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毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
3章

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100:公爵家のメイド+伯爵家

「母上。今戻りました」

「ただいま戻りました、お母様」


 王都にあるハルテリウス公爵家の屋敷に、エーリヒ様とエヴァンゼリンお嬢様が戻って来たのは、屋敷を出発して四十五日目のことでした。

 私メリンダは、お嬢様たっての希望で同行できず、お帰りを今か今かと待ちわびておりました!


 もちろん、待ちわびていたのは私だけではない。

 奥様も首を長くしてお待ちでした。


「まぁまぁ二人とも。思ったより早かったのね」

「それが、エヴァが突然帰ると言い出して」


 な、なんですって!?

 変装してまでディルムット様に会いに行かれたというのに。

 はっ。まさかディルムット様、ゼナスで大勢の女性に囲まれ、ムフフあははなハーレムライフを送られていたのでは!?

 う、うちのお嬢様というものがありながら、なんて破廉恥な!?

 許すまじ所業。


「わ、私、運動してきます!」

「え? エヴァ、帰ってきたばかりでしょう?」

「でもあと半年、いえ、あと五カ月しかないんだもの! 絶対、絶対それまでにディルムット様の隣に立つに相応しいレディーになるんだもの!」


 あ、あら。ハーレムムフフでは、ない?


「お、お嬢様。せめて御髪の色を落としてから……お嬢様ぁ~」


 お疲れのはずなのに、お嬢様のお顔は出発前より晴れ渡り、とても輝いて見える。

 なるほど。

 ディルムット様は私が思っていた通り、お嬢様に相応しい殿方だったようね!

 そうよねぇ。

 まだ十二歳かそこらの男の子が、ハーレムなんてあり得ないわぁ。

 三分前の私、反省しなさい。 


 旅の疲れもなんのその。

 お嬢様は騎士団の稽古場で剣を振り、走り込みをし、汗を流されました。

 その結果。


「きゃああぁぁぁぁ、お、お嬢様!」

「どうしたの、メリンダ?」

「やっぱり御髪の色を落としてから稽古をするべきだったんです!」

「え? ……ええぇぇぇ!?」


 黒く染めた御髪の色が、汗によって少し落ちたようで……お嬢様の額には、真っ黒な汗が流れていた。


「ど、ど、どうしましょう。メリンダ」

「大丈夫です。こんな時のための私ですから――クリーン」


 特にこれといって才能のない私だけど、汚れを落とす生活魔法が使えることだけは誇りでもある。

 こうした緊急事態にも対処できるもの。

 でもやっぱり、魔法に頼らずしっかり洗った方がいいに決まっているから。


「さ、お嬢様。今日はここまでにして、湯あみをいたしましょう」

「も、もう少し……」

「レディーたるもの、身だしなみにも気を使うべきです。さ!」

「はうぅ」


 ふふ。お風呂のあとでゼナスでの出来事を、洗いざらい吐いて――おほん。いろいろお聞かせいただかなくてはね。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そんなっ。パパ!?」

「ど、どど、ど、どうして……あなた……どうしてなのよっ」


 シュパンベルク伯爵家に残った、最後の屋敷。そこに運び込まれたのは、土でできた棺だった。

 運んできたのはフィッチャー商会の者。そして……。


「ホーヘンベルク侯爵家からネックレスを盗み出し、その罪をシュパンベルク現辺境伯のご子息ディルムット・シュパンベルクに着せた罪」

「ひっ」

「グランシュ子爵、そしてそのご子息の暗殺未遂。及びシュパンベルク辺境伯のご子息の暗殺未遂の罪により、シュパンベルク伯爵家の爵位を剥奪、私財は全て没収とする」


 王都から派遣された王国騎士団、そして王命執行官が、商会の者たちに同行していた。

 

「はく、剥奪!? ちょ、ちょっと待ちなさいっ。では、私たちはどうなるのですか!」

「貴族、そして身内殺しは重罪。未遂に終わったとはいえ、それはあなたの夫が浅はかで、且つ弱者だったからのこと。傭兵を雇い、実際子爵には命の危険すらあった重傷を負わせているのだ。生きていたとして、処刑は免れないのだぞ」

「パ、パパは悪くない。悪いのはグランシュ子爵とグスタフ、それに叔父上だ!」


 そう叫ぶランドファスを、執行官は溜息交じりで見下ろした。

 もとはと言えばこのガキの手癖の悪さが蒔いたもの。それを理解していないのは、親の育て方が悪かったのだろうが。

 うちの子はこんな風にならなくてよかった……と、心の底から思う執行官。

 同じように、居並ぶ王国騎士たちも思っただろう。


「陛下の恩情により、一族の処刑までは免れたのだ。それに感謝するのだな」

「しょ、処刑!? わ、私たちまで……なんてことをしてくれたのよ、あの男は」

「マ、ママ……」

「ランドファス、荷造りをしなさいっ。シュパンベルク家なんて捨ててやるわ。こんな家門、なんの魅力もないものっ」

「あなたが捨てるのではなく、剥奪ですよ夫人。それに、荷造りは無理でしょう。私財は全て、没収なのだから」


 夫人は夫を亡くした悲しみなど、既に微塵も感じていなかった。

 執行官をキッと睨みつけるが、彼の冷たい眼差しを見て短く悲鳴を上げただけ。

 夫人はランドファスの手を取り、慌てて歩き出す。その方角は屋敷の敷地の外。


「あぁ。ご婦人を無一文で放りだすのは忍びないと、陛下の寛大な計らいにより金貨十枚と馬車一台を持たせよとおおせです。ご用意しておりますので、どうぞ、あちらをお使いください」


 そう言って王命執行官が指さしたのは、馬ではなくロバが繋がれた小さな幌馬車。

 御者は、いない。

 荷車の方には既に土の棺が積まれている。


「あ、あれが馬車ですって!?」

「あの変な馬は……レアホース!?」


 違う。ただのロバだ。


「ちょっとあなた! あんな馬車がありますか! それに御者はどこなのっ」

「陛下の計らいに、何か不満でも?」

「ひっ。い、いえ、ふ、不満何てそんな」

「だったらさっさと出ていくがいい。この屋敷は既に王国所有となったのだ」


 それだけ言うと、王命執行官は小さな皮袋を放り投げた。

 チャリンっと音がする。それを風の速さで拾い上げたのはランドファスだった。

 その様子を呆れてみる一行たち。


「はぁ……では騎士殿、よろしく頼みます。屋敷で働く者たち、集まりなさい。あなた方の身の振り方についてお話しましょう」


 夫人とランドファスには目もくれず、一行は屋敷の中へと入っていった。

 それを見送り、唇を噛みしめる夫人とランドファス。

 果たしてこの二人の行く末はどうなるのか……。

 

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