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毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
3章

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103/111

103:正当防衛、成立だ。

「わたしの息子はエーリヒただひとり! 君を息子にした覚えはないぞ!!」 


 ひぃぃぃ!

 ラ、ラスボス現る!?


「お、お父様、止めてくださいっ。ディ、ディルムット様が怯えてしまいます」


 こ、この声はエヴァンゼリン嬢?

 あれ? やっぱり従妹かな、エリン嬢の声とそっくりだ。

 けど……。

 デンッと立ちはだかるラスボスのせいで、エヴァンゼリン嬢が見えない。


「エヴァ。怯えさせているのだよ」


 わざとかよ!


「わたしが……わたしがいない間に、勝手に婚約を進めおって! エヴァの父親はわたしなのだ! おじい様の勝手は許さない。エヴァ、今からでも婚約破棄をしなさい」

「お、お父様!?」


 はい、婚約破棄キターーーーー!

 え? これって婚約破棄から始まる、異世界恋愛ものだったのか? 俺てっきり、辺境開拓スローライフ(できない)だと思っていたのに。


「わしが決めた婿のどこがわるい!」

「チッ。全てですよ、父上」

「なんじゃと!」


 おいおい、裏ボスまで登場したぞ。

 どうすればいいんだ、これ。


「ディルムットのどこが気に食わぬのだ! 顔よし、才よし、度量よし! これのどこが不服じゃ!!」


 いや、あの……顔はそこまででもないと思いますが……。


「顔ならわたしのほうがいい!」


 いや、あなた父親じゃないですか。たしかにイケメンだけど。


「このわからずやめ!」

「そっくりそのままお返ししますよ父上」


 この親子、仲が悪いのか?

 もう、逃げたい……。

 そう思っていると、くいっと袖を引っ張られた。

 見ると、すぐ隣に銀髪の令嬢が……でも……エヴァンゼリン嬢じゃ、ない。

 太く、ない。普通だ。普通体形の女の子だ。

 五年前に会ったエヴァンゼリン嬢とは、似ても似つかない体形をしている。


「こ、こちらに。ディルムット様」

「ははは。すまないね、うちの父上とおじい様が迷惑をかけて」

「い、いえ……あの」

「いっておいで。ここはわたしが適当にやっておくから」


 いやそういう意味じゃなくって、この令嬢は誰!?

 もしかしてまた従妹?

 エヴァンゼリン嬢はどうするんだぁぁー!?





 

 というわけで、名前も知らない令嬢に手を引かれ、昼食会の会場から抜け出してきてしまった。

 俺は……いったいどうすればいいんだ。

 婚約者がいる身だってのに、知らない令嬢と二人っきりだなんて。

 こんなところをエヴァンゼリン嬢に見られたらどうする? 悲しませるんじゃないのか?

 いや、そもそも……彼女は俺のことを、どう思ってくれているのだろう。

 

 クリステーナ嬢から俺を守ってくれるために、婚約を承諾したようなものだ。

 好きとか嫌いとか、そんな感情はないんだろうな。


 やっぱり。彼女が望むなら、この婚約は……。


「きゃっ」

「令嬢!?」


 小石でも踏んだのか、名も知らない令嬢が倒れた。

 急いで駆け寄り、上着のポケットからハンカチを取り出す。


「これをお使いください。お怪我は?」


 ん? なんか前にも、似たようなことがあったような。

 

「ら、らいじょう……大丈夫れ……はぁ、はぁ……」

「ほ、本当に大丈夫なんですか? どこか変に打ったりしたんじゃないです?」


 面を上げた彼女の瞳は赤く、そして薄っすら潤んでいるようにも見えた。

 やっぱりどこか痛むのか。涙を堪えているんだな。

 だけど人前だから、泣くに泣けないのだろう。

 今日、ここにいるってことは十歳ぐらいか。偉いな、我慢して。

 ティファだときっと大泣きしているところだ。


「はわっ」

「ん? あっ。すす、すみません。い、妹のことを思い出してしまって、うっかり撫でてしまいました」

「ティ、ティファニーさん、をですか?」

「あれ? うちの妹をご存じなのですか?」

「え?」

「え?」


 ん?

 俺、何かおかしなことでも言ったかな?

