第九話 男装魔法少女と炉の女神 その16
姫神塚古墳の玄室へ続く通路は長い。まるで終わりがない無限回廊って感じだ。ついでにだけど、通路の壁には、なにかしらの絵文字のようなものが刻まれている。解読できないのが痛いところだなぁ。今度、沙希を連れて来よう。アイツなら絵文字がなにを意味するのか解読できるはずだし!
「ム、ムムム、小僧! 貴様、人間の霊魂ではないな!」
「ふむ、この感じからすると鬼の類か!?」
「鬼ってことは、あのちびっこは妖怪の類ってこと?」
「うぉい、僕はちびっこじゃないぞ! まあいい、妖怪ってことは認めよう」
ジーッとはっちゃんとエルが、俺達をイシュタルのもとへ案内するために現れた一瞬、女のコかと思ってしまったおかっぱ頭の少年――怨霊童子を見つめながら言う。てか、ちびっこって言うなって反論したクセに妖怪であることを認めたぞ、コイツ!
「あのガスマスクの怪人は妖怪も手下としてあつかっているであります。侮れませんなぁ、少佐殿!」
「う、うーん、そうだなぁ……」
「ちょい待った! 僕はアイツの手下になったつもりなんかないぞ。君らの仲間かは知らないけど、生意気なしゃべる黒猫を連れた金髪碧眼の欧米人の魔法少女に殺されかけた僕を救ってくれた命の恩人なんでね。そんなわけでアイツの計画の加担してやっているってところかな?」
「命の恩人ねぇ。実はイイ奴なんじゃないのか、あの怪人? う、なんとなく、その魔法少女が誰か判った気がする!」
イシュタルは命の恩人ねぇ。そんなわけで奴の計画に加担しているのか? さて、なんとなく判った気がする。怨霊童子が殺されかけたという魔法少女の正体が――。
「さて、玄室へは着くには、もう少し時間がかかる。少し雑談でもしようか、クククク」
「雑談だって? ま、まあいいが……」
「フフ、んじゃ、冥界がどんなところか当然、知っているよね?」
「「無論だ!!」」
「アハハ、そういえば、冥王がおふたりもいたねぇ♪ じゃあ、当然、冥界が地獄界にも、そして天界にも、ついでに魔界にもつながっているってことくらいは知っているかぁ?」
「「……そ、そりゃ当然だ!」」
ム、一瞬だけど、はっちゃんとエルが口ごもったぞ。冥王であるふたりにとって、なにか都合の悪いことでも言ったかのか、怨霊童子が? それとも冥王のクセに知らないことがあったとか?
「ハハ、まあいいや、それより死者と生者が仮にも住まう世界が入れ替わったらどうなると思う?」
「そ、それは……」
む、その質問になんて答えていいのやら……タ、タダ、これだけは判るぞ! 地球の人口がヤバいことになる! 死んだ人間や動物――死者の方が圧倒的に多いわけだし!
「さ、なんだかんだと、玄室へ到着っと! 僕は別の用事があるから、これにて退散!」
ん、姫神塚古墳の中核――玄室へ到着する。気のせいかな? 瞬間移動した気がするんだが……あ、到着と同時に、フッと怨霊童子の姿が空気に溶け込むように消え失せる。
「うわ、さらに広い広場だな、ここは……ん、中心にフタに石棺があるぞ!」
「あらあら、あのガスマスクの怪人さんがいるわ。さっきはスペアのガスマスクをありがとうね~☆」
「うお、そんなことはいいよ、義母さん! 石棺のところにいるガスマスクの怪人は、あのイシュタルって奴だろう!」
玄室がある広場は無駄に広い。ここへ来る前に立ち寄った三つの通路があった広場の三倍以上の広さだ。んで、そんな玄室の中央にドンッ! と、鎮座する石棺のところに、あのイシュタルの姿が見受けられる。そんなイシュタルの脇に控えるモノが見受けられる。ひとりは頭に弧を描く三日月のような一本角が生えたボロボロの十二単という恰好をした女の鬼だ。そしてもうひとりは右側の角が折れた状態だが、水牛のような雄々しい二本角を備えた大柄な落ち武者だ。イシュタルの守護者かもしれないな。
「ようやく来たね。遅いぞ、お前ら! ああ、彼女は朽縄姫、そして彼はその夫の骸衛門だ。怨霊ズ四天王のおふたりってヤツよ」
「おい、そんなことより、浩史さんはどこにいるんだよ!」
ムムム、イシュタルと一緒にいる鬼は夫婦のようだ。それに怨霊ズ四天王のふたりっぽいぞ。それより、浩史さんはどこだ!?
「イザナギノコトカ? 奴ナラ石棺ノ中デ溶ケテシマッタゾ、クククク」
「イザナミトトモニ溶解シ、冥界水ヘト、ソノ身ヲ変換サセタノサ」
「な、なにぃ!? 溶けた、それに冥界水ってなんだぁ!」
「むぅ、赤黒い液体が石棺内を満たしている。あれが冥界水とやらか!」
骸衛門と朽縄姫が、ゲラゲラと笑いながら、浩史さんが石棺の中で溶けて冥界水へと変換した――と、何気にグロいことを言い出す。さて、広大な玄室内を飛び回るアテナが、石棺内が赤黒い液体で満たされている、と言い出す。話は本当のようだぞ。
「冥界水!? そうか、アレを人工的に精製し、真なる冥界への扉を開くつもりか!」
「ピンポン、ピンポ~ン♪ その通りさ。冥界の物質である冥界水を精製できれば開けることができるだろう? そして行くことができる、冥界へ!」
「き、貴様、冥界へ行くつもりなのか!?」
「そうさ、私は肉体を持ったまま……生きたまま冥界へ行く。冥界からつながる様々な世界へ赴くために!」
それがイシュタルの目的!? それに様々な世界へつながっているって言っているけど、一体どういう意味だ?
