悪夢
ブラックブレイド7 悪夢1
放課後。
「紫藤。一緒に帰ろうぜ」
「いやです」
即答だった。
だが、切り札を出す。
「保健体育のことをバラす」
「……今日だけですよ」
睨まれた。
かなり恐い。
帰り道。
「なあ、なんで紫藤は剣を諦めたんだ?」
「勉強と両立出来ないからです」
違う。
恋をしたいから、剣を捨てたんだ。
だけど、俺はそれを取り戻す。
と、
「……」
「紫藤!」
後ろから紫藤に斬りかかる男がいた。
覆面で、顔は見えない。
だが、殺意は本物だ。
「逃げるぞ」
「はい!」
紫藤を連れて近くの神社へ逃げ込む。
偶然か、そこは紫藤と初めて会った神社だった。
「懐かしいな」
「??」
紫藤は意味が分からないという顔をしている。
「いや、独り言」
道場に入る。
神社には不釣り合いなそこは、ホコリが積もっていた。
「紫藤」
「なんですか?」
「掃除しよう」
バケツと雑巾を持ってきて床を磨く。
「なにを……しているんですか?」
「掃除」
「なぜ……もう使わないのに」
掃除が終わる。
「はあー、疲れた」
「本当に掃除するなんて……」
「さて、紫藤」
竹刀を両手に持つ。
両方とも長い竹刀だ。
「掃除した礼に一戦してくれ」
「いやです」
「ちぇっ」
神社から帰る。
そして自宅。
「リード。なんで紫藤を襲った」
リードは覆面を隠さず、机の上に出している。
「なぜ分かった?」
「刀が特徴的だったんだよ」
錆と呼ばれる刀。
あまりにも洗練されすぎて、あまりにも歪だ。
「死の恐怖に晒された瞬間、人は最大の力を出す」
「だからって、やり過ぎだ」
「じゃあ、九郎は紫藤の後悔を思い出させることが出来るのか?」
「ああ」
「九郎。この世界から出る方法はもう一つある。ルークに聞いた話だから信憑性は高い」
「その方法は?」
嫌な予感がする。
そして、それはよく当たる。
「夢に囚われた者を現実世界か夢世界で殺すこと」
悪夢だった。
悪夢2
翌日。
クラスでは俺と紫藤のことがウワサになっていた。
「ねぇ。知ってる?」
「なに?」
「紫藤さんとリアスくん。体育館裏で何かしたらしいよ」
「まさか、告白」
「その後二人で出てきたって」
「まさか、OKしたのかな!」
「上出来かな」
仕込みは出来た。
「九郎。ウワサは本当なのか?」
ロウが睨みつけてくる。
「あははは。まさか。ただのウワサだよ」
「そうか。ならいい」
「九郎くん」
「時雨。どうした?」
「ウワサは本当?」
ここで嘘だと言うのは簡単だ。
だが、時雨に嘘は通じない。
「半分は本当。確かに体育館裏には行った。けど告白はしてない」
「分かった。信じる」
放課後。
剣道部室。
「あの……」
剣道部室に踏み込む。
「なんだ?」
俺はすまなさそうに言った。
「……道場破りに来ました」
お招き頂きありがとう。少年
「な……」
誰だ。お前?
