24、ソロキャンパー、海底にまいる。
24話目です。
気づけば10万字を超えていました。
書き続けるのは大変ですが楽しいです!
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メガロドンかと思わせる巨大な鮫、只、胸鰭の後ろからは蛸とも烏賊ともつかない触手が左右に5本ずつ。体色は全体的に灰色で、良く見ると触手の先が人の手の形になっている。
鮫と決定的に違うのは熱帯魚のプレコみたいな鱗が頭部以外の全身を覆っている事か。
……正直グロい。
あ、触手で歩くのね、……グロさが2倍増しになったよ。
あれだよね。これ見た目は完全に敵側だよね、なんとなくクトゥルフっぽいし。
「さあユズル殿、私の背にお乗りください。私の住まう聖域『シモール』までお連れ致しますので」
「あ、ありがとう」
正直乗りたくなかったが、言われるままに背鰭の辺りに跨る。見た目より乗り心地は悪くなかった。そういえばタラちゃんはどうするんだろうか?
あ、僕の後ろに跨るの? ちょっと、色々押し付けないでくれる?いやマジで。
というかこれ周りの人達大丈夫なのか?そう思い周囲を窺うと、特に気にもしていない様に見える。
「これ周りの人達大丈夫なの?」
「ああ、この街の者は私のこの姿を見慣れていますから、問題は無いかと。それよりタラスク!なぜ背中に乗っている!?」
『『なに、海の底までじゃ。我慢せい、ひよっこ』』
「ちょっと、ここで喧嘩はやめて下さいね?」
ゴチャゴチャと言い合いながら海に入る。リヴィアスが結界魔法の様なものをかけてくれたおかげで、海中に入っても呼吸は出来るし、濡れる事も無かった。
さっきの話からリヴィアスは結構な頻度で街に来ているのだろうなと感じ、聞いてみる。
「ねえ、リヴィアスさん。やっぱりあなたもこの世界に生きる者は同胞だと考えているのかな?」
やはりその気持ちは同じらしく、むしろそう思わない神代の者など皆無らしい。この世界に生きる全ての者たちは同胞である、この想いは全ての神代の者が共通して抱いているとのことだった。
「この世界に生きている者は皆それぞれ懸命に生きています。その者達を同胞と感じ、護るのは力ある私たちにとって当然の事かと。まあ、時々いらぬ誤解を受ける者もおりますが。それとユズル殿、私に敬語を使う必要はありません」
「分かり、分かったリヴィアス。それにしてもここの海中は凄いね」
今は海中、およそ50メートル程潜ったところだろうか?
そうそう、この世界の長さや距離を測る単位は下から、イン、フット、ワート、マーフとなっている。オ・グーニで防具を買う時に知ったのだ。
で、1インがおよそ3センチ位、1フットが30センチ弱、1ワートが1メートル無い位で、1マーフは1.5キロちょっと、マーフについてはあくまで目算だけどね。
ただ分かりにくいので僕はセンチやメートルにある程度換算している。1イン以下の単位もあるのだろうけど、確認したのは4つだけ。
で、リヴィアスが言うには『シモール』までおよそ2マーフ潜るらしい。海底2万マイルならぬ、海底2マイルの旅ってわけだ。
海中はまだ日の光が差し込んでいて、色とりどりの魚が群れを為しているのが見える。
その魚の種類、数だけでも海の豊かさを感じることが出来、岩に張り付く珊瑚の様な生物や、多種に渡る海藻、また海水自体の透明度と相まって自分が竜宮城か何かに向かっている様な感じを受ける。
しかし、大陸棚の様な切り立った崖を超えたところから一気に深度を増して、日の光も段々と届かなくなってくると、人にとっての根源的な恐怖を感じさせる暗さになってきた。
所々にうっすらと灯りが見えるのは深海の生き物だろうか?
