第九話 男装魔法少女と炉の女神 その14
「うおお、ここは手術室か!? まさか、俺を人体実験にッ! ぎゃあああ、やめろ、やめろ!」
「そんなことしねぇよ、クククク」
周囲が明るみになったことで判明する。第二幽閉神殿内の浩史さんがいる場所は、病院の手術室のような場所であることが――。
「い、痛ぇ! 俺の頭を勝手に右横の傾けるな! 首が今、ゴキンって言ったぞ、このっ!」
「まあいいじゃないか、イザナギ。それより、アレはなんだろう? さあさあ、なんでしょう?」
「ムムム、人形!? げぇ、違う……麻耶ちゃん!」
何故かは知らないけど、浩史さんのことをイザナギと呼ぶイシュタルは、そんな浩史さんの首をコキンと両手を使い強引に右横に傾ける。さて、そこには手足を拘束された髪の長い女のコの姿をした等身大の人形が座るイスがある。んで、それを見た浩史さんが口にする、麻耶ちゃんと――。
「ハハハ、麻耶ちゃんっていうのか、イザナギ? さて、どうだい? 数日ぶりの彼女との再会は?」
「お、おう、そりゃ嬉しいに決まっている! でも、彼女は死んだはずだ! それに身体は火葬されてしまったはずなのに……に、人形じゃないよな?」
「人形に見えたか? だが、違う。本物だ。ありていに言えば、再構築された肉体ってヤツさ」
「に、肉体の再構築? むぅ、そういや、さっき怨霊が失った肉体を再構築させていたな……ってこたぁ、麻耶ちゃんも怨霊に!?」
「フフフ、そうなるな。まあ、でも、死んで間もないコイツの場合、自力で肉体の再構築なんて無理な話さ。だ~か~ら~強制的に怨霊化させたんだけどね。これを使って~☆」
「な、なにぃ!」
イシュタルは携帯電話のようなモノを取り出し、手術台に拘束されている浩史さんの目の前でわざとらしくチラつかせる。ん、怨念増幅機ってモノか!?
「うう、浩史さん……私、怨霊になってしまったみたい。ゴメンね。こんなかたちでの再会となってしまって……」
「ま、麻耶ちゃん……」
申し訳なさそうに麻耶は、スッと浩史さんから視線を逸らす。ある意味で悪質だな、イシュタルは……こんなかたちでふたりを再会させるなんて!
「う、うああああっ!」
「ま、麻耶ちゃん! うお、頭に角がっ!」
「ふむ、強制的に怨霊化させたせいで余計なモノが再構築した身体に出てしまうってのは予想外かもしれん。だが、面白い、クククク♪」
「げ、外道ォォォ! 面白くなんかねぇよ! ク、クソがァァ~~!」
「お、おお、手術台の拘束具を強引に引き千切った! すっげぇぇ~~!」
麻耶の頭にズギュウウンに二本の角が生える。イシュタル曰く、予想外の出来事にようだけど――お、浩史さんが手足を拘束する手術台の拘束具を引き千切る! 彼女である麻耶に対し、外道な行為におよんだイシュタルに対する怒りの力ってヤツ?
「なんだか知らないけど、急に力が湧いてきた! オラァァァ!」
「ん、なんだ? お前がかぶっている月桂樹の冠が光って……ぐあっ!」
手術台の拘束具を引き千切るほどの力の源は、浩史さんが頭にかぶるダフネの冠!? それはともかく、拘束から解かれた浩史さんはイシュタルに対し、渾身の鉄拳を叩き込む! ああ、素顔を隠すガスマスクが吹っ飛んだ!
