23、ソロキャンパー、仲裁する。
23話目です。
後2話くらいかかるかもです。
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向かって右側に海を見ながら街道を進む。
風があるせいか波は高めに見える。日はもう中天に掛かり日差しは変わらず強い。
海風が吹いているのが幸いしてか暑さがそこまで不快には感じない。
しかし体は別だ。昨日の全力疾走からの魔力を練る特訓で、筋肉痛というレベルを超える様な痛みに襲われている。朝から御者台に誰が座るかで口論になったほどだ。ちなみに僕が一歩引いてタラちゃんと御者台に。
『『魔力を練り直せば痛みなぞすぐに消えるわ』』と言われて、練ろうとするが脱力が上手くいかずに中々練るところまでいかない。
『『指の先から自分が徐々に液体になって溶けていく様に意識して力を抜くのじゃ』』
指先から液体になる様に、溶けていくように、段々と力が抜けていく。この感覚だろうか?そう思いながら腰から全身に意識を集中していくと、昨日と同じ様に魔力が細い筋となって全身の骨を包んでいくのが分かる。全部の骨を包む頃には不思議な事に体の痛みが消えていた。
「おお!痛みが消えた!ただこの感覚は慣れないなあ」
あの独特の怖気はやっぱり全身を襲って来たのだ。
『『なに、その感覚も慣れれば気にならぬ、と言うよりも常に魔力を練っている状態になるわ。無意識にの』』
そんなものかと、楽になった体をストレッチする様に動かしながら街道を更に進む。
ふとエルダーに「君も魔力が練れるの?」と聞いてみたら『オンッ!』と頷く様に泣き声を上げた。
あれ?この子言葉が分かるのかな?そう思ってタラちゃんに聞いてみると『『なんじゃ?知らんかったか?こ奴は人の言葉を理解しておるぞ?』』なんて爆弾発言を落としてきた。
エルダーの前で変な事言ってないよなとビクつきながらもコーチを覗くと、皆何と言うか伸びたスライムみたいにグデっとしていた。なんとも御愁傷様だ。
そんな風に海辺をのんびり進んでいくと大きいカーブを抜けた先に街が見えて来た。
トライアやダブラに比べて3倍程は大きいようだ。
街の雰囲気自体は二つの町に似ているが、オ・グーニや公都と同じ様に日本のお城風の建物が町の中心に建っている。他の町に無かったところを見ると、領主の館やお城だったりするのだろうか?
そういえば、アイーシャは領主の娘だったなと聞いてみる。
「ねえアイーシャ、あの建物って領主様や大公様がいる、所謂お城なの?」
「いえ違いますよぉ。確かに私たちはああいった建物に住んでいますが、領主の館や大公のお城というのは、そうですね、おまけみたいなものですねぇ。あの形は私達巫女が魔脈を制御しやすい形を優先して造られていると継承の時に聞いていますぅ。なので公都、オ・グーニ、シブカン、3ヶ所にしかあの建物はありませんねぇ」
ああ、そういう事か!なるほどね。あの建物がある種の制御装置って事か。
「そういえば、シブカンの巫女であるユーリさんにも今回のお礼とお詫びをお伝えしておかないといけませんねぇ」
たしかにね。巫女の移動に着いてのあれこれがある事だしね。それは大事なことだ。
ということはシブカンでも公都の様に多少の時間は別行動になるのだろうね。
そうこうしている内にシブカンの門が近づいてきた。街に入ったらとりあえず宿を決めようかな。
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「すまないがうちじゃ大金貨以上は扱ってないんだ。ギルドなりで両替してきてくれよ」
シブカンの門を特に何事もなく抜けて来た僕達(勿論カードに細工して名前と問題ない称号だけ表示できるようにした)は、衛兵に聞いたお勧めの宿『波間のやすらぎ亭』に泊まる事にしたのだけど、貨幣を両替していなかった為ちょっとした悶着になってしまったのだ。
この『波間のやすらぎ亭』は1泊夕食付きで1人大銀貨4枚、5人で金貨4枚、明後日まで泊まる予定だったので金貨12枚もしくは大銀貨60枚が2泊分の料金になる。
只、いざ支払いとなった時に手持ちの金貨と大銀貨が足りなかったのだ。その為大金貨で払おうとしたところ、大金貨は扱ってないという話になった訳。アイーシャやリゼルさん、レッドアイに借りるかとも思ったけれど、公都の前の討伐やらで資金は余ってるのにそんな事はしちゃいかんだろう、という考えが裏目に出た感じ。
「わかりました。両替してきますので、部屋は押さえておいて下さいね」
「おう、部屋は押さえとくから夕食前には戻ってくれよ?準備があるからな」
宿の主人にそう言われながら、ギルダーズ・ギルドを目指す。巫女がいる上に外洋に面した大きめの街、支部はあって当然かな。
「ギルダーズ・ギルドシブカン支部にようこそ!」
ギルドに着き受付に行くとお馴染みの挨拶で迎えてくれた。両替を頼む為にギルドカードを提出、大金貨、金貨をそれぞれ数枚ずつ金貨と大銀貨に両替する。
前回の討伐時は全員のカードが必要だったが、今回は個人的なものだと思われたのか僕一人のカード提出で大丈夫だった。
そのおかげで大きな騒ぎにならなくて済んだ。ステータスの隠蔽もしたしね。
宿に戻り料金を支払って部屋に入る。値段なりの調度で、豪華だった船の部屋に比べると不思議と落ち着ける。
だけど落ち着いている場合ではないのだ!昨日はお風呂に入れていない。この街に無かったら水浴びで我慢しようと思っていたけど、宿の主人が言っていたのだ!共同浴場が4カ所あると!しかも男女別だと!
