《閲覧》疑念
森の奥へ向かう親フェンリルが、一度だけ足を止めた。
ゆっくりと振り返り、俺を見る。
《閲覧》。
【フェンリル】
Lv.58
状態:重傷(回復中)
感情
・こども
・まもる
・ありがとう
それだけだった。
俺は小さく笑う。
「もう無茶はするな。」
親フェンリルは低く鼻を鳴らす。
「グル……。」
返事だったのか、それとも偶然だったのかは分からない。
やがて親子は森の奥へと消えていく。
最後に子フェンリルだけがこちらを振り返り、
「キャン!」
と小さく鳴いた。
「元気でな。」
隣ではスライムが嬉しそうに跳ねる。
「ぷる!」
俺は森を後にした。
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町へ着いた頃には、夕日が門を赤く照らしていた。
討伐隊はすでに戻ってきているらしい。
広場では冒険者たちが口々に話している。
「結局、見つからなかったらしい。」
「川まで追ったけど駄目だったって。」
「相手がフェンリルじゃ仕方ねぇよ。」
俺はその横を通り過ぎ、ギルドへ向かう。
その時だった。
「……おい。」
聞き慣れた声。
振り返ると、レオンが立っていた。
鎧には泥が付き、疲労の色が隠せない。
それでも視線だけは鋭かった。
「久しぶりだな。」
「ああ。」
短い沈黙。
レオンが口を開く。
「朝、森へ入ったそうだな。」
「門番から聞いた。」
「薬草採りだ。」
「そうか。」
そこで終わらなかった。
「森で妙な跡を見つけた。」
俺は何も言わない。
「何か大きなものが倒れていたような圧し跡。」
「その周囲だけ、不自然に乱された足跡。」
「落ち葉も集められていた。」
一つ一つ、確認するように話していく。
「それだけじゃない。」
「薬草を使った跡もあった。」
胸の奥がわずかにざわつく。
腰の薬草袋が、急に重く感じた。
レオンは俺から目を逸らさない。
「誰かが、あそこにいた。」
「そして、何かを隠そうとした。」
その言葉だけで十分だった。
こいつは勘じゃない。
現場を見て、積み上げた結果を話している。
昔からそういう男だった。
「何か知らないか。」
俺はレオンを見る。
数秒。
沈黙が流れる。
そして静かに答えた。
「知らない。」
それだけだった。
レオンはしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく息を吐く。
「……そうか。」
それ以上は聞かなかった。
踵を返し、門の方へ歩いていく。
途中で門番へ軽く手を挙げる。
「朝の情報、助かった。」
「また何かあれば知らせてくれ。」
「はい。」
門番は深く頷いた。
レオンはそのまま去っていく。
俺はその背中を見送った。
相変わらず鋭い。
だからこそ、あいつには人が集まる。
「……危なかった。」
誰にも聞こえないよう、小さくつぶやく。
食料と包帯を買い込み、町に泊まることも考えたが、首を振った。待っている相棒のもとへ帰るために。
夕日に染まる森へ、ゆっくりと歩き始めた。
「待たせてるしな。」
門を出て、森へ向かう。
夕日が木々を赤く染め始めていた。
いつもの岩陰へ近づくと。
「ぷる!」
勢いよくスライムが飛びついてきた。
「悪い、待たせた。」
身体を撫でると、嬉しそうに震える。
自然と《閲覧》を使う。
【スライム】
Lv.10
状態:満腹
感情
・ごしゅじん
・まった
・うれしい
俺は苦笑した。
「今日は助かった。」
「ありがとう。」
スライムは照れくさそうに身体を揺らす。
「ぷる……。」
その夜。
俺とスライムは森で焚き火を囲みながら、静かな時間を過ごした。




