第八章 ある夜の物語
「私、キネムからお父さんを感じた」
お父さんの心音を微かに感じながら言った。
「キネムは僕の心を強く反映した案内人。名前は僕が子供のころに飼っていた猫からもらったんだ」
だから傍にいるだけであんなにも落ちつけたんだ。
「キネムが言ってた。遠く離れていても想い合う心があればいつも一緒だって」
「……うん。僕の飼っていた猫のキネムも死をもって僕にそれを教えてくれたよ。凛々しくて穏やかで堂々としていて格好いい奴だった」
お父さんの心音が弱まっていく。
お父さんも死んで行くんだ。
生ある以上、いつかこの時がやってくるのは分かってはいたんだけど、それが今なんだ。
私はこの命を離したくなくてお父さんの背中にまわした手に力を込めたんだけど、お父さんにそっと肩に手を置かれると、離れざるを得なかった。
お父さんの背後に熱い光を感じた。
生命の光。
とても熱い。
「迎えだ」
お父さんと並んで窓を見る。
透き通った透明な肌にたくさんの青白い炎を詰め込んだ大きな動物の顔があった。氣燐だった。
「亜子、僕も君もお母さんも、みんなみんないつも一緒。悲しむなとは言えないけれど、過度に悲しむ必要もない。キネムが君に伝えたのは真実だから。僕も心の一つを君に、また一つをお母さんへ残していこう」
受け継ぐことは大切。
こうして生き物は明日へ、明後日へ、より良い未来へ魂を運ぶ。
ご先祖様のたくさんの心、つまり魂と交わりながら。
しっかりと絡まりやすいようにDNAは螺旋を描いているのかも知れない。
ああ! そうなんだ。これが命!
ホタルイカの打ち寄せる砂浜でキネムは言った。
未来にはきっとまだ見ぬ素敵な光があるから命を繋ぐのだと。
確かにそれも一因だろう。
けれど、だけれど、本当はこうして先人の想いを絶やさないために私たちは生きて子孫を残すんじゃないだろうか?
ご先祖様の頑張りを繋げるために私のご先祖様もその前のご先祖様も繰り返し繰り返し想いを繋いできた。
何億年もの小さな生命の想いが積み重なり今では投げだせないくらいに巨大で大きな強い想いになり、私はそれを背負っている。
なんてことだろう。
私の命は本当に大きい。




