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第八章 ある夜の物語
「キネムはお父さんなの?」
緊張してキネムの手を強く握った。
「半分正解、半分外れ」
「分かりやすく教えて」
「僕は登場人物の一人。主人公『亜子』の案内役を担って生み出されたキャラクターなのさ。だから他のキャラクターとは違い、今も何とかこうして君と触れ合っていられる」
「どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」
「僕は物語の登場人物の一人だったから。物語が消えて物語から離れた今だからこそ話せるんだ」
そうだ。物語は突如消えた。
確かに結末には近づいていたようには思うけど、あれが結びだとは思えない。
だとしたら。
「物語が消えたのは何故?」
「僕の口からは言えないよ」
表情が見えないと不安になる。言葉だけじゃなく、表情からも心を読み取れることの大きさを暗闇は教えてくれている。
と、その時、暗闇にキネムの猫のような緑の瞳が浮かんで私を見ていた。
「亜子、僕もそろそろのようだ」
「そ、そろそろ?」
心臓がドクドクと音を立てて手に嫌な汗をかいた。
「消えるんだよ。他の仲間たちと同じようにね。ここからはまっすぐ行くんだ。とにかくずっとまっすぐ」
ああ、やっぱり……。
見つけた大切な物が消えていく。
せっかく手に入れたのに無くす。
その絶望と言ったら、とても言葉で表せるものじゃない。だから人は泣くんだろう。




