101:がぁーん!?
「今……何と言ったか?」
「はい。ゼナス領とセゾナ領の境に、宿場町を作りました」
夏を迎えた王都にやって来たのは、ほんの数時間前。
到着早々、俺と父上殿は国王陛下に呼ばれて執務室へと来ていた。
ちょうどいいので、町を作ったことを報告して、王国発行の地図に記入していただこうと思ったのだけども。
宰相である公爵様もその場にいて、何故かお二人はこめかみを抑えていた。
頭痛か?
「辺境にはゼナスしかなかったのではないか? エーリヒもそう言っておったぞ」
「エーリヒ様がお帰りになってから、急いで建設したんです」
「エーリヒがゼナスを発ってから五カ月半ぐらいしかなかったはずだ。いや、そなたがゼナスから王都へ来るための移動日数も考えれば、五カ月もなかっただろう」
「へ、陛下、宰相閣下。父親のわたしが言うのもなんですが、この子の錬金魔法はおかしいのですよ」
がぁーん!?
お、おかしいって父上殿、酷くないですかね?
だいたい町といったって、冒険者ギルドの建物ひとつと宿が三つ、長屋タイプの店舗兼住宅が二つに、アパート五つ程度の規模の小さいものだ。
材料さえあれば一カ月もあれば錬金できる。
おかしいところなんてどこにもないだろう。
「町を錬金するなど……聞いたことがない」
「過去の錬金魔法を授かった者の資料をまとめさせておりましたが、小さな屋敷一軒錬金するのにも、数日はかかったとありました。それですら驚いたというのに」
え、そうだったのか?
俺はてっきり、両手をパンって叩いてドンってやって、ポンっと錬金していたんだとばかり思ってた。
うぅん。となるとやっぱり、肝心なのは魔力量だろうな。
錬金するものが大きくなればなるほど、吸い取られる=消費する魔力は多くなる。
魔力が少ないと、一度の錬金で錬成できるもののサイズが限定されてしまうからな。
屋敷とかだと、一部屋二部屋ごとに錬金しては、魔力の回復を待って続きからってなる。
この場合。魔術の才能のあった父上殿と、司祭としての力も持つ母上の間に生まれたことに感謝だな。
「はっはっは。このまま行けば、ゼナスは王国一の豊かな領地になるやもしれんな」
「それは……どうでしょう。今でこそ野菜の栽培が成功して、食生活も改善されましたが、正直言うと、これ以上領民が増えれば生産が間に合わなくなりますので」
「開墾をすればよいのではないのか?」
「そのためには周辺の安全確保が大前提になります」
畑を拡張するにしても、まず、南側は不可能だ。砂漠だし、そもそも国境を越えてしまう。
そして西はゼナスの町から数百メートルの位置にはもう山がある。
東は広いけれど、それでも二キロほど行けば山だ。
西はゼナスの町が近いからいい。だけど東だと山からモンスターが降りてきたときのことを考えると……。
「ふむ……そのためにも冒険者、か」
「そうですね。冒険者の方々が多く流入してきてくだされば、東西の山から下りてくるモンスターも減るかもしれません。そうなってから、開墾を進めてもいいかなって思っています」
こればっかりは錬金でどうにかなるものじゃない。時間がかかるだろう。
だけど、今の俺はまだ十三歳。時間ならたっぷりある。十年かけて、モンスターを追い払えればいいかなって感じだ。
「しかし冒険者をゼナスに招く利点はそれだけではありません」
「辺境伯よ、他に利点があると?」
「はい。蛮族に備えた戦力にもなります。まぁ騎士とは違い、自由意志となりますが」
「ふむ。しかし冒険者であれば、報酬次第では組してくれるであろう。蛮族襲来の際には、蛮族討伐一体につきいくらの報酬とすれば」
「はい。そう考えております」
うんうん。蛮族は所謂モンスターだ。
その体力はオーガ並み。知能があって魔法も使う。体は人間よりデカく、だけど俊敏に動けるという。
なんかモンスターの良いとこどりしたような奴らだ。
さらに、生まれながらにしてのモンスターテイマー。厄介すぎる。
宿場町を作り、子爵経由で冒険者ギルドとも交渉して支部を開業してもらった。
近隣から宿屋を開業したい人を募って、宿屋の主人も三人確保。
店舗の主人は、フィッチャーの伝手で既にテナントも埋まっている。
既に冒険者も訪れていて、中にはゼナスまで来て砂漠へ狩りに出かけている人たちもいた。
「砂漠での狩りと言えば、砂漠の民と揉めることはないのか?」
「それは心配ありません。各部族の長達にもお伺いしましたが、彼らは食糧として狩りをするぐらいで、率先してモンスター狩りをしているわけではないとのことでした」
「むしろモンスターが減ることを、望んでいるようでして。砂漠に生息する一部のモンスターが、砂漠化を深刻にしているようなのです」
と、俺の言葉に父上殿が補足する。
奴らの糞が土に溶け込むと、成分を分解してサラサラの砂にしてしまうんだとか。
まぁひとつの糞でそうなるわけじゃなく、それなりの年数は必要らしい。
緑化させたい人類側も年単位でそれを行うのに、年単位で砂漠化させられては一歩も前進できない。
「ふむ。わずか五年でここまで急成長するとはな。バランシェットが錬金魔法の可能性に懸けてみてはどうかと言った時には、まさかこうなるとは思ってもみなかったぞ」
「ははは。陛下。進言したわしですら、思っておりませなんだ。十数年かけて、ゼナスに堅固な壁が築かれるぐらいしか予想しておりませんでした」
……すみません。五年で壁と城壁と砦を錬金してしまって。
「しかしこうなると……シュパンベルク辺境伯を伯爵領へ戻すのが惜しくなるな」
「で、ですが話によると、兄は領地や屋敷、別荘をほとんど売却して借金の返済に充てていたと」
「うむ。だが心配するでない。購入者のほとんどは、わしの娘婿や知人らじゃ」
公爵様の!?
まさか、こうなることを予想して。
「一部は他の家門に買い取られてしまったが、それも交渉次第じゃろう」
「部分的な土地を手にしたところで、まともな領地とは言えぬだろうからな。土地に関しては、形ばかりとはいえ冤罪を着せたのだ。王国側で全て金を出そう」
そこまでしてくれるのか……。
祖父の代まで守ってきた土地が戻って来る。
父上殿にとっては嬉しい知らせだろう。
だけど……だけど俺は……。
自分で作る楽しみを得られたのに、それを手放すなんて……。
「ち、父上、自分は……自分は、ゼナスを捨てることはできませんっ」
「ディルムット……」
モンスターの数が減れば、また開拓できる。開拓する余地がいっぱいある!
あとタケノコ食べたい! カニ味のサソリだって食べたい!
コロコロ部隊とロボット遊びをしたい!
やりたいことはいっぱいあるんだ。
「ディルムットよ。ゼナスの民を見捨てたくないと思うそなたの優しさ。よぉくわかっておる」
ん?
「ディルムット。お前がこんなに優しい子に育ってくれて、わたしは嬉しいよ」
んん?
「それでこそ、婿に相応しいというもの」
んんん?
「伯爵領については、数年後でも構わぬだろう。ディルムットが成人をし、領地の運営をひとりでもできるようになれば、その時にまた」
「国王陛下のご配慮に、感謝いたします」
「ディルムット辺境伯と呼ばれる日も、近いようじゃな」
「「はっはっはっは」」
んんんん?
どういうこと?




