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毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
3章

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107/115

107:そのナッツをお皿に練り込ませる。

 はぁ……昼食会って、こんなに疲れるイベントだったのか。

 前回もクリスティーナ嬢の登場で疲れたし、今回もまた。

 しかもエヴァンゼリン嬢のこともあって、前回より疲れた気がする。


 ようやく会場が落ち着き、小腹も空いたのでデザートでもいただこうかとテーブルに着くと。


「ふふ、お疲れ様です」

「リネージュ様っ。あ、いや……ははは」

「でも仕方ないですわ。私だって驚いていたもの。見るたびに痩せていくあの子を見て、ね」

「あ、リネージュ様はお近くでご覧になっていたのですね」

「えぇ。私のひぃおじい様と前ハルテリウス公爵が兄弟で、公爵家とは昔から仲がよかったの。公爵様は宰相でもあるでしょう? エヴァも王宮にはよく来ていたのよ」


 数少ない友人のひとり、か。まぁ親戚だしなぁ。


「でも……しばらくエヴァもエーリヒ様も、王宮には来られなく……」

「え? 何故ですか?」

「……ううん。なんでもないの。気になさらないで」


 いやいや、気になるって。


「やぁ、二人で何の話だい?」

「エ、エーリヒ様。エヴァンゼリン嬢」

「ふふ。私も今座ったところですわ。お二人もどうぞ。あ、いいですわよね、ディルムット様」

「もちろんです。何か飲み物を頼みましょうか。すみません、そこの方」


 給仕を担当している城のメイドを呼び、飲み物を四つ持ってきてもらう。

 同時に小腹も空いたのでデザートでもとお願いをすると、思ったよりもすぐに運ばれてきた。

 タルトか。何のタルトだろう?

 あ、よぉく見ると、小さなナッツが入っているな。どうせなら上にたっぷり乗せてくれればいいのに。

 でもナッツは子供の多い昼食会では、ちょっと珍しいかもしれない。

 エヴァンゼリン嬢はダイエットを頑張ったようだし、今更だけどデザートはどうなんだろう?

 彼女を見てみる。


 ん? 暗い表情をして、エヴァンゼリン嬢が王女殿下を見ている。

 その王女殿下は、どこか青ざめたような顔色だ。


 ピリピリした空気……なんだ、これ?

 どこかわからない。だけど、何者かがこちらを見ている気がする。

 少し離れた場所にいるロバート卿に目配せをする。

 彼は気づいて頷いた。


 タルトを見て顔色を変えたエヴァンゼリン嬢と王女殿下。エーリヒ様も周囲を気にしている様子だ。

 もしかすると。


 俺はそっと自分の目の前に置かれたお皿に触れ、錬金魔法を発動させた。

 抽出――ナッツ。生地に練り込まれたナッツの成分も全部だ。

 そのナッツをお皿に練り込ませる。

 うん。ナッツ皿か。

 

 グラスを持って。


王女殿下・・・・、せっかくの機会ですので、ぜひ、乾杯させてください」

「え? え、えぇ」


 リネージュ様がグラスを掲げると、俺が王女の前に自分のグラスを差し出し、そして。


「あぁ、申し訳ありません殿下っ。ジュースが殿下のタルトに……わたしの皿と交換いたしましょう。まだ手を付けていませんので」

「あ、き、気になさらないで」

「いえ。せっかくのナッツタルトです。どうぞ、お召し上がりください」


 お皿を持って席を立ち、リネージュ様のそれと交換する。その際、小さな声で「ナッツは取り除きました。お皿と合体していますので」と告げた。彼女にだけ聞こえるように。


 目をぱちくりしたリネージュ様は、フォークでタルトを少しだけずらす。

 そして、笑った。


 リネージュ様はきっと、ナッツアレルギーなんだろう。

 だから食べられない。

 しかしこの世界では、食べ物に対するアレルギーの知識があまりなく、場合によっては「好き嫌い」で片づけられることも。

 一国の王女がナッツを好き嫌いしている。

 そんな風に見られるだろう。


 ただ。

 好き嫌いだとして、王女殿下が嫌いなものをわざわざ王室が用意するのもおかしい。


「ディルムット様。あの」

「殿下のタルトからナッツを取り除きました。よかったんですよね?」

「はいっ」

「でもどうしてナッツのタルトなんか」

「メニューにはありませんでした。誰かが勝手に変更したのだと思います」


 勝手にって、王室主催だぞ?

