ランスロット
ブラックブレイド8 ランスロット1
ここは、どこだ?
俺はたった一人で見知らぬ街にいた。
「どけよ」
後ろから声がした。
「あ、悪い」
後ろから黒髪の美少年が現れ、通り過ぎようとしていた。
声をかける。
「ちょっといいか?」
「なんだよ! 俺様は急いでいるんだ!」
「今は西暦何年だ?」
美少年は憂鬱な目で俺を見た。
「あぁ、■■■年だが」
過去だ。
明らかに過去だ。
「あの、ついでに聞いていいか?」
「なんだよ!?」
恐い。
視線で人を殺せそうだ。
「ランスロットっていう人とアーサーっていう人を探しているんだけど……」
美少年は呆れた顔で言った。
「ランスロットは俺様だ」
「まあ、座れよ」
俺の手にはランスロットの剣がある。
ランスロットの腰には鞘に収まった剣がある。
二つの剣の意匠は同じだ。
「ランスロット。こんなことを言っても信じてもらえないだろうが……」
話した。
全てを。
「分かった。信じる」
「信じるのかよ」
「だってそれ、俺様の剣だからな」
剣をチラリと見る。
「刀身がないのは何故だ?」
「最初から無かったんだ」
「そうか」
ランスロットは俺の読んでいる本を見た。
「それは?」
「クトゥルー神話だよ」
愛読書であるそれは、ポケットサイズで常にポケットに入っている。
リードに勧められて読み始めたが、結構面白い。
「クトゥルー神話とはなんだ?」
「架空の神話だよ」
「そうか。架空の神話か。なら、マーリンを倒せるな」
マーリン。
その単語を聞いて思い出した。
「俺はマーリンを倒しに来たんだ!」
「騒ぐなよ」
ランスロットはクトゥルー神話の小説を読む。
「なあ、名前は何がいい?」
「なんの名前だ?」
「架空の神の名前に決まっている」
「架空の神の名前?」
「マーリンはアーサーたちを味方につけ、聖杯によって神に等しい王の力を身につけようとしている。普通の神話を封じた魔剣では、勝てない」
「まて、話が分からない。魔剣ってなんだ?」
「魔剣とは神を封じた剣だ。だが普通の神では聖杯を手にした、いや、手にする前のマーリンにも勝てないだろう。だから、マーリンの知らない神で戦う」
理解は出来ない。
だが、
「名前は、アーガスがいいと思う」
「アーガスか。いい名前だ」
ランスロットは地下室に俺を連れて来た。
「なんだここ?」
ランスロット2
ランスロット。
特技。錬金術。
「俺様の剣に神を封じる」
ランスロットはフラスコや怪しげな機械がたくさんある地下室で俺の、いや、自分の剣を調べた。
「なるほど」
「何がなるほどだよ」
「アーサーのエクスカリバーに力の波動が似ている」
「は?」
「分からなくていい」
さて、とランスロットは俺を椅子に座らせた。
「神殺しに行くぞ」
「待て。話が分からない」
「行くぞ」
途端に意識が曖昧になった。
目を覚ますと横倒しになったビル群だった。
だが、レトロな建物も存在する。
「ここは、いったい?」
「アーガスそのものだ。体内みたいなものだ」
「体内?」
「ああ、この中にいる神本体を倒して封じる」
「我を倒す……だと?」
ビル群が一部、クレーターのように破壊される。
そこに居たのはボロ布を纏った女性だった。
魅惑の魔女と言った方が分かりやすいか。
ロウよりはるかにスタイルのいい体に、漆黒の瞳。
「我が名はアーガス。混沌より産まれし魔神」
「行くぞ!」
ランスロットが剣を抜く。
それは普通の剣だった。
勝てるはずがない。
「仮面を使う」
ランスロットがボソッと言った。
「仮面?」
「ああ、アーサーの黄金の王の力、借りるぜ」
仮面を空中から取り出す。
黄金の意匠が凝らされたそれを付ける。
「黄金の力は不老不死。分け与えられる力は絶対的耐久性」
ランスロットが突っ込む。
「俺も、行くか」
白い仮面を取り出す。
純白のそれには意匠はない。
ただ、目と口の穴が空いているだけだ。
それを、付ける。
「は……!」
ガタゴトと振動がする。
「ん……」
ああ。バスの中か。
俺は夢を見ていたのか?
