泰平のあかし〈十四〉
涙が止まらず、恒は目を擦りながら金屋に戻った。
井戸水で顔を洗って気を引きしめ、銀治たちの帰りを待つ。
花火の出来が良くなかったら、こっちから暇を出してやると銀治に言われた。あの出来で駄目だとは言われないと思うけれど――。
それでも、銀治がどう言うのかが気になった。
気を張ったまま、そわそわと井戸の前を行ったり来たりしていると、表で物音がした。ついに皆が帰ってきたのだ。
「お、おかえりなさいっ」
勝手口から飛び込んで土間に出ると、皆は恒の勢いに押されたのか少し驚いていた。
七五三太は板敷きの上でちゃんと三つ指を突いて迎え入れている。少し、恥ずかしくなった。
「ああ、ただいま」
治兵衛がフッと渋く笑う。鉄助も半平も満ち足りた笑顔だった。
銀治は表情が乏しいから、よくわからない。いつも通りにしか見えない。
百蔵は恒に背を向けていた。
「ちゃんと見ていたんだろうな?」
目の下に煤がついている。そんな銀治に向け、力いっぱいうなずいた。
「あ、あい。無事に打ち上げてくだすってありがとうございます」
「それでどう思った?」
本当に、何を考えているのかわからない顔だ。恒にどんな答えを求めているのかまったく読めない。
だから、正直に思うところを告げるだけだった。
「――思った通りの出来でした」
そうあってほしいと願って作り上げたそのままの形で空に上がった。
だから、もっとこうすればよかったという悔いはない。
これを言ったら銀治はやっと無表情を崩し、目にした町娘たちを騒がせるような笑みを浮かべた。
「ああ、いい花火だった」
世辞を言わない人だ。
だから、この言葉は本心だと思っていい。
ここにいてもいいと銀治が許してくれる。
皆がにこやかだった。その顔を見ていたら、張りつめていたものが緩んだ。
一度止まったはずの涙がまた滲みそうになる。こんなに泣くのは子供の頃以来だ。
「ありがとう、ございます」
ここが自分で勝ち取った居場所なのだ。
もう、仲屋の連中に何を言われようとも怖くない。
深く頭を下げた。いろんな想いが込み上げてきて、なかなか上げられない。
そうしていると、百蔵が外へ出ていったようだった。
はっとして顔を上げると治兵衛と目が合う。そのままそっとかぶりを振っていた。
いい花火だと銀治が認めてくれるような出来でさえ、百蔵には恒が女子だからという理由で認められないのか。
嬉しさの中にほんの一滴の無念さは残った。
けれど、それくらいは仕方のないことなのだろう。
少しも欠けることのない喜びは、多分どこにもないのだ。
手に入れただけの喜びを大事に噛みしめて、それで良しとしよう。




