。
「ひ、ひいぃぃ」
「うんうん、危うく部屋を汚してしまうところだったね。あ、ロバート卿。四人いるし、三人までなら殺してもいいよ。生かしておくのはひとりで十分。さぁ、そのひとりは誰かなぁ」
「そりゃまぁ、いい話をしてくれる方でしょう。喋らない奴は必要ありません。情報が良ければよいほど、報酬が高くなるのは商人の世界でも常識や」
「うん、そうだね。じゃあ、誰が話してくれるかなぁ」
真っ青な顔をしながらも、四人はまだ話そうとしない。
そこで俺が手を振って、ロバート卿に「連れていけ」とジェスチャーする。
ロバート卿が無言で男を引きずり出す。
「ま、待てっ。そんなことして、タダで済むと思うのか!?」
「え、どうしてですか?」
「これだけ騒いでいるのよ。お、王宮の兵士がもう駆けつけることじゃない。あなたは罪もない城の使用人を、こうして監禁したの。罪に問われるのはどっちかしら?」
「はぁ……傭兵じゃなくって、ちゃんとした暗殺者ギルドの人間でも使えばよかったのに」
演技をするにしても、貴族相手にこのタメ口。普通に不敬罪で罪に問われるの、こいつらだぞ。
あと。
「どんなに騒いでも、外に音は漏れません。知らないんですか? 王室が招いた貴族たちの貴賓室ですよ。防音魔法が施された魔道具があるに決まっているじゃないですか」
「「……え?」」
ドアの真上にある飾りを指さす。
赤いルビーのように見えるのは魔石で、防音魔法が施されたものだ。
効果範囲内での音は、外側には漏れないようになっている。
ON、OFFはこちらで自由に変更でき、もちろん、ロバート卿が既にONにしてくれていた。
「むっふぅ~。賊が侵入したので斬り捨てたというこちらの話と、貴族に監禁されたというそちらの話。いったいどっちを信じると思います?」
「ひ……ひぃ」
「それに俺、国王陛下とは懇意にしていただいていますから。多少こちらに非があっても、陛下が揉み消してくださいますから。ぐふふぅ」
「こ、国王……そ、そんな大物がバックにいるだと……」
「で、誰に雇われて、あのケーキを運び入れたのです? 王都で購入したものですよね?」
話さない。だからロバート卿が連れて行こうとした男を、俺の寝室から連れ出した。
リビングを挟んで向こう側の部屋のひとつは浴室だ。
連れて行かれた男の悲鳴が上がる。その後はしーんっと静まり返った。
「話してくれなければ、死人が増えますよぉ」
「さ、最後のひとりが生き残るんだろう? そのひとりも話さなければどうするつもりだ? あ?」
「錬金します」
「「は?」」
「俺、錬金魔法が使えるんですよ。こんな風に」
わざと椅子をひとつ壊し、錬金魔法で元通りにする。
「でも死んだ人間は生き返らせることはできないので、まぁホムンクルスの材料にするぐらいかなぁ。脳があれば多少の記憶も共有してくれるんで、情報を引き出すことはできますよ」
「ディルムット様、せやったら最初から全員殺して、ホムンクルスにした方が早ないですか?」
「いやさぁ、ホムンクルスが全部の記憶を共有するわけじゃないから、情報が抜けてる可能性もあるしね。まぁ遺体四つあればある程度は」
「使用人だ! 城の使用人からケーキを渡されたんだっ」
「そいつらは雇い主じゃないわっ。そいつらもさらに別の奴から頼まれてただけみたいでっ」
「雇い主まで辿りつかせないようにするためだろうっ。何にも、何にもわからないんだっ。だが雇い主が大物であればあるほど、そういうのはよくあることだから俺たちは別に何も思わなかったんだ!」
おぉ、喋る喋る。いっぱい喋りだしたぞ。
「お待たせ、ディルムット」
「あ、エーリヒ様。今ちょうどゲロ、いえ、経緯を話す気になったところです」
「あぁ、うん、そうみたいだね。でもどうしてみんな、泣いているのかな?」
「さぁ、花粉症なんですかね?」
戻って来たエーリヒ様は、最近雇用した使用人リストに、元傭兵と書かれた者がいないことを確認してきたそうだ。
城に限らず、貴族家に務めるときには前歴なども申告する必要がある。
彼らはそれを怠った。それだけでも重い罪になるだろう。
「じゃ、洗いざらい全部吐いていただきましょうか」
俺はニヤァっと笑い、指を鳴らす。
その指先に、小さな魔法陣を浮かばせた。
「ひ、ひいいぃぃぃいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
その悲鳴は、決して外に漏れることはなかった。




