《閲覧》亜人の町ラグナス
「止まれ。」
狼の耳を持つ門番が一歩前へ出る。
鋭い金色の瞳が俺を真っ直ぐ見据えていた。
「人間が、この町に何の用だ。」
俺はゆっくりとギルドカードを取り出した。
「冒険者だ。しばらく滞在したくて来た。」
門番はカードを受け取り、裏表を確認する。
「……リーフェル支部発行か。」
しばらく無言が続く。
周囲の亜人たちも足を止め、こちらを見ていた。
「人間だ。」
「珍しいな。」
「また面倒事じゃなきゃいいが……。」
歓迎されていない。
その視線だけで十分伝わってきた。
「目的は。」
「仕事を探したい。」
「規則は知っているか。」
「いや。」
門番は淡々と口を開く。
「この町ラグナスでは、ギルド登録された人間の冒険者のみ滞在を認める。」
「問題を起こした場合は即刻追放。」
「人間だからといって特別扱いはしない。」
「もちろん、亜人も同じだ。」
「争いを起こした者は平等に裁く。」
「分かった。」
俺が頷くと、門番も小さく頷き返した。
「それと、連れがいるなら見せろ。」
「連れ?」
「従魔でも使い魔でも構わん。危険がないか確認する。」
「……分かった。」
俺はリュックを軽く叩く。
「スウ、出ておいで。」
「ぷる!」
青いスライムが勢いよく飛び出し、俺の肩へ乗った。
そのまま門番を見上げる。
《閲覧》
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【スウ】
Lv.10
状態:健康
感情
・このひと おおきい!
・でも やさしそう
・こんにちは!
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狼獣人の門番はスウを見ると、表情を少しだけ和らげた。
「ずいぶん人懐っこいな。」
「そうですね。」
「まだ幼いスライムか。」
門番はゆっくりとしゃがみ込み、大きな手を差し出す。
「ほら。」
スウは恐る恐る近づき、その手のひらへ飛び乗った。
「ぷる。」
嬉しそうに身体を揺らすスウを見て、門番は口元を緩める。
「良い子じゃないか。」
そう言って、そっとスウを俺の肩へ戻した。
「従魔に問題はない。」
カードを返しながら、門番は真剣な表情に戻る。
「……だが、お前は別だ。」
「え?」
「ラグナスでは、人間は歓迎されていない。」
「町の者に喧嘩を売るな。」
「人間だからという理由で絡まれることもある。」
「その時は手を出す前に、必ず衛兵を呼べ。」
「……分かりました。」
「なら通れ。」
俺は一礼し、門をくぐった。
その瞬間、目の前に広がる景色に思わず息を呑む。
「すごい……。」
石畳の大通り。
道の両脇には露店が並び、見たこともない果物や香辛料が売られている。
獣人、エルフ、ドワーフ、鬼人。
様々な亜人たちが笑いながら行き交っていた。
だが、一番驚いたのはそこではない。
「魔物……?」
狼型の魔物が子どもたちと駆け回っている。
小鳥のような魔物が店の看板に止まり、店主へ何かを運んでいた。
大きなゴーレムは荷車を引き、植物型の魔物は花壇の手入れをしている。
人間の町では、討伐対象だった魔物たち。
ここでは、ごく当たり前のように暮らしていた。
「ぷる!」
スウが俺の肩から飛び降りる。
石畳の上を楽しそうに跳ね回り、周囲を見回した。
《閲覧》
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【スウ】
Lv.10
状態:健康
感情
・なかま!
・いっぱい いる!
・たのしい!
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「気に入ったみたいだな。」
そう呟くと、近くを歩いていた狐耳の子どもが足を止めた。
「わぁ、お母さん!」
「あのスライム、人間についてる!」
母親も振り返り、小さく目を丸くする。
「本当ね。珍しい。」
子どもは恐る恐るスウへ近づいた。
「こんにちは。」
「ぷる!」
スウは元気よく跳ねる。
子どもが指先でそっと触れると、ぷにっと柔らかな感触が返ってきた。
「冷たーい!」
嬉しそうに笑う子どもを見て、スウも身体を大きく揺らした。
その光景に、俺は自然と笑みを浮かべる。
人間の町なら、こんな未来はなかった。
スウは魔物だからという理由だけで討伐されていたはずだ。
だけど、この町では違う。
魔物は恐れるだけの存在じゃない。
共に生きる仲間として受け入れられている。
「……来てよかった。」
そう呟いた、その時だった。
「でも……。」
どこからか、小さな声が聞こえる。
「人間が魔物を連れてるなんて。」
「変わった奴だな。」
「気を付けた方がいい。」
スウを見る目は優しい。
けれど、その隣に立つ俺へ向けられる視線には、まだ警戒の色が残っていた。
それでも俺は、スウと並んで一歩を踏み出す。
ここが、俺たちの新しい物語の始まりになる。
そんな気がした。