「ん、お前、女のコだったのかよ!」
「ぐあああ、素顔を見られたっ! おい、私は男だ! 女のコじゃねぇよ、女装男がァァ!」
「え、男なの? ゴメン……てか、女のコにしか見えないぞ、プークックック♪」
「ぐ、ぐぬぬ! それはともかく、いきなりグーで殴るなんて無粋だぞ!」
「うっせぇ! 男と判った以上、もう一回殴らせてもらう! どらぁー!」
素顔を覆い隠すガスマスクが吹っ飛ぶんだことで明るみとなったイシュタルの素顔を一言で説明するなら、女のコと見間違えてしまうほどの美貌を持つ眉目秀麗な少年である。
「麻耶ちゃん、今……助けるっ!」
「ああ、浩史さん!」
ダッと浩史さんは、怨霊と化した麻耶が拘束されているイスのところへ移動し、彼女の手足を拘束する拘束具を引き千切る。
「浩史さん、ダメよ! 今の私は仮初の肉体を得たようなものだから、この建物の外に出てはいけない気がするの……ああ!」
「そんなのどうでもいい! ここから出るぞ!」
「う、うん……てか、なんでゴスロリな女のコの服を着ているわけ?」
「そ、そんなことどうでもいいじゃないかっ! さ、行こう!」
ハハハ、何故、女装しているのかってツッコミを入れられたぞ。それはともかく、ここから出てはいけない気がする、と躊躇する麻耶をお姫様抱っこをする浩史さんは、第二幽閉神殿の出口に向かって駆け出すのだった。
「イタタタァ! 二度もブン殴った……お袋にも殴られたことがないのに!」
「ウホッ! イイ男! てか、初メテ見ルゼ。アンタノ素顔ヲヨォ!」
「そんなことはどうでもいい! イザナギとイザナミを捕まえろ、ルー!」
「怒鳴ルナヨ。マッタク仕方ねぇな! ツイデニ、ライザ、リン、レイナ、ローズヲ呼ンデオイタゼ! ウオ、チェーンソーヲ持チ出スノカヨ!」
どこかで聞いたことがあるような言葉を口にするイシュタルは、再びガスマスクを装着し、女のコと見間違てしまうほどの自身の美貌を隠蔽する。それと同時に、子分の下半身がラジコン戦車のような形状をした小型ロボット達とともに浩史さんの後を追いかけるのだった。チェーンソーを片手に――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「むぅ、獣王舞踏祭の効果が切れちまったぜ」
ムムム、せっかく発動させた獣王舞踏祭の効果が切れる。それと同時に、俺の使い魔達――アフリカゾウのピエール君なんかは犬くらいの大きさの小象の姿になってしまう。う、他の使い魔は常に行動を共にするクロベエ、それにチンパンジーのモン太以外、緑色の光る粒子となって消え失せてしまうのだった。
「怨霊共は逃げてしまったようだ。ふう、危ない危ない……」
エリザベートの使い魔達もフッと消え失せる。緑色の光の粒子に光子変換されて――。
「獣王舞踏祭は大量の魔力を消費する。この私でも一日一回が限度かもしれない」
「ふむ、まあ、とりあえず、エリザベートの使い魔も、その白い梟だけ消えずに残ったわけだし、なんとかなるかな……かな?」
「うぉい、ペルセポネー! 私を使い魔と見間違えるとは無粋だぞ、貴様っ!」
「あ、ああ、アテナさんだったか、エヘッ♪」
「フ、フン、次は間違えるなよ!」
「はいはい~……さ、浩史さんが連れ去られた神殿へ向かおう!」
おおっと、アテナを白い梟の姿をしているのでエリザベートの使い魔と間違ってしまったぜ。なにせ彼女の使い魔のほとんどが〝鳥〟なわけだし、アハハ――。
「あ、そういえば、少佐殿! あの神殿でありますが第二幽閉神殿と呼ばれているであります! それと同時につながっているであります!」
「え、つながっている? どこに?」
「は、玄室であります! 自分に一般兵士的な怨霊なので立ち入りが制限されている身でありますが、あの神殿の中には、恐らく……」
井川曰く、浩史さんがイシュタルに連れ去られた神殿こと第二幽閉神殿は同時に、人口固有結界の中心部――姫神塚古墳の玄室がある場所かもしれない!? なら、尚更、行かなきゃいけないな。
「おお~い、お前らー!」
「うお、浩史さん! 逃げ出してきたのかよ! てか、女の鬼を連れている!」
「鬼じゃねぇ! 麻耶ちゃんだ!」
「ま、まあ、なにはともあれ、無事だったか、浩史さん!」
浩史さんが件の第二幽閉神殿の出入り口から、ひょっこりと顔を出し、元気そうに手を振っている。ふう、無事が確認できて安心したぜ。
「逃ガサンゾ、イザナギ!」
「ソウダ、ソウダ! 逃ガサン!」
「イザナミモ一緒ニ捕マエロ!」
「コイツラヲ捕マエナイト、イシュタルガウッセェカラナ!」
「テカ、捕マエタラ玄室ヘ連レテ行ケバイインダッケ?」
「おわ、なにをする、離せェェ!」
ムムム、安心したのも束の間! 下半身がラジコン戦車のような形状をした五体の小型ロボットのよって呆気なく浩史さん&麻耶は第二幽閉神殿内に連れ戻されてしまう。
「なんだ、あのロボットは!?」
「あれはイシュタル直属の手下で、アイツが開発した自立型ロボットであります! タダ自我が強いので、完全に従っているとは言えないであります!」
「そ、そうなのか……って、そんなことを言っていられるか! 浩史さんを助けるぞ!」
あの五体の下半身戦車ロボのことは判った。それより、第二幽閉神殿に乗り込んで浩史さんを助けなきゃ! ここが姫神塚古墳の中心と判った以上、早いく彼を助けないと最悪の事態を招く予感がするし――。




