第六章 月光市場のある騒動
「商売をわかっていないね。いいか? 商売ってのはどうやったら儲けられるかを考えるのが仕事なんだ。だからみんな取引には慎重に慎重を重ねる。どんなに分厚い契約書であろうと時間をかけて隅々まで読む。流し見をして契約するなんてあり得ないことなんだ。周りの店に言う? どうぞご勝手に。自分の間抜けさを大勢に言いふらすに過ぎんよ」
笑う長鼻さんとは対照的に工藤さんの顔は見る見る青く白くなった。
そしてついには腰の力が抜けたのか、その場にへたり込む始末。
その姿が可哀想で可哀想で、なんとかならないものかと助けを請うようにキネムを見る。
キネムはセント・エルモ号が捕まっている柵へ手をかける。
「ちなみにこの馬を売るとしたらいくらほどの値段になるんですか?」
「そいつは若く美しくいい馬だ。八十、いや九十万は頂かないと譲れないね」
「九十万?」
二人の会話を聞いた工藤さんはついに白目を剥いて背中から地面に倒れた。キネムは腕を組みながら困った顔。
「そうら帰ってくれ。お前たちには手が出る品じゃあるまい」
店先の整理を始めた長鼻さんの背中を見つめているとキネムが近づいて来てそっと耳打ちする。
「星のかけらはまだ持っているかい?」
「え? うん」
ズボンのポケットの中に手を入れ、星のかけらを取り出す。
「それとならたぶん交換してもらえると思うんだ」
「でもあの馬は九十万もするって」
「その大きさの星のかけらの価値はもっとさ」
「この石、そんなに凄いんだ……」
でも神々しい静寂を閉じ込めたような輝きを目にすると驚きも薄れてしまった。
確かに宝石に負けないぐらいにとてつもなく価値があるものなんだろう。
「けれど、ここで手放せばもう二度と手に入りはしないと思うよ」
キネムの言葉を耳にしながら星のかけらを眺める。
心の落ち着く淡い輝き。何時間でも見つめていられるぐらいに魅力的だ。




