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毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
3章

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104/114

104:俺のHPはー9999よ!

「た、助けてくれぇ」

「下ろしてくれぇ」


 俺と彼女との間に、静寂な空気が流れる。


「エ、エヴァンゼリン嬢……そ、その……」


 嘘だろ……俺の記憶がおかしいのか?

 エヴァンゼリン嬢は、もっとこう……少し、いや結構、とても、ふくよかな子だったはず。

 俺の記憶がおかしいのか?


 赤く染まった彼女の顔と、俺の記憶の顔……ん?

 赤く、染まって……熱でもあるのか!?

 そ、そういえば、手紙に医者のことがたびたび出てきていた。


 もしかして。


「エヴァンゼリン嬢!」

「ひゃ、ひゃい!?」

「もしかしてあなたは、大病を患って、それで食事もロクに食べられず、痩せられたのですか!?」

「……え?」

「手紙にもよく、お医者様のことが書かれていましたし」


 ずっと病床に伏せていたのかもしれない。だからこんなに痩せて……。

 それなのに、俺との手紙のやりとりをずっとしてくださっていたのだろう。

 いや、気づくべきだったんだ。医者と相談するって、前にも書いてあったじゃないか。

 それなのに俺は、彼女に無理をさせてしまった。

 男として、夫になるかもしれない身として、不甲斐ないっ。


「酔いは醒めたよ悪かったよ」

「だからもう許してくれないか」

「あ、あの……び、病気は、しておりません」

「やはり、そんな病に……え?」

「病気でや、痩せた、のではない、でしゅ。はわっ。ひ、ひと、ひと……はむっ」


 人という字を、食べている。え、また食べるの? え、まだ? 何人食った?


「はぁ、はぁ……」

「だ、大丈夫ですか? 本当に病では?」

「あ、ありませんっ。お、お医者様とはその……け、健康に、無理なくダイエットできる方法を、その、相談、していたのです」

「医者に、ダイエット方法を?」


 ジムトレーナーではなく?

 あ、スポーツジムはこの世界にはないのか。

 ま、まぁ、前世でも医者と相談して食事療法とかのダイエットはあったみたいだけど。


「ディルムット様が、お医者様の言うことを聞きなさいって、お手紙に……」

「あ、それはその……ご病気なのかな思って……でもどうしてダイエットなんかを? 凄く痩せられているじゃないですか。体への負担だってあったでしょうに」


 だからこその医者ではあるのだろうけど。

 俯き加減だったエヴァンゼリン嬢の顔が、パァッと明るくなって俺を見上げた。


「や、痩せられていますか!?」

「え、えぇ。そりゃあ見違えるほどに。気付けなかったのが、申し訳なく思います」


 彼女は顔を左右に振る。

「お願いだぁ」

「いいえ、いいえ。私……前は凄く、すっごく、おデブでした。あんな姿のまま、ディルムット様に会うのが恥ずかしくて。だから痩せたかったんです」

「ど、どうしてですか?」

「だって……ディルムット様の、と、隣に、た、立つのに相応しい、レディーに、なりたか……キャァ」

「甘い、甘すぎる。おじさんたちには毒だから、下ろしてくれぇ」


 お、俺の隣に立つのに相応しいレディーに、なりたかった……から?

 だからダイエットをしたと?


 …………心臓が、ドキムネする。

 うっそだろ。

 え? 俺のため?

 俺のためにダイエット?

 なんで?


