第八章 ある夜の物語
「今でも完成はしていないの?」
「これだっていう結末が見つけられない。だからそれが悔しくて、なんとか物語を完成させたくて、お父さんは今、運命に逆らっている。本当なら事故に遭ったその時に死んでいたはずなのにね」
そこで振り向いたお父さんは私を見て穏やかに笑う。
「だけど、そろそろ限界だ。すごく眠いよ。意識が溶け落ちていく」
それが先ほどの物語の消滅の理由。そしてお父さんが天に召される予兆。
胸がざわついて、背筋が気味悪く痺れて、唇が震えた。
「もう、どうしようもないの?」
「残念だけど世の中にはどうしようもないことの方が多い。それに僕は最後に亜子に会えた。欲を言えばお母さんにも会いたかったけど、それでも恵まれているよ」
「……お父さん」
「亜子に一つお願いがあるんだ」
「何?」
「言ったように僕の作った物語は完結していない。そこで亜子に完結させてほしい。どんな結末でも構わないから物語を君へ託したいんだ」
お父さんはこちらへやってきて「ダメかな?」と照れ臭そうな笑みを浮かべて後頭部をかいた。
私は首を横に振って「やる。私が完結させる」とはっきりと答えた。
だって、お父さんの意志を継ぐこともとても大切な事に思えたし、それにもう一度キネムに会いたかったから。
お父さんは私の体を包むと抱き寄せた。
私もお父さんの背中に手をまわした。
恥ずかしかったけど、暖かくて気持ちよくてお父さんの匂いがして嬉しかった。