行くしかないだろう。安心してゆっくりお風呂に入れるんだよ?多分。
皆と別れて男風呂に入ると、日本の銭湯と似た様な感じで脱衣所がありその先に湯船や洗い場が見える。時間帯の所為かお客さんは僕以外に1人だけの様で、気兼ねなく体を洗い流して湯に浸かる。
他の皆もお風呂には入りたかった様で、連れだって1番近くの浴場へ向かう事になった。荷物を一旦抜いたザックに着替えとタオル、石鹸に、のどが渇いた時用のペットボトルと簡易浄水器を詰めて持っていく。共同浴場は入口が二つに分かれていて、それぞれが青と赤に塗り分けられていた。
先に入っていたお客さんと何気なく目が合って思わず会釈する。そのお客さんはこちらを見ながらニヤリと笑った。え?何その笑い?・・・まあいいか。
良く見ればかなりの美形だ。髪は灰色、瞳も灰色、全体的に引き締まっている体。
本当にこの世界はイケメンばかりだな等と考えていると彼は何も言わず先に上がっていった。
体も充分に温まったので僕も上がる。皆とは入口で待ち合わせにしていたので入口に据えてあったベンチに座って皆を待つ事にした。
『『待たせたかの?』』
「お待たせしましたぁ」
少し遅れて皆も風呂から出て来る。湯上りに火照った肌、その肌にまだ乾いていない髪が数束張り付いていて艶っぽい。
いや、本当に皆綺麗だなと思わず見とれてしまう。アイーシャが見られている事に気付いたのか少しだけはにかんだ。可愛いなあ。
待っている間に日も落ちて来ていた。今日はもう食事にしよう、と皆で連れ立ってシブカンの街を冷やかしながら宿に帰る事にした。
宿の食事は港町とあって、やはり魚介がメインだった。二枚貝を数種類使ったパスタの様な麺に、ヒラメの仲間に見える魚のムニエル、そして山盛りの甲殻類。見た目はウチワエビが横に広がって、ハサミが大きくなった様な感じ、これが凄く美味しい。伊勢海老をもっと濃厚にした上でさっぱりさせた感じ。濃厚でさっぱりとか意味が分からないけど、その表現が一番しっくりきたのだ。
茹でと焼き、2種類選べたので半々に頼んだのだけど、量が半端ない。これ1人頭3人前はあるんじゃないか?
確かに衛兵がお勧めするのも頷ける。この食事で一泊大銀貨4枚は安いね!
