6 古川先生
『マツバラが動き出した』
JB からウイルにもその連絡が入った。
ウイルがイオの顔を見る。
「大丈夫です。R国のスパイを取り逃がしてしまった時から、いずれこういう時が来るとわかっていました」
ウイルはJB に返信を送る。
『古川先生に警護は付けられますか?』
『一応それとなく身辺を警護するように頼んではいるんだが。なにしろこちらも人手不足でね。毎日というわけにもいかなくて』
古川は今は信州国際大学の地域科学部の教授として長野県に住んでいる。山間の自宅での「哲学カフェ」のようなこともやっているらしかった。
ウイルとイオとは時おり連絡を取り合っていたが、R国もマツバラも動き出したとなると少し控えた方がいいかもしれない。とウイルは思った。
一応古川先生とウイルたちとの連絡にはJB の使っている暗号回線を使うようにしているが、R国はともかく、A国のマツバラたちには暗号化された通信があるくらいのことは把握されてしまうかもしれない。
やつらの標的がウイルとイオである以上、あまり頻繁に連絡をとるとまたやつらの魔手が古川先生に伸びるかもしれない。
『一応身辺に気をつけるよう、連絡だけは入れておきました』
JB のメッセージにはそう書いてあった。
「会いたいなあ……」
とイオが言う。
「迷惑がかかる」
「うん……」
ところが、古川先生の方からJB 回線でオンライン通話が入ってきた。
「やあ、イオ。元気かい?」
「古川先生!」
イオがぱあっと表情を明るくする。
「また一度会いたいなぁ。オンラインじゃなくて直接顔が見たいよ。イオは監視カメラなんかの中に入って直接見られるかもしれないけど、私にはそういうスキルはないからね」
「古川先生はお元気なんですか?」
ウイルがイオの後ろから顔を出して問いかけた。
「今のところどこも悪くはないよ。悪いのは稼ぎくらいだ」
古川先生は鷹揚に笑う。
イオがそわそわしている。
古川先生に会いたいのだろう。
そうだな……。とウイルも思った。事態が悪くなる前に一度会っておいた方がいいかもな。状況によっては会うことなんてできなくなるかもしれない。
「私たちが今いるところは……」
ウイルが言いかかると、古川先生がそれをさえぎった。
「いや、それは私は知らない方がいいだろう。ご足労だが、よかったらそちらから信州の私の家まで来てもらえると嬉しいが……」
イオが目を輝かせてウイルを見た。
「しかし……」
「私の居場所は秘密でもなんでもないし、彼らの狙いは私ではなく君たちだ。私が会いにゆくところをつけられたりするより、君たちが私に会いにくる形の方がよほど安全だろうと思う」
たしかに……。とウイルも思った。
古川先生が能動的に動けばかえって、まだ深く関わりがあるとも受け取られかねない。ウイルたちが会いに行く分には旧知の人にたまたま会いにきた——というだけで済む。むしろ古川先生にとってはその方が安全だろう。
「日本……か。久しぶりに行ってみようか、イオ」
イオがぱああっと顔を輝かせた。イオにとっては日本は生まれ故郷だ。




