【番外編:side of Jack】君は誰
仕事を終えて、描いてもらった絵を送る算段をつけながらいそいそと寮へ帰った。
明日はまた仕事だから、明後日には配達人探して…
あ~折角だから、何か他の物も送ろうかな。
食べ物は無理だけど、これから寒くなるし防寒になるものとか。
「おいジャック、何ニヤけてんだよ。女か?」
「お疲れ。そんなんじゃないよ。まぁ、可愛い女の子のお陰だけどね」
パシンと肩を叩いた同僚に、つい似顔絵を自慢した。
そいつがすげーな!と大声を上げたせいで、他の奴も寄ってきてたらい回しにされる。
表面に触るなとか、汗かいた手で触るなとか、ギャーギャー騒いでいると木紙までバレた。
上手く言い訳も出来ず、似顔絵を田舎に送ろうとしてることも絵手紙を描いてもらったことも話すはめになった。
でも、思っていたよりネタにされることもなく、後から何人かが絵手紙の依頼はいくらだったのか聞いてきたりしたから、やっぱりみんな多少の郷愁は感じているのかもしれない。
どこまで広がったのか、次の日にも似顔絵を見せろと言ってきた奴が何人もいて、面倒になってさっさと田舎に送った。
ストールとマフラーも一緒に頼んだから、正直返事が返ってくるのが楽しみでたまらない。…元気でやってるといいんだけど。
呑気にそんな事考えてたら、何日かしてシュビック隊長に呼び出された。
隊長執務室の前で無意味に制服を整えて、恐る恐るノックをする。
「第二騎士隊ジャック・ミルシー。お呼び出しに応じて参りました!」
「中へ」
「失礼致します」
扉を押し開ければ、別に怒ってはなさそうな表情で隊長が座っていた。
「呼び出して悪い。まぁそこにかけてくれ」
「失礼致します」
緊張しながらも示された応接セットのソファに座ると、隊長も向かいに座った。
「今日の用件だが、お前、最近似顔絵を描いてもらったか?」
「はい」
「それ、今持ってこれるか?」
え?描いてもらったけど、すでに手元にはない。
なんだ?描いてもらっちゃヤバかったのか?
「いえ…田舎の両親の所に届けてもらえるよう配達人に頼みましたので、もう手元にはございません…」
「そうか…」
俺の話を聞いて、隊長は少し考え込むような様子になった。
無言で待っていると、ややあって説明してくれた。
「近衛騎士の間でミルシーの絵が話題になっただろ?それで、王太子殿下が興味を持たれてな。ぜひその絵を見たいと言っていたんだ」
王太子殿下がご興味を持たれた絵を、俺は見せることもせずに田舎に送ったということか。
…嫌な汗が背中を伝う。
「ああ、悪い。別にお前を責めてるわけじゃない。仕事上の事でもないしな。どこの画家に依頼したか詳しく話してくれるか?」
「月の光亭という酒場に居た、黒目黒髪の若い女性の画家に頼みました。名前はナオミ…すみませんが下の名前はわかりかねます。同じ宿に泊まっている様子で、旅行者だと言っていました。絵の代金は客に決めさせるとのことで、金に困っている様子はありませんでした」
出来るだけ詳しく話すと、隊長がわかったと告げて部屋を退室した。
なんか、ナオミちゃんごめん。
その後、何人か騎士がナオミちゃんに依頼に行ったみたいで、描いてもらった奴らが自慢しまくってて結構面倒だった。
「ほら!これ、すごくねぇか!?」
「ああ、わかったわかった。似てる似てる」
「お前、もう少し感動しろよ!」
「最初に描いてもらったのは俺だっつぅの!もう聞き飽きたよ。第三の奴もわざわざ見せに来てたし」
「まぁ、実際描いてもらうと、自慢したくなるのもわかるわ。
中々可愛い子だったし!」
うひひと笑う顔に少しイラつく。
ナオミちゃんは可愛いけど、お前には言われたくないというか。
「お!女の話か?」
話に加わってきたのは女好きな奴で、嫌な予感しかない。
「絵描きの姉ちゃんの話だよ!ナオミちゃんつって、中々可愛い子でさ」
「ああ、俺もこの前覗きに行ったわ。でも、俺はもうちょっと美人の方が好みだな」
うるさい。鏡見てから言え!