「冥界ハ天界ヤ地獄界ヘノ入口デモアル」
「ダガ、生キタ人間ガ行クニハ特殊ナ媒介物ガ必要ナノダ。冥界水トイウ媒介物ガ――」
「ま、そんな媒介物こと冥界水を精製するのに欠かせない材料が〝力ある人間〟だ」
「ち、力ある人間!? 浩史さんのことか?」
「そうなるな。ちなみに、そういう冥界へ赴くために必要な材料となる力ある人間を私は男性ならイザナギ、女性ならイザナミと呼んでいる。この国の冥界神話になぞらえてね」
イシュタルが浩史さんのことをイザナギと呼ぶ理由は、そんな理由だったのか! ああ、思い出したぞ。イザナギとイザナミは冥界と現世を境界線を塞ぐ千引石の前で夫婦喧嘩を演じたんだったな。
「冥界へ行ってどうするんだ! 僕は許さないぞ。お前のような輩が生きたまま冥界へ行くだなんて!」
「うむ、わらわも同意だ! お前を冥界になど行かせん!」
「だが、もう遅いよ。もうすぐイザナギとイザナミが溶け合ってできた人口冥界水によって満たされた石棺が冥界へと通じる通路となる。アハハ、私は冥界へ赴き……天国へ行くんだ!」
「サテ、イシュタル殿ニ突ッカカル五月蠅イ冥王サンヲボコッテオクカ! オラァ!」
「イシュタル殿ノ野望ハ、我々ノ望ミニモツナガル! 邪魔ヲスルナァァ!」
天国へ赴くだと!? ああ、はっちゃんとエルがイシュタルの冥界行きを阻もうとするが、骸衛門と朽縄姫夫婦に蹴飛ばされてしまう! そ、そんなことより、冥界へと通じる通路となる浩史さんが溶けてできたっていう赤黒い液体――冥界水が満たされた石棺がボコボコと泡立ち始める。な、なにが起きるんだよ!
「ぐっわぁ、苦しいっ! もう我慢できねぇー!」
「な、なに、お前、何故っ!」
「うおー、浩史さんっ!」
ムムム、赤黒いグロテスクな液体である冥界水が満たされた石棺の中から、ザババーッと浩史さんが飛び出してくる。何故か素っ裸で!
「うわ、股間に角が生えている!」
「うむ、角というより、アレは槍にも見える。一体なんだ、アレは?」
「ストップ、ストップ! それ以上は言わないで!」
「ア、アハハハ、なんだかんだと元気そうだなぁ、浩史さん」
赤黒い冥界水が満たされた石棺から素っ裸の状態で飛び出してきた浩史さんをジッと見つめるゴルゴン三姉妹はともかく、そんな浩史さんが無事で良かったぁ!
「そんなはずは……ば、馬鹿な! 何故、溶けない……話が違うぞ、ナイニャ!」
ガタガタを身を震わしながら。ガッと思い切り地面を蹴るイシュタルの口から、黒幕っぽい人物の名前が――。
「あうう、上着が欲しいんですけど……」
「ナ、ナニィ! イザナミモ溶ケテイナイダト!?」
ん、石棺から頭に角が生えた女の人も出てくる。強制的に怨霊化させられた浩史さんの彼女の麻耶だ。彼女も無事っぽいぞ。ちなみに、素っ裸の浩史さんと違って下着だけは身に着けている。
「失敗に終わったか、なんてことだ!」
「失敗? ん~一応、成功しているっぽいわよ」
「な、なに! 何故、判る!」
「ウフフフ、私は女神ですから~☆ あああ、でも、数分で、そんな冥界へと入口が閉じちゃいますよぉ」
「ぐ、閉じる前に私は行く……おおおっ!」
「アア、イシュタル! マッタク、俺達モ行クゾ!」
分霊とはいえ、流石は女神様! とまあ、そんなデメさん曰く、石棺の底に一時的に冥界への入り口が開いているとか――ああ、イシュタルと従者の下半身戦車ロボット達が石棺の中に飛び込んだぞ。
「グ、イシュタル殿! ドウスル、妻ヨ?」
「ウム、コウイウ場合ハ――」
む、取り残された骸衛門と朽縄姫が、キッと身構える。ふたり同時に襲いかかってくるのか? よ、よし、受けて立つぜ!
「逃ゲルガ勝チダ! 骸衛門殿、早ク、早クッ!」
「エ、逃ゲルノカヨ!」
「に、逃げた!? 追いかけなくちゃ!」
「待て、逃げたと見せかけて我々を不意打ちする作戦かもしれないわ、ペルセポネー!」
「お、おう、油断しちゃいけないよな。てか、アイツはなにか落としたぞ」
「紙切れ? これは名刺だね。何々、次元セールス社とやらのナイニャさんとやらの名刺っぽいね」
うぬ、骸衛門と朽縄姫が逃げ出す! うーん、ある意味、命拾いしたのかもしれない……ん、名刺のようなモノを落としたぞ。んで、そんな名刺には次元セールス社とやらの営業マンのナイニャという名前が――。