甲殻類を食べている時はやはり異世界でもそうなのだろう。皆黙々と幅広ウチワエビを毟っては食べていた。ああ、幸せだわ。
「そういえば、この世界のお酒って飲んだ事無いなあ」
「あれ?そうでしったけ?野営のときに酒精が強そうなお酒を飲んでませんでしたぁ?」
「ああ、あれはウイスキーっていって、元いた世界のお酒だね、そうだねえ確かに強い部類に入るかな」
『『なんじゃと?ユズルよ、お主イケる口じゃったのか!?』』
「まあ、少しは。でも、酔った時に自分を抑える事が出来なくなりそうで我慢してます」
「抑えなくてもいいんですけどぉ」
『『じゃのう!こ奴はちょっとカタ過ぎやせんかの?』』
ポロリと本音をこぼした僕に2人が妖艶な笑みを浮かべながら詰め寄る。
ほかの2人に助けを求めようとするが、残念ながら幅広ウチワエビを食べるロボットと化している。
ああマズったなあと思いながら二人の攻めをのらりくらりとかわしていた時。
「ぬ。タラスクではないか!何故貴様がここにいる?」
『『うむ?なんじゃ?わし等の睦言を邪魔する等と・・・、おや、お主、海の底に引きこもっておるものだと思っておったが、引きこもりはやめたのか?』』
ん?タラちゃんの知り合いかな? !! ってことは、もしかして。
『『まあ、それにしても久しいの、リヴィアス坊や』』
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「しかし、本当にはぐれ人殿であったとは。浴場での無礼、お許し頂きたく」
『『この様な老成じみたしゃべり口をしとるがの。こ奴はまだほんの餓鬼じゃぞ?この位のな。クフフ』』
そう言いながら、タラちゃんは親指と人差し指を近づけて見せる。
「…うっせぇババア」
リヴィアスが聞こえない様に小声で何か言った様だが…、これか、すぐ喧嘩売ってくるって言ってたのは。
『『ババアと言うたな?毎度のことながら覚悟は出来ておるのじゃろうな?糞餓鬼?』』
「はあ?ババアつって何が悪いんだ?おいババア!」
『『糞餓鬼が…、一度ならず、二度、三度。もう許さぬ!格の違いを思い知らせてやらねばならぬの!!』』
えええ、ここで喧嘩始めちゃうの!?
『神代の者』2人がこんなとこで闘い始めたら周りが只じゃすまないでしょ!ちょっと大人になって?
「ちょっと待って!二人とも!今喧嘩してる場合じゃないでしょ?」
2人のあいだに入って、体で止める。
『『じゃがこ奴はわしをババアと!何度も何度も!』』
「はぐれ人殿、しかしこのババアは!いや、タラスクは私を餓鬼と侮辱して!」
「だから!今はやめてって言ってるの!迷惑にならない所でなら思う存分やって良いからさ!!ちょっと落ち着いて話しましょ?ね?」
『『…むう、しょうがない。今は我慢してやるわい』』
「はぐれ人殿がそうおっしゃるなら…」
と、2人が落ち着いたところで話を進める。そうそう、このリヴィアス、お風呂にいた人だったんだよね。後で「あの時なんで笑ったの?」と聞いたら「いや。こちらに会釈されたでしょう?ですから挨拶を返しただけですよ?」だって。
どうみても意味ありげな含み笑いにしか見えなかったんですけど?まあいいや。
どうもこのリヴィアス、街の生活に紛れるのが好きなようで、ちょくちょく街中に遊びに来ているらしい。引きこもりってわけじゃあなかったみたいだ。
で、今日はお風呂に入って帰るつもりだったけど、ちょっと1杯やっていくかと『波間のやすらぎ亭』に立ち寄ったところ、タラちゃんがいたもんでつい声を掛けたら、僕も一緒にいてあらびっくり、ってことらしかった。
兆候が出ていないにのにはぐれ人がいる事に驚きながらも、まあ話を聞いてみるかと部屋についてきたって訳だ。で、喧嘩になったと。でもなんていうか、喧嘩というよりじゃれあいっポイ感じにも見えるかな。
「さて、はぐれ人殿」
「あ、僕ユズル・イスルギと言います。今後はユズルで結構ですよ」
「…ではゆずる殿、私はこれより我が居に戻り準備を整えます。明日の朝また迎えに参りますので、詳しい話はその後で宜しいか?出来ればその時にでも貴殿の魔法やスキルも拝見させて戴きたく」
「ええ。それは構いませんが」
『『儂を歓待する準備もしておくのじゃぞ?坊主?』』
「うっせえババア、てめぇには、ムシロ1枚で充分だ!!」
『『なんじゃと!この糞餓鬼!!』』
――うわあ、ちょっと行きたくないんですけど。
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次の日の朝、僕たちは港でリヴィアスを待っていた。
アイーシャはシブカンの巫女ユーリさんに会いに行くため別行動。リゼルさんはそのお供だ。レッドアイはシブカンの武器や防具が見たいらしく、街を巡ってくるとのことだった。
そんな訳で、今日はタラちゃんと二人で行動。
港について数分程でリヴィアスがやって来た。
「では参りましょうかユズル殿」
「分かりました、けどどうやって海の底まで行くのですかね?」
「私が本来の姿に戻りますので、その背に乗って頂ければ。術で海中でも呼吸できるようには致しますので」
そう言いながらリヴィアスが本来の姿に戻る。
――マジか。
リヴィアスという名前から「リヴァイアサン」を想像してたのだけど、ナニコレ。
――シャーク〇パスじゃん。
次回は明後日投稿予定です。




