第九話 男装魔法少女と炉の女神 その15
「稲川ガ敗北するとはな」
「フ、ダガ、奴ハ怨霊ズ四天王ノ中デハ最弱ノ存在ヨ」
「ソンナコヨリ、侵入者ヲ迎エ撃トウジャナイカ、クククク」
人口固有結界こと姫神塚古墳の中心部である第二幽閉神殿内に潜む三体の怨霊が、ドッと一斉に蠢き始める。そんな第二幽閉神殿に足を踏み入れた俺達を迎え撃つために――。
「あーあーあー、三人もそろって行くこともないよ。そうだな、ふたりはここで玄室で待機!
「「ウガァ! フタリハ待機ッテドウイウコトヤネン!」」
「フフフ、デハ、俺ガ迎エ撃ツトスルカ!」
だが、連中のうちふたりは行動をしょっぱなから制限されてしまうのだった。生きた人間であるが連中のボス的存在イシュタルによって――。
「さてと、イザナギとイザナミを玄室へ運ぶとするかな。フフフ、あの赤錆丸を欠いてしまったのが誤算だったが、上手くいけば私の計画は成功する」
「テカ、ホントニ行クノカヨ? マ、俺ハドッチデモイインダガネ」
「ハハハ、此奴め。さ、そいつらを玄室内の石棺内に運び入れるんだ」
「OK!」
「うわ、なにをするんだァァ!」
「ひ、浩史さん、怖い、怖いよ!」
ドカッと捕らえている浩史さんと麻耶を五体の下半身戦車ロボを空っぽの石棺の中に放り込む。そう、コイツらがいる場所は姫神塚古墳の玄室があるエリアだ。一体、なにをするつもりなんだ!?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うっわ、広いなぁ」
「ふむ、広場と三つの通路かがあるわね」
「あらあら、どの道が玄室につながっているのかしら?」
第二幽閉神殿の内部を恐る恐る進む俺達一行は、三つの通路がある煌々と照明のシャンデリアが輝き広場へとたどり着く。
「井川、どれが正しい道なのか判るか?」
「は、判らないであります!」
と、井川に訊いても、こればかりは判らないよなぁ。彼は怨霊ズに雇われた一般兵士Aみたいな怨霊クンだし……。
『グッフォフォフォ! コノ先ニ進ミタクバ、俺ヲ倒シテカラニシテモラオウカ!』
「わ、胸毛がモッサリなヒゲのオッサンが出てきた!」
む、変な声が聞こえる!? ああ、真ん中の通路から胸毛がモッサリな上半身裸のヒゲのオッサンが現れる。そんなオッサンも怨霊なんだろうなぁ、きっと。
「グッハッハッハァァ! ワシノ名前ハ渡辺武時! 何故、上半身ガ裸カト説明シヨウ。ソレハ美シイカラダ! ミロ、コノ神々シイマデニ鍛エ抜カレタワシノ筋肉ヲ――っ!」
「肉体美だと! なるほど!」
「お、おい、なに納得してんの!」
「ハハハ、肉体美ならボクだって負けないぞ!」
ビキィ! と、マッチョポーズを決めながら、怨霊のオッサンは渡辺武時と名乗る。ハハハ、このオッサンも自己陶酔者っぽいなぁ。さて、そんな渡辺武時に対抗するようにナルキッソスは、ズギュウウウンとカッコイイポーズを決めながら、勢いよく上着を脱ぎ捨てる。
「君の場合はゴリマッチョってヤツだ。だが、ボクは細マッチョってヤツだ。筋肉が引き絞られ高密度化している! フフ、まさにダイヤモンドの肉体さ!」
「わーナル様、最高!」
「…………」
ダメだ、こりゃ……って、俺が思った。ナルキッソスの使い魔のエコーは大喜びしているけど、なんかだか見てて恥ずかしくなってきたぜ。
「肉体美の競い合いなど、後回しにしましょう。その前にアナタは何者なんです?」
「そ、そうだ、何者なんだ、オッサン!」
肉体美の競い合いなんて後回しだっつうか必要なんてない! とまあ、そんな感じで俺とデメさんがツッコミを入れる。
「ワシハ怨霊ズ四天王ノ一角ヨ!」
「怨霊ズ四天王だと!? ええと、誰だっけ? 初めて見る顔でありますなぁ。うーん、誰なのかさっぱりであります……」
「井川も知らんのか? なんだか大物っぽいけどさ?」
「は、知らないであります、少佐殿! とりあえず、そんな自分が知っている大物は、あのイシュタルという生きた人間なのに悪霊の王を自称する輩のみであります!」
「ナナナ、ナニィ! ワシラノ同胞ノクセニワシノコトヲ知ラント言ウノカ、貴様!」
「恥ずかしながら、その通りであります!」
「ウガァァ! ナンテコトダァァ!」
