第六章 月光市場のある騒動
かなり歩いたと思う。
いろんな人から情報を集めてようやく私たちは市場の端にある長鼻さんの店の前へ辿り着いた。
開けっぱなしの入り口からこじんまりとしたテントの中を見ると、何でも屋としか言いようのない、まとまりのない品揃えの店で、並ぶ品の多くも騙し取ったものかも知れない。
そして店横の丸太を打ち込んで作った柵の中に一頭の馬がいた。
白い身体の馬は、スラリと伸びた足でしなやかな筋肉のついた体を支え、その赤茶色のたてがみは風の流れに沿う様にカールしている。
美しく、気品があり、そして力強い。私は生まれて初めてこんなにも近くで馬を見たのだけれど、これほど完成された造形をしているとは思ってもいなかった。
「セント・エルモ号」
工藤さんが柵に駆け寄るとセント・エルモ号がやって来て、柵越しに濃いまつげを持った黒い瞳をこちらへ向ける。心が通じ合っている気がした。
「おやおや、お客さんかな」
テントの奥からハンチング帽を深くかぶった長鼻さんが現われる。
当然、すぐに工藤さんに気づき、「またお前か。こいつはもう俺のもんだ。買わないのなら帰った、帰った」しっしっと手を振った。
「いいや、帰らん! この馬は絶対に返してもらう!」
「そうは言っても、契約上、この馬はもう俺のものだと言っているだろう」
「セント・エルモ号を返さないのなら、お前の悪事を周りの店にバラしてやるからな! お前も商売人ならそれが何を意味するかわかるだろう?」
工藤さんは早速最後の切り札を切って長鼻さんに突っかかって行ったんだけど、長鼻さんはハンチング帽のつばを摘まみ、「ふん」と鼻で笑い余裕を見せつけ、私たちを驚かせた。