 いや、言っていないはずだ。

 ティファは社交的で誰ともすぐ友達になれる。でも、辺境だと他の家門が訪ねてくるなんてことはない。

 あるのはホーヘンベルク侯爵家ぐらいだ。

 あ、先日、エーリヒ様とエリン嬢が訪ねてきたっけか。


「んぁ? おいおい、こんな所に坊ちゃん嬢ちゃんがいるぜ。ひっく」

「かぁ、ガキのくせに逢引きかよ。嫌だねぇ」


 突然声がして振り向くと、へべれけに酔った男が二人、茂みから出てきた。ひとりはその手にワインのボトルを握っている。

 身なりからすると、どこぞの貴族なんだろう。

 ただ、貴族らしからぬ言動だ。それなりの教育を受けていれば、ボトル片手に飲み歩くようなことはしない。下級貴族だろう。

 あと、見た目は三十過ぎのおっさんだけど、その手には結婚指輪がない。

 つまり、売れ残りの貴族ってことだ。

 将来の結婚相手を探すために、十歳以上の貴族も集まるとは聞いたが、いやいやいやいや。ロリコンだろ!


「うぃぃ。まったく、ムカつくぜ。こんなガキが逢引きとはよぉ」

「何を言っているのですか、あなた方は。逢引きなんて下品な言い方、しないでいただきたい」

「なんだと小僧!」


 うわ、酒くさっ。 

 とにかくこいつらをどうにかしよう。この令嬢を守って差し上げないと。

 だけどこっちから手を出すわけにはいかない。


 となればだ。


「みっともないですね。いい年した大人が、昼間から酒を煽るだなんて。だから()()()()()いるんですよ」

「な、なんだとクソガキ!」


 ワインのボトルを手に持った方が、空いた手で俺の胸倉を掴んで突き飛ばした。

 よし。正当防衛、成立だ。

 くくく。子供を甘く見るんじゃねぇ、ぞ……あれ?


「ディルムット様を侮辱する方は、私が許しません!」


 令嬢が短剣を手に、俺と酔っぱらいの間に割って入る。

 あの、その短剣、どこから出しました? ねぇ?


 いや、それよりもだ。

 この既視感……あれ?

 そういえばこの令嬢……髪型といい、顔といい、エリン嬢に瓜二つ……でも黒髪じゃない。

 ま、まさか!?

 この短期間で全ての髪が白髪に!?


 いや、ないな。

 でも、確信が持てる。

 隙のない構え。勇敢に立ち向かうその姿。

 やっぱり彼女は、エリン嬢だ!

 少し痩せたのか。いや、きっと厳しい鍛錬で引き締まったんだろう。


「ははは。こいつは傑作だ。男が女に守られるなんてなぁ」

「随分気の強いレディーじゃないか。チビ同士、お似合いだぞ」


 あぁ、そうだ。こいちらを先に片付けよう。


「令嬢。ここは俺にお任せください」

「ディ、ディルムット様」

「どうするんだ、小僧。ん?」


 ニタリと笑う二人の男たち。


「お二人とも、少し頭を冷やされた方がいい。錬金魔法」


 トンっと地面に両手をつく。

 陛下。あとで元通りしますので、今はご容赦ください。


 ズドンッと地面から突き出した梁が二本、男二人を持ち上げる。高さは五メートルほど。


「ひ、ひいぃぃぃ!?」

「なな、なんだこれはっ。お、下ろしてくれ!!」

「あははははは。暴れると危ないですよぉ。ポキッと折れるかもしれませんのでぇ」


 実際には折れない。それだけの強度で錬成してあるからな。

 でも、そんなことは本人たちは知らない。見た目はそんなに太くないしな。


「あとで衛兵を呼んで差し上げますので、そこで酔いを醒ましてくださいね」


 醒めたあとで、ちょっかいかけた相手が公爵家の血縁者だと知ったら、今度は別の意味でぶっ倒れるだろうけどね。

 さて。

 

「すみません、以前会った時と別人のように変わられていて、気づきませんでした」

「ぁ……そ、そうです、よね。あの頃から私、少しは変われましたか?」

「えぇ。髪を染められたんですね、銀髪に」

「……え?」

「ん?」


 え、何その反応……あ、あれ?

 もしかして、エリン嬢ではない!?

 いやそれより彼女がエリン嬢だとしたら、何故髪を黒から銀髪に染めているんだ?

 染める……染める……彼女は首筋にたっぷりと白髪になっていた部分があった。それを黒く染めて……。

 あれって、白髪だったか?

 むしろ銀……。


 あれ?

 エヴァンゼリン嬢と同じ、赤くて優し気な瞳で、公爵家と一緒にいて……ん?

 ん? んん? んんん!

 エヴァンゼリン……エリン……()ヴェンゼ()()……。


「あああぁぁぁぁぁぁ。エヴァンゼリン嬢とエリン嬢が、同一人物ううぅぅぅぅっ」


 なんとも情けない俺の絶叫に対し、エヴァンゼリン嬢は、頬を染め、


「はい」


 と答えた。


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