「もうすぐです」というリヴィアスの言葉に前方を向くと、深海の闇の中に煌々と輝く神殿の様な場所が見えてきた。海の底深くにある筈のない建造物が見えて、ああ、やはり異世界なのだなと、このダリアに来て何度目になるか分からない再確認をする。
神殿の入り口は大きな扉が無い門の様になっていて、体長10メートルを超えるリヴィアスでも悠々とくぐり抜ける事が出来た。
「ようこそシモールへ、ユズル殿」
門をくぐった先はまるで地上の様だった。何らかの結界が施されているのだろう、岸壁に沿う様に建てられた神殿の周囲は、半球を更に半分にした様な膜に覆われて海水の浸入を防いでいた。
その膜が煌々と光っている為か深海なのに非常に明るく、花さえ咲いている。
前庭とでも言うべきか、神殿の前には庭園が広がり花や樹木それぞれがきちんと手入れされているのが窺えた。
リヴィアスに促され神殿の内部へと入っていくと、中はやはり広く整然とした印象を受ける。
特に何かが置いてあったり、祭壇があったりという訳ではないのだがリヴィアス自ら聖域というだけあって、静謐で澄んだ空気に満ちていた。
タラちゃんのところはもっと雑多な感じかなあ。なんて考えていると、そんな僕の心を読んだかのように『『儂が居るクジュもこの様にちゃんとしとるぞ?』』だって。
その一角、隅の方に据えられた椅子に座る。リヴィアスが飲み物を用意してくれたので口に含むと独特の風味と甘さが広がる。なんだっけこれ、あ、甘茶の味だ。
幼い頃におじさんと山へ取りに行った事がある。蔓状の植物でモミジみたいな葉っぱだった。初めて飲んだ時はびっくりしたっけな。なんでこの葉っぱがこんなに甘くなるの?って。
「さて、まずはユズル殿、なぜあなたが呼ばれているのか、という事ですが。…はぐれ人が召喚されているという事はやはり【神々の収穫】が起こる。ということで宜しいのですかな?兆候は全く感じておりませんが」
「ああ、そのことは…」
『『よい、ユズルここは儂が話そう。同じ神代から聞いたほうが理解しやすい部分があるやもしれぬしの』』
そう言ってタラちゃんは今までの出来事を話していく。リヴィアスの表情が目まぐるしく変わるのが見ていてちょっと面白い。が、最終的には真剣な顔つきになっていた。
「まさか、奴らが神ではなく星空に住む者だったとは、しかもこの星を滅ぼすと…、到底許せるものではないな」
リヴィアスは怒りに満ちていた。気持ちは分かる、僕も自分の周りの大切な人がなんの理由も無く、ゲームの駒みたいに殺されるのが分かっているのならば、リヴィアスと同じような感情を持つだろう。
タラちゃんも飄々としているが内心はエスペラーザに対する怒りに震えているのだと思う。
「この事はすぐにでも他の者達に伝えねばならぬでしょう」
と、リヴィアスが部屋の奥から何かを持ってくる。正立方体のそれは、紫とも青ともつかない色の水晶の様な物体だった。彼がその立方体に手を翳すと、それは頂点を軸として回転を始める。
「これは?」
「他の神代の者とのみ連絡が取れる道具です。ユズル殿がいた地球の呼び方だと、まあ、魔道具になるのでしょうな。これより残りの者たちに今お聞きしたことを伝えますので、しばしお待ちを」
まあ、魔道具なんて地球には無いんだけどね。誰が教えたんだその知識?そう思いながらリヴィアスの様子を見ていると、立方体が淡い光を放ちその光が彼を覆っていく。
静かなままの彼を見るに念話の様な通信方法なのかも、とそれが終わるまで見守ることにした。
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――さて、ユーリさんはどちらにいらっしゃいますかねぇ。
ユズルさん達がリヴィアスさんと『シモール』にお行きになる頃、私とリゼルはシブカンにおいて祈りを捧げていらっしゃる『ユーリ・エル・ランスドール』さんに会いに来ていました。ユーリさんは私の2つ年上で現在20歳、私と同じようにシブカン領主ランスドール家の御息女です。
私がオ・グーニを長期間離れる事に関しての引き継ぎやお詫びの為に、ランスドール様の館にお邪魔したところ、ユーリさんがいらっしゃらなかった為、さて、どうしましょうかと、一度館の庭まで戻って来た訳なのですが。
「アイーシャ様、また時間を改めてはどうでしょうか?」
「でもリゼル、折角来たのだからもう少し待ちませんかぁ?」
屋敷の門の方から声が掛かったのはその時でした。
「あ!アイーシャ!久しぶりー!2年前に公都で会って以来だねー!」
華やかな金色の髪を風に靡かせながらこちらに向かって歩いてくるその姿は、2年前より更に凛々しくかつ可憐さを感じさせます。といっても実は見た目に比べてお元気な方なのですが。
「ユーリさん!!お久しぶりですぅ!お元気でしたか?」
ユーリさんとお会いするのは、巫女の継承で2年前に公都に行った時以来なのですが公都の巫女である『ハルカ・エヴァーグリーン様』と3人で頻繁に手紙のやり取りをしていたせいか、実際にお会いするのは久しぶりでもなんというか仲の良い近所のお姉さんといいますか……、ああもう、とにかくお会いできて嬉しいんです!
