106:ペット。
私が……私が醜いですって!
どんだけ目が節穴なのよ!!
でも……私にあんな口を利く令息は他にはいない。
あぁ。やっぱり欲しい。
ディルムット様が欲しい。
「待てクリスティーナ。お前のその横暴な態度、そろそろ改めなければローズメイン侯爵家は取り潰されることになりかねないんだぞ!」
「お兄様……。横暴な態度? 私が? 何を仰っているの。私は横暴なんじゃないわ。美しい私は何をしても許されるのよ。だってずっとそうだったでしょ?」
「確かにお前は屋敷の中では何でも許された。だけどそれは父上や母上の間違った教育で! このままだととんでもないことになるぞ」
「う、うるさいわよ!」
お兄様のくせに、妹を脅そうというの?
なんて酷い人なのかしら。
あっ。
「お父様だわ。お父様ぁ~、お兄様を叱ってちょうだい」
「お、おい、クリスティーナ。あの方は……」
お父様、誰と一緒にいるのかしら?
「クリスティーナ、レイドニス。昼食会はどうしたのだ」
「ど、どうもしませんわ。退屈だったから抜け出してきただけだもん」
あんな屈辱的なこと、話せるわけないもの。
お兄様、余計な事言わないでよね。
「お父様のお知り合いですか?」
お父様より少しお若い方だわ。身なりからして上流貴族のようだけど。
こんな方、いたかしら?
ふふ、なかなかにイケメンなおじさまだわ。
「前に会ったのは、まだクリス嬢がこんな時期だったかな」
「えぇ。まだ二歳の頃でございます」
「まぁ。お会いしたことがあったのですね」
で、誰なのよ。
「ふたりとも、挨拶をしなさい。こちらはバルファギド・オルフォロス大公殿下。現国王の弟君だ」
「まぁ、王弟殿下でしたのね。私はクリスティーナですわ」
王弟! 大公!
超がつく大物だわ!
お父様、そんな大物と親しくされているなんて、さすが私の父だわ。
「た、大公殿下、お久しぶりです。レイドニスでございます」
「あぁ、久しいなレイドニスよ。王立学園では三番目らしいな」
「は、はい」
「首席はハルテリウスとホーヘンベルクの子倅だそうだな。もっと精進して、あの二人を出し抜けるようにならねばな」
ほんとほんとっ。王弟殿下、良いこと言うわ。
「ではローズメイン。わたしは行くとしよう。せっかく兄上が用意した催しだ。親子で楽しむがいい」
「はい。殿下もどうぞ、お楽しみください」
あら、行ってしまわれるの?
まぁ国王の弟君だもの。忙しいのね。
あ、そうだわ!
「お父様、聞いてよ! ディルムット様が、あの忌々しい白豚との婚約を受け入れているのよ! お父様言ったわよね。どうせその場しのぎだって。どういうことなんですか!」
「はぁ……クリスティーナ、お前はあの少年を夫に迎えたいのか?」
「もちろんよ! ずっと私の側にいさせて、眺めるの。そして、あの生意気な性格を矯正して、私に跪かせるんだから」
「お前……それは夫ではなくてもいいのでは? そうだ。クリスティーナ、夫ではなくペットではどうだ?」
ペット? 何言ってるのお父様。
人間はペットには……ペット。
「いいですわね! お父様、ディルムット様を私のペットにしてくださるの?」
「あぁ。事が上手く運べば、な。くくく、はははははははは」
事が上手く? なんのことかしら。
でもいいわ。
ディルムット様が私のペットになるのなら、なんだって構わない。
ふふ。待っててね、ディルムット様。
そうだわ。ペットのためのかわいいお部屋も用意しなきゃ。
「ち、父上。どうかローズメイン家を破滅させるようなことは」
「黙れ! ちっ。いったい誰に似たのだ、お前は。なぜローズメイン家の繁栄を考えられぬのだ。クソッ。やはり父に教育を任せるのではなかったな」
確かお兄様は生まれてすぐ、おじい様に預けられたのだったわね。
お父様はおじい様と仲が悪かったようだけど、子育てが面倒だからって押し付けたのはお父様なのに。
あぁあ。まぁたお兄様、屋敷の地下室に閉じ込められちゃうわね。
ほんと、おバカなんだから。
ふふ。
ディルムット様をペットに……あぁ、早くそうならないかしら。
楽しみだわぁ。




