王の試練
「そんなの駄目ですよ。相手は王様ですよ」
イリスの笑い声が収まる前に、隣に座っていたエレナが口を挟んだ。
さっきまで黙って話を聞いていたが、さすがに王国を乗っ取るという話は聞き流せなかったらしい。
ルーナも困ったようにこちらを見る。
「面白いとは思いますけど、暴力的なことをするなら、メディアちゃんの見た目ではやらないでほしいです」
「大丈夫だよ。僕に作戦があるから」
二人ともまだ何か言いたそうだったが、僕は向かいに座るイリスへ目を向けた。
「これはメディアに聞いた話だけど、この国の国王はノアが作った試練を突破した人がなるらしいね」
「よく知っているわね」
イリスは少し驚いた様子を見せた。
「帝国に降伏したときに、そう決められたのよ。もともとは初代皇帝を国王にするために作られた決まりだったらしいわ。でも、肝心の初代皇帝が面倒くさがって塔に挑戦しなかったのよね」
「まあ、あんな塔、まともに攻略できないからね」
「それはそうかもしれないわね」
イリスはあっさり同意した。
「結局、それからも誰も突破していないから、初代皇帝の時代からずっと王候補がこの国を治めているの。そもそも私は、その塔に挑戦することすら許されていないけど」
「じゃあ、僕たちでそれを突破しよう」
イリスの表情が止まった。
隣を見ると、エレナも目を見開いている。ルーナもさっきまでの困った顔ではなく、今度は完全に驚いた様子で僕を見ていた。
「……本気?」
イリスが少し身体を引きながら聞いてくる。
「うん。君が試練を突破すれば、次の国王になることは決まりなんでしょう。それなら、昔の条約がある以上、帝国も王国も無視できないはずだよ」
王位を奪うために誰かと戦う必要もない。
これならずいぶん平和的だ。
「何かおかしいこと言った?」
三人とも黙っていたので聞いてみると、ルーナが先に口を開いた。
「たしかに、今のあなたはメディアちゃんですから、イリスさんを遺跡に行かせることは可能でしょう。でも、ご存じですか?」
「何を?」
「過去、あの遺跡に挑戦した王族は五人です。全員が廃人になって、その後死亡していますよ」
僕は少し考えた。
たぶん、その五人は王族として甘やかされて育ったのだろう。
リゼットも昔、「面倒なら私がぶっ壊してやろうか?」と言っていたくらいだ。いくらノアでも、本当に誰にも攻略できないものを作るはずはない。塔そのものが無理なのではなく、これまで挑んだ人間の方に問題があったのだと思う。
「それなら、イリスなら何とかなるでしょう」
僕がそう言うと、イリスは少し不思議そうにこちらを見た。
「さっきから思ってたんだけど、どうしてそんなに私を買ってるの? 私のこと、ほとんど知らないでしょう」
「うーん。なんていうんだろう。あんまり理屈じゃないんだけど、僕ができると言ったことはできるんだよ。昔から」
「何よそれ」
イリスは呆れたように言いながらも、少し笑った。
すると、隣にいたエレナが少し得意そうな顔をした。
「大丈夫です」
「あなたまで何なのよ」
「アルト様はいつもこうなんです。私にも、最初からずっとできると言っていました」
エレナはそう言って僕の方を見る。さっきまで塔の話に驚いていたのに、その声には迷いがなかった。
「理由はよく分かりません。でも、アルト様がやれると言ったことは、本当にできるんです」
エレナはそう言い切った。




