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第七章 やおよろず屋のある箱
「色じゃないの?」
「太宰治の小説にそんなのがあったんだよ。一度読んだ記憶があるの」
「よく覚えていたね」
「お父さんが好きでね。仕事に行く前にはよく『今日は水曜か、色なら白だな』なんて気取りながら言ってたのを覚えてるんだ」
お父さんの笑顔を思い出して胸がギュッと締め付けられた。
そうして悲しくなった。
月光市場や夜空の星の光が染みて目が痛い。
「数時間、この世界で過ごしてきてなんとなくわかってきた。大切な物が見えてきた気がする。ううん。きっと大切な物は探さなくても良かったんだよ」
その時、世界がドクンと脈を打った気がした。空気が震えたんだ。
そしてキネムの顔色も青く変わる。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと」
うわの空な返事をしたキネムは柵から身を乗り出してずっと遠くを見ているようだ。
横顔が緊張している。
気持ちの悪い予感が生まれて、私も同じ方へ目を向ける。
瞬きするほどの一瞬、視界に映る全ての風景がぐにゃりと歪んでまた元に戻る。
「今の何? 私の目がおかしいのかな?」
キネムからの返事はない。月光市場の言葉にならない喧騒だけがあたりに漂っていた。




