忘却の少女Ⅸ
「いやはや、うちのかび臭い店でも、若い子が集まれば華やかに見えるな」
奥から出てきた川村さんは、私達を見てすぐにその手に持っていた煙管の火を消した。
最後にぶわりと舞った煙の香りは、私の鼻腔に入っても特に不快感を与えなかった。
それどころか、少しばかり甘い匂いがした。
何かの花なんかが原料に入っている香草の類だったのかもしれない。
「さて、ようこそ物好きなじじいがやっている鉄棒古物商へ。ここは最新のものは無くても、面白くて珍しいものなら大概あるぜ?曰くも合わせて買ってくれたらいう事なしだ」
意地の悪そうな笑みを浮かべる川村さんは、店主としてそんな挨拶をする。
それに私達は四者異なる反応をする。
慣れているのかゆきは無反応でスルー。サラは先ほどから何かに怯えっぱなしで、私もまたどう反応すればいいのか判断に困ってしまっている。
そんな中一人、川村さんが出てきてから何かを思案していたクセイアが口を開く。
「店主。私はクセイア・クラシーヴァという、ゆきから聞いたんだが昔話の師匠だとか.........よければ名前を教えてくれないか?」
「ほう、嬢ちゃん。分かる側か。だが、まぁ残念ながらおいら自身はそういうのってわけじゃねぇよ?おいらは川村鉄蔵。ちょいと珍しい縁を結んだだけのじじいよ」
クセイアのその唐突な質問に、川村さんは実に楽しそうに答える。
そして、その名を聞いたクセイアは目を見開く。それはそれは大きく。
まるで、信じられないものを見たとでも言いたげな表情だった。
「それはあの川村鉄蔵か?」
「あのってのが、どのことを言ってんのかおいらには分からないが、クセイアの嬢ちゃんが考えているそれであっていると思うぜ?」
「......!それは俄然、興味が湧いた。ぜひ話を聞かせて欲しい!」
「へぇ、嬢ちゃんもなかなか物好きだな。おいらの事を知っている奴は大概「見せて欲しい」か「売って欲しい」って最初に言うぜ?「聞かせて欲しい」でいいのかい?」
「ああ、見せてもらえるなら願ったりだが、私としてはやはり大事なのは話だからね」
クセイアのテンションがものすごく上がっている。
どうやら川村さんの事を知っているようだ。
知り合いというわけではないようだが、
「川村さんって有名人なの?」
「え、知らない。私は結構、お世話になっているけど......ご近所さんでもあんまり話に聞かないよ?」
念のため、元々付き合いのあるゆきに聞いてみるが、やはり知らないらしい。
ならクセイアはどこでその名前を聞いたのだろう。
私や、昔からの知り合いのゆきが知らないのに、普段は旅をしているらしいクセイアが知っているのは何故なんだろう。
「ま、あいにく筆を置いて久しい。そう評価してくれるのも嬉しいっちゃ嬉しいが、じじいにはくすぐったいだけだな。今回はおいらの話だけで満足してくれや」
「ええ、もちろん。それで満足できますとも」
なにがなんだか分からないが、何やら話は着いたらしい。
「さて、でそっちの嬢ちゃんは昨日ぶりだな...嬢ちゃんの後ろに隠れてんのが言ってた幽霊ちゃんかい?見たとこ幽霊にしちゃ、しっかりと実体が在るみたいだがな」
「.........えっと、なんでこの子がその話の子だと?」
嬢ちゃんと呼ばれ、ああそう言えばこの人にまだ自分は名乗っていなかったなと思い返しつつも、そんな思いが吹き飛ぶようなことを言われて思考が止まった。
確かにサラはちょっと人間離れした白さを持っている。私たちとの出会いだった、あまりにも常識外れだ。昨日の今日でこんな状況なのだから私達だってなにか関係があると思う。
だけど、川村さんは私がそういう話を聞いたって又聞きしただけだ。
それにサラと出会ったことを川村さんは知らない。
状況だけなら、いつも一緒の仲良し四人組がそのうちの一人であるゆきに連れられて遊びに来たと言っても不思議じゃない状況のはず。
なのに、一発で正解を引き当てられたことに驚愕を隠し切れない。
「なに、見ればわかる。おいらみたいなのは物事の本質を見るからな。まぁ、あんまり気にすんなおいらのようなのはこの時代には珍しい。普通にしていれば他人からみて分かるものでもない」
「おじいちゃん!サラの症状に詳しいの?」
「詳しいつうか、まぁこれもまた曰くのある話に出てくるだけよ」
川村さんは口さみしいのか、火の付いていない煙管を咥えながらそんなことを言う。
それに食いつくのは当然のように二人。
「「聞かせて!!」」
興味津々、聞かずにはいられないと言った様子で二人の言葉が重なった。
私は未だに小さくなっているサラに声を潜めて尋ねる。
「正直、私もちょっと状況がよく分からないけれど、あの人はサラの状態に心当たりがあるらしい、ちょっと聞いていこう」
「.........は、はい」
サラもまた潜めた声で返事を返してくれた。
いよいよ、私達も川村さんに向き直り、その語りだしを待った。