かなりリアルな夢だったな。
「このように、アーサー王はブリテンの王になったのです」
俺は今、アーサー王の遺跡巡りをしているのだ。
と、言ってもアーサー王は伝説上の人物なので、遺跡は全部ニセモノだが。
「ん……」
バスが停車する。
次の遺跡についたようだ。
ガイドの説明によると、ここは最も古く発掘された遺跡らしい。
遺跡の中に入ると、七つの石の台があった。
それ以外には何もない。
まったく何もない。
ガイドの説明では、七つの剣が最初刺さっていたのだが、六つの剣はすでに抜かれているらしい。
「あの、七つ目の剣は抜けなかったんですか?」
質問する。
デジャヴだ。
そして、
それに対する答えはガイドが示してくれた。
ガイドが刺さっている剣を引き抜こうとする。
しかし微動だにしない。
「こうです。最後の剣だけは誰も引き抜けなかったのです」
「俺も引き抜いていいですか?」
どうぞ。
ガイドはあっさりと譲る。
石の台に登る。
剣の柄を握る。
『あなたはわたしが選んだ王です』
誰かが囁く。
今度はちゃんと聞こえた。
意味は分からないけど、でも、聞こえたんだ。
「……」
剣を握る手に力を込める。
そして、剣をゆっくりと引き抜く。
「え……」
ガイドが驚く。
数ミリ引き抜いてから剣を一気に引き抜いた。
デジャヴだ。
だが、今度はちゃんと刀身がある。
漆黒の刀身が。
一体、どうなっているんだ。
ランスロット3
九郎リアスは消滅した。
そう、ランスロットには見えた。
「仮面を付けた瞬間消滅しやがって」
ランスロットとアーガスは戦っていた。
いや、違う。
「こんなものか?」
アーガスは笑う。
「くっ!」
流石は神。
ランスロットは防戦一方だった。
「九郎!」
剣を抜いてから、デジャヴの通りに進む。
あれは、夢じゃない。
実際に起こったことなんだ。
そして今、俺はそれを追体験している。
ロウと出会い、火除けの指輪を手にする。
そして、
「遅かったか」
後ろから声がした。
振り返ると、スキンヘッドの黒人がいた。
ボイドだ。
「第六王権者のボイドだ。よろしくな。第七王権者、九郎リアス」
「よろしく」
「第七王権者。その火除けの指輪を賭けて俺と勝負しろ」
ロウが手で制する。
「第七王権者はわたしの味方だ。そして、火除けの指輪はわたしのものだ。だから、わたしが相手をしよう」
スラリと、剣を抜く。
「ガウェイン卿のレイピアか……」
「そうだ」
ロウが動いた。
人間離れした速度でボイドに迫る。
しかし、
「待て!」
ロウとボイドの間に入る。
「……くっ!」
「速い!」
「俺が相手をする」
ボイドに向かって剣を突き付ける。
「勝負だ」
ボイドが動く。
だが、俺の方が速い。
「パワーなら上だ!」
ボイドが叫ぶ。
だが、
「それ以外は全て俺が有利だ」
ボイドの剣を破壊する。
「てめぇ!」
終わりだ。
俺はボイドの首を剣の柄で殴った。
ボイドは気絶した。
ランスロット4
今度はエジプトだ。
狙いは死者を操る『死者の書』という本だ。
デジャヴの通りに進む。
「なぜ、ここにいるのかしら?」
ロウは目の前にいる白髪の美少年に向かって言った。
「第一王権者。ルーク・ペンドラゴン」
ルークは手にした本をパタンと閉じた。
「死者の書はこれだよ。そして、僕は君たちと戦う気はない」
「戦う気はない?」
「九郎リアス。君はロウのお気に入りらしいが、非常に不快だ。視界から消えてくれ」
「……」
「はぁ……」
ルークは鞘に収まった剣を取り出す。
「エクスカリバー。唯一鞘と剣が同時に存在する聖剣。鞘はあらゆる傷を癒し、剣はあらゆるものを切り裂く」
デジャヴ通りだ。
だが、その運命を変える。
それが、たぶん俺がここにいる意味だ。
「……」
「君は僕に勝てない」
ランスロット卿の剣を握る。
「はぁあああ!」
突撃する。
愚直に、真っ直ぐに。
「……」
一瞬で胸を刺し貫かれる。
それがデジャヴ。
だが、その運命は書き換える!
