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第六話 最悪な一日

閃光が走った。


次の瞬間。


――ドンッ!


強烈な衝撃が、玲音の身体を吹き飛ばした。


「うわっ!」


床に叩きつけられる。


耳鳴りがする。


何が起きたのか分からない。


視界が白い。


「……痛っ……」


玲音は頭を押さえた。


周囲から悲鳴が聞こえる。


「逃げろ!」


「伏せろ!」


「警備を呼べ!」


会場は完全な混乱状態だった。


玲音は立ち上がろうとした。


その瞬間。


目の前を人が走り抜けた。


「どいて!」


「危ない!」


「早く逃げろ!」


玲音は呆然とする。


「……何なんだよ」


ほんの数分前まで。


ここには世界中から集まった要人がいた。


科学者。


政治家。


企業家。


そして。


四ノ宮零士の研究を知る人間。


その中には。


自分の両親を知っている人物もいた。


「……あの人」


玲音は先ほどの老人を探した。


四ノ宮研究所の元研究員。


両親のことを知っている男。


しかし。


どこにもいない。


「待って!」


玲音は走り出した。


人混みを抜ける。


「どこに行ったんだ……!」


その時。


――パンッ!


銃声。


玲音の身体が固まった。


「……!」


本物の銃声だった。


前世の記憶にある戦争映画とは違う。


実際に人が撃たれる音。


身体が勝手に震える。


「怖い……」


玲音は壁際に隠れた。


「俺は……」


天才かもしれない。


普通の十五歳より遥かに多くの知識を持っている。


けれど。


銃を持った人間を相手に戦えるわけではない。


「……死にたくない」


その感情が、頭の中を支配した。


会場の奥。


強化人間たちが叫んでいた。


「俺たちは人間だ!」


「実験動物じゃない!」


「自由をよこせ!」


彼らは、強化人間に対する人権を求めていた。


だが。


警備側は、彼らをテロリストとして扱った。


「武器を捨てろ!」


「こちらは警告している!」


「投降しろ!」


「ふざけるな!」


強化人間の一人が叫ぶ。


「俺たちは何年も政府に訴えてきた!」


「誰も聞かなかった!」


「だから――」


銃を構える。


「ここで聞かせる!」


「撃つな!」


警備員の一人が叫ぶ。


だが。


別の警備員が、特殊な武器を構えた。


「強化人間なら、これで動けなくできる!」


「待て!」


間に合わなかった。


――パァン!


遠距離型スタンガンから、強烈な電撃が放たれる。


強化人間の身体が跳ねた。


「ぐああああっ!」


「馬鹿野郎!」


別のテロリストが叫ぶ。


「仲間を撃ったな!」


「違う! スタンガンだ!」


「同じだ!」


その瞬間。


銃声が響いた。


――パンッ!


警備員が倒れる。


「うわあああ!」


会場中がパニックになる。


銃撃戦が始まった。


玲音は必死に逃げた。


「怖い……!」


足が震える。


頭では分かっている。


出口。


避難経路。


建物の構造。


警備配置。


どこへ逃げれば安全なのか。


頭の中では計算できる。


しかし。


身体が動かない。


「動け!」


自分に言い聞かせる。


「動けよ……!」


その時。


目の前を警備員が走ってきた。


「君!」


「え?」


「そこから離れろ!」


警備員が玲音の肩を掴む。


「子供は避難区画へ!」


「僕は――」


玲音は言いかけた。


両親。


父親と母親。


この場所に、何か手掛かりがあるかもしれない。


「……まだ帰れない」


「何を言ってる!」


「両親を探してるんです!」


「今はそんな場合じゃ――」


――パンッ!


銃声。


警備員の身体が揺れた。


「……え?」


玲音の目の前で。


警備員が倒れた。


「……!」


玲音は凍りついた。


「嫌だ……」


身体が震える。


「嫌だ……」


目の前に血が広がる。


玲音は後ずさった。


「死んだ……?」


返事はない。


その瞬間。


背後から声がした。


「伏せろ!」


玲音は反射的に頭を下げた。


――パンパンパン!


壁に弾丸が食い込む。


「走れ!」


別の警備員が叫んだ。


玲音は走った。


もう両親のことを考える余裕はなかった。


ただ。


生きたい。


その一心だった。


しかし。


逃げた先にも、人がいた。


「こっちだ!」


「避難ポッドへ!」


玲音は人の流れに乗る。


だが。


その時。


轟音が響いた。


――ドォォォン!!


建物全体が揺れる。


「爆発!?」


天井から破片が落ちる。


人々が逃げ惑う。


「軌道エレベーター内部に爆発物が仕掛けられている!」


誰かが叫んだ。


「嘘だろ……」


玲音は空を見上げた。


巨大な軌道エレベーター。


人類の夢。


五十年間、一度も大規模事故を起こさなかった巨大建造物。


それが。


今。


崩れようとしている。


「……こんなことが」


玲音の足元が揺れた。


「立て!」


誰かに肩を掴まれる。


「脱出ポッドに乗れ!」


「でも――」


「早く!」


玲音は走る。


避難ポッドへ向かう。


しかし。


その途中。


視界の端に、先ほどの老人が見えた。


四ノ宮研究所の元研究員。


「……!」


玲音は足を止めた。


「待って!」


老人がこちらを見る。


「君……!」


「両親は!?」


老人の顔が歪む。


「……生きている」


玲音の目が見開かれる。


「どこにいるんですか!」


「それは――」


老人が言いかけた。


その瞬間。


巨大な爆発が起きた。


「――!」


衝撃波。


玲音の身体が宙に浮く。


「うわああああ!」


世界が回る。


壁。


床。


人。


炎。


全てが混ざる。


「嫌だ!」


玲音は手を伸ばした。


「父さん!」


「母さん!」


そして。


何かが玲音の身体に直撃した。


激痛。


「――っ!」


身体が動かない。


音が遠ざかる。


視界が暗くなる。


「……痛い」


指を動かそうとする。


動かない。


足も。


腕も。


「……嘘だ」


玲音の脳裏に、前世の記憶が蘇る。


病院。


ベッド。


動かない身体。


「また……」


玲音は恐怖した。


「またなのか……?」


自分は。


前世でも病気で身体を自由に動かせなかった。


そして今。


せっかく健康な身体を手に入れたのに。


「嫌だ……」


意識が遠のく。


「まだ……」


父さんと母さんを見つけていない。


「まだ……死ねない」


視界が暗くなる。


最後に聞こえたのは。


誰かの叫び声だった。


「生存者がいるぞ!」


「この子を脱出ポッドへ!」


「急げ!」


そして。


玲音の意識は――


完全に途切れた。

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