「あ、ああ、あの、ど、どうして、俺のため、に?」

「はぅ。お、お聞きになるのですか? は、恥ずかしい。あの、えっと、ディルムット様はお優しい方だから。あの、私、えっと、五年前のお茶会で、こけた、とき……あなたが、あなただけが、私を心配してくださいました。他の令嬢や令息が嘲笑する中、あなただけが……初めて、だったんです。家族やお屋敷の人以外で、私を心配してくださったのは……それからずっと……わ、私、ずっとドキドキして。やぁ恥ずかしいっ」


 一気に話すと、エヴァンゼリン嬢は両手で顔を隠してしまった。

 耳まで真っ赤だ。

 ドキムネがワンランクアップした。


「や、優しいだなんて。それにあの時、エヴァンゼリン嬢が先に、ティファに手を差し伸べてくださったじゃないですか。あの子は初めて公の場に出てきたから、他に友達もいませんでしたし。そんな中であなたが、倒れたティファに手を差し伸べてくださったんです。なんて優しい子だろうって思いました。そんな子がティファのように倒れてしまったんです。声をかけるのは当然でしょう。優しいのはあなたの方ですよ」

「もう……勘弁してくれ」

「いいえ、ディルムット様です! 私のようなデブな子に、あんなに親切にしてくださる男性はいません!」

「体形なんて関係ないでしょう! 君は優しい子だ。心の美しい方なんです!」

「う、うつく、しい……わ、私が……」

「もう結婚しちゃいなよ」


 梁に右手を付き、魔力を流し込む。


「ひぃいぃぃぃぃ。ごめんっごめんっ。さっきのは取り消すから!」

「帰りたい。帰り隊よママァ」

「黙らないともっと高くするよ」

「「はい」」


 別に取り消す必要はないんだけど。

 顔も、耳も、首元まで真っ赤にしたエヴァンゼリン嬢。

 これは……これはつまり……彼女は、俺に、鯉、して、違った。恋しているってこと?


 れ、冷静になれ。冷静に。

 

「と、とにかく、えっと、ご病気でないなら、よかったです」

「あ、ありがとうございます。か、勘違いさせてしまって、すみません」

「いえ。でも、どうして髪を染めたり、偽名を使ってゼナスへ?」

「はうっ。ごご、ご、ごめんなさいっ。私、ダイエットできるまで、その……ディルムット様に相応しいレディーになれるまで、あなた様に会わないという誓いを立てたのです。でもお兄様がゼナスへ行くと聞いて、いてもたってもいられず。でもエヴァとしてお会いできないと思い、それで」


 俺の隣に立つためだけに、ダイエットをしたのか。

 五年の間、ずっと頑張ったんだな。

 でも。


「エヴァンゼリン嬢。ダイエットなんてする必要なかったんです」

「え?」

「俺は、見た目よりも内面を重視したいんです。あなたのように優しい方なら、ありのままの姿で大歓迎だったんです」

「あ、ありの、まま」

「それに、無理なダイエットなんかして体調を崩される方が、よっぽど心配ですし」


 ダイエットじゃないけど、俺の幼少期は貧しい食生活で痩せ細っていた。ちょっとしたことでも体調を崩していたし。

 そんな風にはなって欲しくない。

 ないけど……。


 元々、太ってはいても愛らしい顔立ちの令嬢だった。

 ダイエットした今、彼女は……。


「け、けれど……ダ、ダイエットしたことで、あなたの愛らしさは、その……数倍に増したようですね」

「はうんっ。あ、あい、愛らしい。わ、私がですか?」

「はい。とてもステキなレディーになりまひっ!」


 舌噛んだ!


「ディ、ディルムット様!?」

「は、はは。ふみまひぇん。慣れないこひょをくひばしって、舌、はみまひた」

「もう!! 兄さま、情けないわ!」

「うぅん。最後までカッコつけて欲しかったねぇ」

「いいえ。兄上は頑張ったのです。歯の浮くようなセリフを、途中までとはいえ、言えたのですから!」


 ……え?

 待って、どうしてみんないるの?

 梁の後ろからぞろぞろ、ぞろぞろと!


「ふふふ。よかったわ。ディルもちゃんと恋する男の子になったのね」

「立派だったぞ、ディルムット。でもあともう少しだな」

「認めぬ。認めぬぞわたしは!」

「よく言うた、ディルムットよ。わしは認めるぞ!」


 もう、やめて……俺のHPはー9999よ!

 

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