アハハハ、同じ怨霊の仲間なの井川に知らんって言われてるよ。怨霊ズ四天王の一角と名乗る渡辺武時が可愛そうになってきたぜ。
「グオオオ、ワシヲ馬鹿ニスル貴様ラハ万死ニ値スル!」
「うっわぁ、なんか勝手に話が進んじゃっているよ!」
「あ、どうでもいいけど、渡辺武時って人なら私、知ってる。私の先祖の九代前のご先祖様、十六代目藤原紀典に仕えていた筋肉自慢の従者だったかなぁ?」
誰も馬鹿になんかしてないよ! てか、勝手に話を進めんな! それはともかく、簡易的だけど渡辺のことを橙子は知っていたようだ。ふむ、先祖の藤原紀典に仕えていた従者ねぇ。
「ウオ、ワシノプロフィールヲ知ッテイルダト!? 貴様ハ、アノ紀典様ノ子孫ダトイウノカ!」
「うん、一応ね。あ、そういえば、私の直接のご先祖様は、藤原紀典の妾腹の子供だったらしいわ。んで、彼の本妻って人にすっげぇイジメられたって伝説も残っているのよねぇ……」
「まあまあ、酷い話ねぇ……」
「うむ、酷い話だ!」
「義母さん、それにエリザベート。アンタの姉妹のヘラさんみたい人だったのかもしれないよ。藤原紀典の奥さんは……」
伝承によると、○○県S市の英雄こと藤原紀典の妻は鬼女と言っても過言ではない恐妻だったようだ。んで、英雄色を好むとばかりに浮気癖のあった夫の藤原紀典と肉体関係のあった女性達に対し、そりゃもう惨たらしい仕打ちを行ったらしい。アハハ、まるでギリシャ神話の主神ゼウスの妻である女神ヘラみたいだなぁ……。
「あ、そういえば、渡辺武時は食中毒でなくなったらしいわ。食いしん坊だったらしく食用キノコと毒キノコを間違て……」
「ウオ、ソンナ伝承マデ残ッテイルノカ! グヌヌヌ、紀典様、酷スギダァァ!」
「うわ、渡辺武時の上半身が巨大化した! き、筋肉は肥大化したってところか?」
そんな伝承まで残っているんだぁ。うーん、別の意味で関心するぜ。さて、食中毒で死んでしまったという伝承が残っていることに対し、渡辺武時はキレる。食中毒で死す――ある意味、武士としては情けない最後だったのかもしれないしなぁ。
「毒キノコですか? もしかして、こういうキノコのことですよね?」
「うお、ベニテングダケ!」
「ギャアアアアア! 水玉模様ノアルキノコォォォ!」
「うへ、今度はガリガリに痩せこけちゃったぞ!」
タンタタンッとデメさんが軽いステップを踏む。その刹那、円を描くようなかたちでデメさんの足許に白い水玉模様のあるキノコがニョキニョキと生える。分霊とはいえ、流石は豊穣の女神の御業ってヤツだろうか? ちなみに、そんなキノコは毒キノコのベニテングダケだ。う、そんなベニテングだけを見た途端、渡辺武時の身体がキュッと収縮し、あっと言う間に雄々しい筋骨隆々の肉体がガリガリに痩せこけた貧相な身体に変貌を遂げている。
「グ、グハッ!」
「うお、何故、吐血!」
「ヤ、ヤルジャナイカ……俺ノ負ケダゼ……グブハッ!」
「ああ、また吐血! てか、もう負けを認めるわけ!」
な、何故、吐血! ガリガリに痩せこけた状態の渡辺は血を吐いて倒れる。戦っていないのに勝ってしまったぞ、ラッキー♪
「フフフ、今は貧相なナリだけど、ゴリマッチョな君はナイスガイだったよ」
「ウウウ、嬉シイ言葉ダゼ。心ノ底カラ完敗ヲ認メルゼ、色男」
「…………」
ナルキッソスとは心が通じ合えたのか? ま、まあ、肉体美を競い合ったこと奇妙の友情が生まれたっぽいなぁ。うーん、妙な展開になってきたぞ。
「ま、まあ、先へ進もう。真ん中の道へ!」
さてさて、俺達一行がいる広場には三つの通路があるわけだが、どれが玄室へ続く通路だろう――やっぱり真ん中の通路だろう! あの渡辺武時が、そこから出て来たしなぁ。
「ヤア、オ邪魔虫サン達。玄室ヘ案内スルヨウニ頼マレタ怨霊童子デス」
「うお、おかっぱ頭の女のコの姿をした怨霊!?」
「オイ、僕ハ男ダゾ!」
「あ、ゴメン!」
「フン、マアイイ。一緒ニツイテ来ルンダ。イシュタルサンガ会イタガッテイルカラネ」
広場の三つある通路のひとつ――真ん中の通路に足を踏みれた途端、ポウンという音とともに、そんな真ん中の通路内が明るくなる。ムムム、怨霊童子と名乗る黒い着物姿の少年の姿が通路の向こうからやって来たぞ。よ、よし、ついて行ってみよう。イシュタルから俺達を連れて来るように命令されているようだし――。




