《幕間》一方その頃……
7.5
弦を引き続けた指にはじわりと血が滲んでいる。上昇する心拍と体温。それとは逆に冷えきった汗。
涎を垂らしたいくつもの瞳が、こちらを見据えている。その瞳孔に燃えているのは苛立ちや激情。怒りだ。
それもそのはず、彼らの脚にはねじれた蔓が絡みついて、動きを封じていた。
──女王様の張ってくれたトラップに感謝しなきゃね。
数日前、ティターニアが最後の力を振り絞って設置してくれた妨害の罠だ。今は床に臥せっている彼女のためにも、なんとかこの場を切り抜けなければ。
それに──。
あいつらのためにも。
などという思考が無意識のうちに浮かび上がり、ライラはぶんぶんと首を振った。
──あたし、どうかしてるわ。ヒューマンなんかに……。
──ううん、今は集中しなくちゃ。
蔓は今にもちぎれそうで、奴らが動き出すまであと幾ばくもないと思われた。それまでに、この、神話の天災とさえ思える魔物の大群をどうにかしなければならないのだ。
──いや。
こいつらは実際に、そんな神代の時代から生きているのだ。太古の昔から今まで生き延びているという事実が、ともすればライラの心に冷たい恐怖を忍び込ませた。
よくよく考えてみれば、戦況はどう見ても絶望的ではないか。こちらはたったひとり。一対一でもやっとなのに、 相手は両手の指の数より多いのだ。現実的に、勝てる見込みなどあるのか?
それでも反射的に身体は動き、手近な一匹に矢を放った。
しかし、それは呆気なく、もてあそぶように弾かれる。
「──ッ!」
──やっぱり、無理だ。
そして同時に、足止めの蔓がぶちぶちと引きちぎられた。。拘束から解き放たれた無数の脚が、鋭い爪をぎらつかせながら迫ってくる。
終わった──。
ぎゅっと目を瞑る。
暗闇の中、死の予感だけがあった。
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