血が噴き出す。
ルークから。
エクスカリバーは折れていた。
「ロウ。帰るぞ」
死者の書をポイッと捨てて言った。
「まさか、ルークに勝つなんて!?」
「……負けだ。僕を殺せ」
ルークがつぶやく。
「……分かった」
「……」
グサッ!
ルークの胸を刺す。
そして、ルークの鞘を胸に当てる。
失った血が戻り、傷が癒えるのが分かった。
「さあ、行こうか」
「……うん」
「待て!」
ルークが叫ぶ。
「お前は一度死んだ。約束は守ったぞ」
ランスロット5
時は過ぎ、紫藤と決闘することになる。
「いきます」
紫藤は鞘に剣を戻す。
そして、構えた。
「抜刀か……」
剣術の奥義にして基本。
間合いに入った瞬間、斬られる。
だが、やるしかない。
「行くぞ」
踏み込む。
シュン!
音速に近い速度で剣が振るわれる。
間一髪、避ける。
「私の剣の能力は高速移動。速さでは負けません」
足で机を蹴り上げる。
「ちっ!」
机が真っ二つになった。
「流石だな」
斬れ味じゃない。
あの速度が異常だ。
そして、その速度についてこれる反射神経が異常だ。
剣の能力か。
「なら、俺も出し惜しみなしだ」
集中する。
炎をイメージする。
溢れる純白の炎を。
「炎が……出ない?」
炎が出ないのだ。
なぜ?!
赤をイメージする。
だが、何も起きない。
蒼をイメージする。
だめだ。
黒をイメージする。
途端に、顔面を仮面が覆う。
意識が飲み込まれる。
『大丈夫。わたしがそばにいます』
意識を繋ぎとめるために生爪を剥がす。
「く……」
指先が熱い。
黒い炎の制御はまだ出来ない。
このままだと自身の炎で燃える可能性すらある。
だが、
「紫藤。俺はこの運命も覆す」
「なんの話ですか?」
「……」
俺は紫藤に突っ込んだ。
キンッ!
剣と剣がぶつかり合う。
炎で強化された魔剣と、高速で振られるガラハッドの剣。
だが、経験が両者の実力を分ける。
「はぁ!」
「な……」
紫藤の剣を弾き返す。
「炎よ」
集中する。
そして、左手で持っていた柄を両手で持つ。
黒い炎の制御。
出来なければやられるだけだ。
『大丈夫。あなたは闇の王なんだから』
「ん……」
炎が変わる。
それは、質の変化。
真っ白な黒が様々な色が混ざり合った混沌の黒に変わっていく。
「……」
そして、
「な!?」
紫藤が驚く。
炎が身体にまとわりつき、衣服になる。
黒色のコートによく似た衣服に。
「第七王権者。九郎リアス! お前は、何なんだ!?」
「……」
剣と剣が交わる。
分かる。
「アーガス」
お前は、確かに俺の中にいる。
「……」
「お前は、何なんだ!?」
俺は決意した。
「俺は……」
四方八方に溢れていた炎を全て刀に注ぐ。
「紫藤……最後の一撃だ」
「なら、私も」
紫藤が抜刀の構えをとる。
「いざ」
「「勝負」」
剣と剣がぶつかり合った。
そして、紫藤の剣は跡も残さず、完全に燃え尽きた。
ランスロット6
紫藤に勝った。
以前の俺はそれで終わりだと思っていた。
だが、今の俺は違う。
「この骸骨共は、死者の書で呼び出された死者たちだ」
骸骨に囲まれながら、俺と紫藤は背中を合わせる。
「私の剣は使えません。いったん撤退しましょう」
「神社に?」
紫藤は驚く。
「なぜそれを?」
「それより、屋上に行こう」
イメージする。
炎の翼を。
「わ?!」
剣から炎が一筋流れ、翼となった。
「見つけた」