 そんなことできる人間は限られているだろうに。

 俺とエヴァンゼリン嬢が小声で話し合う間、リネージュ様は安心したようにタルトを召し上がっている。


「リネージュ、美味しいかい?」

「えぇ、エーリヒ様。あなたも召し上がってみてください」


 二人の会話を怪し気に聞いている奴らは……。そうだ。


「本当に美味しいですね。王室で作られたものでしょうか? それとも王都で買えるものかな?」

「どうでしょう? 私は、外から持ち込まれるものを食したことがないので」

「いやぁ、また食べたいなぁ。ゼナスではこんなにおいしい物はなかなか口にできませんし、でもナッツなら栽培できそうだ。領民にも食べさせてあげたいなぁ」


 王室で作られたものか、それとも外部で作られたものか。

 すると。


「あ、あの。小辺境伯様。私、このタルトに心当たりがあります」

「え!? 本当ですか? えっと」

「も、申し遅れました。私、アッテム伯爵家のフェミニアと申します」

「フェミニア嬢ですね。心当たりとは?」


 ロバート卿、それからこちらへとやって来るフィッチャーに目配せをする。

 

「はい。王都にあるベリーズ菓子店のタルトです」


 知らない。

 だが、他の令嬢からも「そういえば」「似ていますわね」という声が上がっている。


「おや、ベリーズ菓子店と言えば、ホーン通りのでしょうか?」

「え? あ、あの」


 割って入ったのはフィッチャーだ。菓子店を知っているのか。


「フェミニア令嬢、この者はわたしの領地で専属商人として仕えてくれている、フィッチャーという者です」

「フィッチャー様……フィッチャー商会の会長様ですか!?」


 おっと。そういえば王都にはフィッチャーの店があったな。

 貴族向けの商品に限り、フィッチャーの店で限定販売している。流行に過敏な令嬢なら、知ってて当然か。


「令嬢。ぜひお店のことをお聞かせください。もしよろしければ、次の新作簪をプレゼントさせていただきます」

「え……あ、あの」


 令嬢は何故かエヴァンゼリン嬢を見た。


「お、教えて差し上げてください。わ、私も、あまり詳しくないので。よろしくお願いします」


 とエヴァンゼリン嬢が頭を下げる。


「そ、そんなっ。私でお役に立てるのでしたら! そのお店は、会長様が仰ったホーン通りではなく、サンフラワー通りにあるのです」

「あの、よろしいでしょうか? この子の姉のエレニアと申します。ベリーズ菓子店は四年前に一度閉店しているのですが、一年半前にサンフラワー通りに再出店しているのです」


 フィッチャーを見ると、何か考えている様子だった。


「店舗移転ですか。よっぽど人気だったのでしょうね」

「それが……実はタルトは凄く美味しいのですが、他のスポンジケーキは好みがわかれるところでして」

「しっとりした生地がお好きな方には、合わないんですよ」


 なるほどねぇ。さっぱり系ってことかな?

 俺は前世でもケーキなんてほとんど食べたことないし、よくわからない。

 姉妹の令嬢にお礼を言い、彼女らの好みを聞いてメモしておく。ちゃんとお礼をするためにだ。

 その間に。


「四人、ですねぇ」

「ふぅん。ロバート卿は?」

「確保してはりますよ」


 ロバート卿とフィッチャーが、怪しい奴を見つけてくれていた。

 

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