第七章 やおよろず屋のある箱
すると月光市場の高い柵の向こうの夜空の一角が輝きをなくした。
まるでスイッチを押して部屋の明かりを消したようにパッと暗くなった。
「もう限界か」
キネムが弱々しくつぶやいて私を見た。
私が可哀そうに思えてしまう、深い憐みの瞳。その瞳に緑色の光の筋が流れる。
「何が起きてるの?」
「……物語が終わる」
「物語?」
「今、この世界が消え始めた」
「えっ?」
外へ目を戻す。
あんなにも騒がしく輝いていた星空は次々と光を失い、暗黒星雲のような暗闇が徐々にこちらへ向かってきているようだ。
「世界が消えている? それってどうなっちゃうの?」
「言葉の通りだよ。何もかもなくなっちゃうんだ」
「私たち死んじゃうの?」
「いいや。消えるだけ。それに亜子は消えない」
「どうして私だけ?」
遠くから悲鳴が聞こえて、顔を向ける。
月光市場の柵が消えてそこは少しの光もない真っ暗な空間に変わっていた。
それからはいたるところで阿鼻叫喚が上がって、逃げまどう大勢の人たちはそこらにある景色ごと暗闇に消える。
「君はこの世界の人間じゃないからさ」
私たちを囲むように暗闇が迫ってきているのはそのことも関係しているのかな。
ついにはやおよろず屋の一角までが暗闇にのみ込まれて削られた建物から人がこぼれるんだけど、その人たちもすぐに暗闇に溶けるように消える。
喧騒はすでにない。
暗闇は刃物のような鋭い静けさを携えて近づいてきた。
キネムが私の手をつかむ。
そうだ。キネムは!
「キネムも消えちゃうの?」
「うん。だけど僕は少しだけ特別だから、ちょっとだけ長く君といるよ」
話している間にも暗闇は目と鼻の先にまで迫っていて、四方八方から迫ってくるそれから逃げる術はない。
そうして私たちは何の抵抗も出来ないまま、何もない無へとすっかりのみ込まれたんだ。