「ええ、優しそうで可愛いじゃん。王太子殿下の依頼が終わったら、俺、なんかプレゼントでも渡そうかな~」
プレゼントか。あの黒髪に合う髪飾りとか。うん、良さそうだな。
「でも、あの子調査しても、なんにも出てこないんだろ?言葉は流暢らしいけど、なに人なわけ?」
「なに人でもいいよ。ナオミちゃん、何が好きかなぁ」
絶対こいつより先に行動しよう。と思っているとシュビック隊長が現れた。
「仕事中じゃないだろうな?」
3人とも敬礼を取る。
「いえ、本日の勤務は終了しております!」
「ああ、じゃあ敬礼とかいいぞ」
俺が代表で答えると、隊長がひらひらと手を動かした。
敬礼をとくと、1人が図々しく話しかけた。
「隊長は、女にプレゼントとか何を贈るんですか?」
「プレゼント?」
「今、そういう話をしてて。ちょっと可愛い子がいるんですよね。何を贈ろうかなと思って」
「…贈り物なんてまともにしたことはないな」
どうでもよさげに隊長が答える。
「えぇ。自分が贈ったもんを喜んでもらえたら嬉しくないですか?」
「嬉しいなんて感じたことはないな。贈り物しなきゃ落とせないような、金のかかる女を追いかけ回すのはやめておけ。じゃあ、仕事に戻るから」
呆れたようにそう言って去っていく後ろ姿を見送る。
「でも隊長、前にかなりの美人と遊んでたよな。胸がこんな」
言いながら胸の前で両手で大きな半円を描いた。
確かに、最近は見ないけど、それこそ数年前隊長になるまでは色んな美人といるところを見かけていたように思う。
「格好いいな。俺も言ってみてぇ!『贈り物しなきゃ落とせないような女はやめておけ』」
「やめとけよ。あの顔とあの身体で、若いのに隊長職っていうのがあってこそモテるんだよ。お前が同じこと言ったら、女に反感くらうぞ」
全く似てないシュビック隊長の真似を披露するから、つい突っ込んだ。
殿下の依頼がある可能性がある間は無闇に関われないし、早く終わらないかな。
担当出来れば一番いいんだけど。
そう思っていたけど、依頼は難航しているようだった。
調べてもナオミちゃんの過去が一向に出てこないらしい。
なに人かもわからないし、月の光亭に泊まる以前の宿泊記録もない。
面白がって本当は人間じゃないんじゃないかと噂が出るほど、一切不明らしい。
そうしているうちに、田舎から返事が届いた!
配達人が言うには、親は驚いて涙を流し、村の人間はわらわら集まってきて「都会にはすごい絵を描く人がいるもんだ」とちょっとしたお祭り騒ぎになったらしい。
絵手紙には元気の所に大きく○がついていて、誰かに頼んだんだろう、隅に「ありがとう」と書き添えられていた。
直ぐにでもお礼を言いに行きたいが、殿下の依頼がどうなったのかわからない。依頼しないならしないで、早く決めてほしい。
◇
月の光亭に行くと、ナオミちゃんが、リックとルドルフと一緒に座っていた。
目があったので手を上げて歩いていく。
「ここ空いてる?」
今日はただ会いに来たわけではないので、少しドキドキする。
「はい。どうぞ」
笑顔に罪悪感を感じながら隣に座った。
とりあえず注文を済ませ、言いたかったお礼を言う。
「この前はありがとう。返事が来たよ」
2人がいるから、少し小声だ。
「困ってることもなさそうで、俺も安心できた」
「よかったですね」
「うん」
自分のことのように笑ってくれる。可愛いな。
ちょうど酒と料理が運ばれて来て、店員を呼び止めた。
珍しくもう飲んでるみたいだし、ちょっと酔ってくれた方が情報が聞けるかなとか…。
「今日は飲んでるんだよね?一杯奢るよ」
「いえいえ、お気持ちだけで」
「ナオミちゃん、男から勧められたら喜んで奢ってもらえばいいんだよ。おい、ジャック、最近見なかったと思ったら、来た早々ナンパか?」
リックがニヤニヤと援護してくれた。
「そうなんだよ。なかなか靡いてくれなくて」
おどけて肩を寄せれば、ルドルフが笑う。
「有名画家にかかっちゃ、色男も台無しだな」
「はいはい、ありがとうございますー」
ナオミちゃんからは軽く流されてしまったけど、とりあえず酒を勧めた。
「じゃあ、若いやつらの邪魔はしないでおいてやるよ」
そう笑うリックとルドルフを、シッシッと別のテーブルに追いやった。
絵手紙のお礼を言いつつ、今日の仕事を果たすために話題を振る。
「ナオミさんの国ではああいう手紙は一般的なの?」
「一般的、ではないですね」
「そうなんだ。ナオミさんってどこの国出身?」
今のってわざとらしかったか?