「で?はぐれ人と出会ったんだって?」
「はい!ユズル・イスルギさんと仰います。とっても素敵な方ですよぉ」
お茶でも飲みながら、と場所を館のテラスに移してまずはお詫びをとなった訳ですが、女性が3人集まるとやはり姦しいもので、ついついお喋りに花が咲いてしまいます。
「で?どうなの?そのユズルさんだっけ?」
「はい。なんといいますか、……一目惚れ、といいますか」
「「きゃーー♪♪」」
「それでそれで?どこまでいったの?まさか、もう?」
「いえ、まだこちらの気持ちをそれとなくお伝えした程度なのですぅ」
「ええー。もっと押していけばいいのに」
「そうなのですよ。私もそれとなくアイーシャ様に言っているのですが…」
「ま、まあ、時期を見て押して行こうとは思っていますけど…、って、そろそろ引き継ぎを終わらせないといけないのでは?」
「あ、逃げたね?」
「ええ、これは逃げましたね」
いや、逃げてはいませんよ?祈りの引き継ぎはとても大切なことですから、逃げてなんていませんからねぇ。
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「ねえ?タラちゃん?」
『『ん?なんじゃ?』』
「タラちゃんもこの連絡用の魔道具?持ってるんですよね?」
『『勿論持っとるぞ?それがどうかしたか?』』
「いや持ってるなら、それ使えば良かったんじゃないかなと思って」
『『何をゆうとる、わしが旅を始める時にゆうた事をわすれたかの?』』
「いや、まあ確かにそうだけど」
『『まあ、結果として【収穫】が行われるのは確定しとるしの。どちらにせよ、一度クジュの山には戻らんといかんじゃろうな』』
「さて、ユズル殿、残りの者達に顛末は伝え終わりましたぞ」
リヴィアスが通信を終えた様で、魔道具とリヴィアス自身を覆っていた光が消える。
全ての神代の者に連絡はついた様で、各々が【収穫】に向けて対抗する為の準備を始めるとの事だった。
「ユズル殿には一旦全ての神代の者がいるところを巡って頂くことになります。最終的には我々を統べる立場にある『ヴィルナシーヴァ』の元へ皆集まる事になるとは思いますが。
それはそうと、昨日も言いましたが是非私にユズル殿の力を見せて頂けますかな?」
「あ、そうでしたね。じゃあちょっと準備しますね」
やはり旅は続ける事になった。まあそれは良いけど折角だから神代の者についてもう少し聞いとく事にするかな。
「それと、ババア!ユズル殿の力を見た後はてめぇだからな?」
『『なんじゃ?まだ戦る気じゃったのか?分かった分かった。好きにせい、小坊主が』』
これ後で怪獣大決戦とかにならないよね? いやほんと。
次回で第1章は終了です。
週末はちょっと時間がとれるか分かりませんが出来るだけ投稿したいと思っています。




