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追放された俺だけが、魔物の感情を見ることができる ~役立たずスキル《閲覧》で助けた魔物たちに慕われました~  作者: 浦嶋亀タロー


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《閲覧》フェンリル

まだ夜も明けきらない。

俺は宿を飛び出し、西門へ向かった。

門の前では兵士たちが交代の準備をしている。

昨日の門番が俺を見るなり、小さく笑った。

「ずいぶん早いな」

「ああ」

「開門まではまだ少しかかるぞ」

「分かってる」

そう答えながらも落ち着かなかった。

門の前を歩き回る。

空を見上げる。

まだ薄暗い。

あと少し。

その時間が、やけに長く感じた。

「そんなに急ぐ依頼か?」

門番が呆れたように聞く。

俺は首を横に振った。

「約束したんだ」

「約束?」

「待ってろって」

門番は少しだけ目を細めた。

「そうか」

それ以上は何も聞かなかった。

やがて東の空が白み始める。

「開門!」

重い門がゆっくりと開いていく。

俺は完全に開き切るのも待たず、森へ飛び出した。

木々の間を駆け抜ける。

昨日と同じ道。

昨日と同じ木々。

それでも胸騒ぎだけは消えなかった。

「……いた!」

木陰に、小さな青い体が丸くなっている。

「ぷる!」

俺の姿を見つけると、大きく跳ねて駆け寄ってきた。

足元へぴたりと寄り添う。

自然と《閲覧》を使う。

【スライム】

Lv.1

状態:空腹

感情

・ごしゅじん

・まつ

・あんしん

「悪かった。待たせたな」

そっと頭を撫でる。

スライムは気持ち良さそうにぷるぷると震えた。

昨日買っておいたパンを取り出し、小さくちぎる。

「固いけど我慢しろ」

スライムは嬉しそうに包み込み、ゆっくりと溶かしながら食べ始めた。

「ぷる!」

「よかった」

その姿を見て、ようやく肩の力が抜ける。

しかし、その安心は長く続かなかった。

「……?」

静かすぎる。

鳥の鳴き声が聞こえない。

虫も鳴いていない。

森全体が息を潜めているようだった。

スライムも食べるのをやめ、俺の後ろへ隠れる。

《閲覧》。

【スライム】

感情

・ごしゅじん

・こわい

「何かいるのか」

周囲を見渡しながら歩き始める。

しばらく進むと、一本の大木が根元から折れていた。

その近くには乾き始めた血。

地面には深く抉られた跡。

そして、人の頭ほどもある巨大な足跡。

「昨日はなかった……」

さらに少し先で、何かが朝日に反射した。

拾い上げる。

太い鉄線。

鋭い返し。

大型の捕獲罠だった。

しかも、無理やり引き千切られている。

「人間が仕掛けたのか……」

視線を落とす。

巨大な足跡と、小さな足跡。

二種類の足跡が森の奥へ続いていた。

その時だった。

――オオオオォォォン……。

昨日と同じ遠吠え。

今度はもっと近い。

「行くぞ」

「ぷる」

一人と一匹は足跡を追って森の奥へ進む。

やがて木々が開け、小さな空き地へ出た。

そこにいたのは、一頭の巨大な銀狼だった。

全身は傷だらけ。

腹には深い裂傷。

それでも二匹の子どもを背中へ庇うように横たわっている。

「フェンリル……」

二匹の幼いフェンリルが一斉に俺を睨んだ。

「ガルルルル……!」

まだ幼い声。

それでも必死に親を守ろうとしている。

俺は武器へ手を伸ばさなかった。

代わりに《閲覧》を使う。

【フェンリル】

Lv.58

状態:重傷・出血

感情

・こども

・まもる

・にげろ

暴れたいんじゃない。

最後まで、子どもを守ろうとしているだけだ。

「……そういうことか」

次に子どもへ視線を向ける。

【幼いフェンリル】

Lv.8

状態:右前脚裂傷

感情

・おかあさん

・いたい

・こわい

傷口を見る。

牙で噛まれた傷じゃない。

鋭い鉄で挟まれたような跡だった。

俺は壊れた捕獲罠を思い出す。

「お前が罠にかかったのか」

子フェンリルは唸りながらも親から離れようとしない。

親フェンリルも立ち上がろうとするが、傷が深く、すぐに膝をついた。

「無理するな」

俺は腰に下げていた小さな薬草袋を手に取る。

パーティーを追放されたあの日、別れ際にミリアが持たせてくれたものだった。

『……応急処置くらいならできるように、調合しておいたから』

そう言って、小さく笑っていた顔が脳裏に浮かぶ。

あの時は餞別のようなものだと思っていた。

まさか、こんな形で役に立つとは。

「ミリア……借りるぞ」

袋を開けると、薬草の爽やかな香りが広がる。

止血用と傷の治りを早める薬草が、扱いやすいよう細かく調合されていた。

「安心しろ。子どもから治療する」

言葉は通じない。

それでも俺は武器ではなく、その薬草を手にゆっくりと一歩踏み出した。

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