調査部が調べてもあまりに情報がないから、ダメもとで調べてこいって言われたんだよな。
結果は出せなくてもいいから、バレるなと言われてんだよ。
「識字率が高い国ですよ。木紙に描いたような絵を描ける人も多いですね」
ここで、重ねて国の名前を聞くのはおかしいのか!?
あ~わかんねぇ!!
ダメだ。俺やっぱりこんなの不得意だ。諦めよ。
頼まれてた絵手紙の値段なんかを聞いて、とりあえずこの先の滞在先を確認する。
「知り合いに頼みたいって言ってた奴が何人かいるんだけど、手紙の分だけで受けてもらえるかわかんなかったからさ。紹介してもいい?まだ月の光亭にいる?」
「紹介はして欲しいですが…月の光亭にいるのは後10日程でしょうか」
あれ?国に帰ったりしないよね!?
「あ、そうなんだ。まだこの国にいるの?家は決まった?」
「……………」
無言のまま曖昧な顔で笑ったナオミちゃんに言葉を続ける。
「あれ?もしかしてまだ次の当ては決まってない?」
「うーん、実はそうなんですよ~」
「シュリシュは中々家が借りにくいからね。あ~俺が騎士寮じゃなければ、一緒に住む?って聞いてあげれたのに」
チッ!独身騎士が入寮必須じゃなければ!
「前も思いましたけど、ジャックさん軽いですよね」
「俺はいつだって本気だよ?ナオミちゃん可愛いし、チャンスがあるなら男としてチャレンジするしかないでしょ」
あ、遊びだと思われてる?
う~ん結構本気なんだけどな。
「色男さん、遊びじゃなくてみんなに本気なんですよね。私の国にも近い人いましたよ」
「じゃあ、その『近い人』もきっといい男だろうね!」
近い人とやらがナオミちゃんの恋人とかでなければいいなと思いながらも、笑って返した。
「自分で言いますか」
楽しくなって笑えば、ナオミちゃんも笑ってくれる。
早く依頼終わらないかな。他愛のない話をしながらその後もう1杯酒を勧めて、遠回しに色々聞いてみたけどなぁんにも収穫なし。
ま、期待はされてないだろうからいいや。
ナオミちゃんに見送られて、機嫌よく帰った。
次の日職場で報告を上げる。
・識字率が高い国出身
・シュリシュにはまだ滞在予定だが、行き先未定
その他細々報告をしたけど、書記官がため息ついてたから大した情報が集まってないんだろうと思う。
「調査長引いてるみたいだね」
「ああ、王太子殿下が諦めようとなさらないらしいぞ」
書き込んだ木紙を重ねながら書記官が愚痴る。
「へぇ珍しいな。あんまり無茶を言われる方じゃないのに」
「なんか、何枚かご覧になった絵が、どれも上手いこと描かれた人の特徴が入ってて、大層ご興味を持たれたらしくてな」
「あ~確かに。俺も自分の絵を見てちょっと感動したもんな」
「その割に正体不明だろ?シュビック隊長自ら接触・担当する可能性も高くなってきたらしい」
特別依頼の担当に隊長が動くってすごいな。
「何でもいいから早くに終わってほしいな」
「全くだな。情報が無さすぎて、調査部の奴らがシュビック隊長のため息が怖いって愚痴ってたよ」
気の毒に思うけど、隊長が動いてでも早くに依頼が終わればいいな。
それで依頼が終わったら食事にでも誘って…ああ、追跡監視があるのか。
いつ見張ってるかわからないし、ナンパしてんの見られるのは気まずい…
早く何もかもおわらないかな~




