新しい従者
セドリック兄上に呼ばれたのは、昼食を終えて少し経った頃だった。
執務室へ入ると、兄上はいつものように机の向こうに座っていた。書類に目を通していたらしく、僕が入ってきたのを確認すると、それを脇へ置く。
「ルーナ殿がお前の従者になったそうだな」
「もう聞いたんだ」
「ああ。教会から連絡があった」
さすがに早い。
僕は兄上の前に立ちながら、どう説明したものかと少し考えた。
メディアに頼まれて、教会の人間を一人もらった。
事実だけならそれで済むのだが、ルーナは教会でもそれなりの立場にいる人間だ。そんな人物を、僕の護衛として屋敷に置くことになったと言えば、普通は理由を聞かれるだろう。
メディアとの話をどこまで説明するべきか考えていると、兄上が先に口を開いた。
「まあ、いいんじゃないか」
「いいの?」
「何か問題があるのか?」
「いや、僕はないけど」
あまりにもあっさりしている。
兄上は椅子の背にもたれると、どこか機嫌のよさそうな顔で僕を見た。
「ルーナ殿は教会の中でも重役だ。そんな人物をわざわざお前につけるというのだから、大切に扱えよ」
「それはもちろん」
「しかし、ずいぶん気に入られたものだな」
兄上が笑う。
「教会からお前への愛を感じるな」
「愛?」
「ああ。私は応援しているぞ」
何を応援されているのだろう。
聞こうかとも思ったが、兄上は妙に優しい目でこちらを見ている。これ以上話を広げても、よく分からないことになりそうだった。
少なくとも、ルーナを屋敷に置くことについて反対されてはいない。それが確認できれば十分だ。
「分かった。じゃあ、ルーナにはそう伝えておくよ」
「ああ。仲良くな」
最後まで妙に生暖かい。
僕は少し気になりながらも、兄上の執務室を後にした。
◇
ルーナは客室で待っていた。
僕が部屋へ入ると、椅子からすぐに立ち上がる。すでにメディアから話を聞いているらしく、荷物までまとめてあった。
「兄上にも話したけど、屋敷にいていいって」
「本当ですか?」
「うん。僕の従者として置くことも問題ないって」
そう伝えると、ルーナの顔がぱっと明るくなった。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
ずいぶん気合いが入っている。
もともとメディアの護衛を任されていたくらいだから、実力について心配する必要はないだろう。本人もやる気があるなら、僕としては特に言うこともなかった。
「そんなに気負わなくてもいいよ。今まで通りで」
「はい!」
大きく頷いた後、ルーナは少しだけ声を落とした。
「それにしても、メディアちゃんも可愛いですね」
「メディア?」
「はい。恋人には強い護衛をつけておきたいだなんて」
そこで、ようやく話がつながった。
兄上の妙に優しい態度も、最後の「仲良くな」も、おそらくこれが原因だ。
「ちょっと待って。僕とメディアはそういう関係じゃないよ」
僕が否定すると、ルーナは一瞬だけ目を丸くした。それから、何かを理解したように小さく頷く。
「分かっていますよ」
「本当に?」
「もちろんです。付き合っているなんてことが知られたら大変ですもんね」
「いや、そうじゃなくて」
「大丈夫です。私、秘密は守れますから」
どうやらまったく分かっていない。
ここまで確信しているということは、メディアがルーナに説明するときに、わざと誤解するような言い方をしたのだろう。
昔、似たようなことをする人間を僕は知っていた。
本人は嘘をついていない。ただ、相手が勝手に勘違いするように言葉を選び、後から聞かれれば平然と「そんなことは言っていません」と答える。
セラフィナがよく使っていたやり方だった。
「ああ……」
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
こういうところまでセラフィナから学ばなくていいのに。
僕は楽しそうにしているルーナの前で、静かにため息を吐いた。