「雨の中よくここが分かったわね」
「第五王権者。いや、咲畑時雨。俺の幼馴染みは学校の屋上が好きだったからな」
時雨はフードを脱いだ。
「あれれ?」
ワケが分からないという顔をする。
「気付いたのは、ただのデジャヴのおかげだよ」
「あーあ、せっかく声まで変えたのに、会う前に失敗かー。残念」
「なぜこんなことを?」
「九郎くんのせいで大変なことになったの。そして、それを何とか出来るのは九郎くんしかいないの」
「大変なこととは?」
俺はとうとう、理由を聞いた。
「そうか。九郎くんは二周目の九郎くんなんだ」
時雨は勝手に一人で納得している。
「何の話だ?」
「魔剣にはクトゥルフ神話の神、アーガスが封印されている」
「ああ、そうだ」
「でもね。クトゥルフ神話は1900年くらいに出来た新しい神話なんだよ」
「ああ、昔のランスロットに俺が教えた」
「やっぱり、二周目なんだ」
ランスロット7
俺が仮面を外すのと、紫藤が居なくなったのに気付いたのは同時だった。
「紫藤は?」
「現実世界に送り返したよ」
「そうか。それより二周目ってなんだ?」
「九郎くんはいつか過去に行き、
ランスロットに出会い、アーガスを封印するために純白の仮面を付ける」
「白銀の王の未来予知か?」
「うん。で、純白、白の王の能力は時間の支配。だから、九郎くんは時間を超えてここにいる」
「で、俺はどうすればいい?」
『簡単だよ。全ての王権者を倒せばいい』
「うん。正解」
驚いた。
「時雨。こいつの声が……」
「聞こえるよ。だってそいつは、白の王なんだから。王にしか聞こえない声なんだから」
『ボールスのナイフを壊しなさい』
「だってさ。はい」
ナイフが投げられる。
俺は剣でそれを砕いた。
「さて、話を戻すよ。マーリンは一周目で君たちが倒す。過去でね。だけど封印しか出来ない。七本の剣を用いた封印しかね」
「まさか、あの遺跡やガイドは?!」
「そう、ガイドはマーリンの使い魔。遺跡は封印の儀式の場所だ」
「でも、俺が封印を解いてしまった」
「うん。結果的にマーリンは蘇った後、聖杯を使って無色の王になった」
「どうすれば勝てる?」
「クトゥルーと契約して。道はアーガスが作ってくれる」
「アーガスが?」
「ああ、そうだよ。そして、その前に他の王権者の剣を壊してね」
「なぜ?」
「この世界に来た九郎くんが元の世界に帰るには、二つの世界を繋いでいる共通で特殊な物を壊すしかない」
「マーリンは? この世界のマーリンはどうする?」
剣も無しに勝てるのか?
「大丈夫。九郎くんが一周目で倒してくれれば連鎖的に全てのパラレルワールド、全ての世界線のマーリンが消滅する」
「未来予知か?」
「そうだよ」
「勝てるのか?」
「確率は1パーセントもない。だが、忘れないでね」
俺はロウたちの剣を破壊するため、歩き出した。
時雨はつぶやく。
王の力は心の力だよ。
「は?!」
「戻ってきたか?」
目の前でアーガスとランスロットが戦っていた。
劣勢なのはランスロットの方だ。
「大丈夫か?!」
「あんまり、大丈夫じゃねぇな」
ランスロットの仮面にはヒビが入っている。
ランスロットとアーガスの間に立つ。
「アーガス。俺が勝ったらクトゥルーへの道を作ってくれ」
「人間ごときが…………だが、いいだろう。勝てるならな」
「勝てるさ」
俺は黒の仮面を空中から取り出した。
「……過去ですでに勝っている」