「知らないやつだな」
知らなくてもいいさ。
「だから、誰だ?」
ただの大剣使いさ。
夢と現。
月読。
それは、人の願望が作り出した世界。
「これは、どういうことですか?」
紫藤は困惑していた。
「頼む紫藤! ヤツを、九郎リアスを倒してくれ!」
話を聞くと、九郎が道場破りをしたらしい。
「リアスに勝てるのは紫藤しかいない。頼む。戦ってくれ!」
「……私は剣はもう……」
「そう言わずにやってやれよ」
声がした。
「誰だ?」
「夢使い。北神だ」
北神は大剣を手にしている。
「命令だからしゃーなしだからな。お前の悪夢を壊してやる」
「なんの話だ?」
「なんの話か知らなくていい。お前はお前の本当の望みを叶えればいい」
「私の、望み?」
「そう、お前の望みは、なんだ?」
「私の、望みは……」
悪夢3
紫藤が、しゃべりかけてきた。
「リアスくん。勝負しましょう」
「なんだ。紫藤。急にやる気になったのか?」
「ええ」
「俺が審判をする」
声がした。
「お前は?」
そいつは大剣を背負っていた。
そして、夢に出てきたやつだった。
「夢使い。北神だ。審判だよ。お前らが本気で戦うと被害が出そうだから、勝負は校庭ですること。木刀で戦って先に負けを認めた方の勝ちだ」
俺は提案する。
「じゃあ、俺が勝ったら付き合ってくれ!」
「はぁ?」
「いいよな。勝負なんだし」
北神は少し考えて言った。
「いいんじゃないか。紫藤はなにがいい?」
「一生……一生つきまとわないでください」
「分かった」
「じゃあ、勝負を始めるぞ」
校庭には観客が溢れかえっていた。
「倒せ! 九郎を倒せ!」
「紫藤さん素敵!」
「リアス。女の子に負けるな!」
「九郎! 彼女の前で負けないでよ!」
「やるか」
「ええ」
木刀を両手に持つ。
紫藤は一本を両手で持つ。
北神はめんどくさそうに言った。
「いざ。勝負!」
カンッ!
木刀と木刀がぶつかり合う。
「なぜ! 私と戦いたいんですか?」
「……」
「なぜ。黙っているんですか?」
片方の木刀が折れる。
「……」
「なぜ、そんな楽しそうな顔をするんですか!」
紫藤の木刀が変化する。
それは、刀だった。
紫藤の剣だった。
「私は恋がしたかった!」
刀となった紫藤の剣と九郎の木刀。
打ち合わせれば、木刀が切れる。
だから、九郎はかわし続ける。
「なんで! 恋しちゃいけないんですか!」
「……」
「王権者だから? 私が特別だから? ねぇ、答えてよ!」
「……お前は」
「なんだ!」
「……なぜ? 剣を使う」
「な……」
「……答えは、もう出てるんだろう」
「私は……」
悪夢4
私は恋も、剣もしたい。
「だから……勝つ」
理由はなんでも良かった。
憎い。
私の長年の修行をあっさり追い抜いた九郎が憎い。
恐い。
あっさりと私の想像を追い抜いていく九郎が恐い。
理解出来ない。
木刀で刀とぶつかり合っていて、それでも互角な九郎が理解出来ない。
だから、
倒さなければならない。
この理不尽の塊を。
だから、
私は、全力を出す。
「こい」
九郎は木刀を構え直す。
ザンッ!
「くっ……」
木刀が切断される。
「使えっ!」
北神が大剣を放り投げる。
「夢は夢だ。今のお前には使えるはずだ」
大剣を受け取る。
軽い。
いや、軽く感じるだけで、重い、はずだ。
「……夢使いの武器は夢と心」
北神がつぶやく。
「夢を信じる力が武器に力を与える」
北神は去っていく。
「じゃあな。夢の力は思いの強さだ」
「審判はいなくなったが?」
「私たちが勝負を止める理由はない」
大剣と刀がぶつかり合う。
だが、大剣が砕けていく。
当たり前か。
「夢を信じる力が、武器になる」
大剣が砕ける。
だが、
「剣なら心にある」
右手に光が集まっていく。
それは徐々に剣の形になる。
それは白い魔剣。
純白の、魔剣。
「ランスロットの剣でもなく。他人の魔剣ではなく、俺の、九郎リアスの魔剣だ」
「う……そ……」
純白の魔剣と刀がぶつかり合う。
だか、紫藤の方は限界だった。
紫藤は膝をつく。
俺はなにをすればいい?
「よう、俺」
「ランスロットか」
見渡すと横倒しになったビル群だった。
「俺様の力。使えよ」
「そうか、俺の後悔はこれか」
俺は純白の魔剣を手に取る。
ランスロットは漆黒の魔剣を持つ。
「ランスロット。お前を倒せなかったことが今の俺の後悔だ」
「じゃあ」
「では」
「「本気で行くぞ」」
俺とランスロットに仮面が現れる。
それを付ける。
途端に力が爆発した。
白と黒の炎がぶつかり合い。せめぎ合う。
「限界か?」
「いや、俺の力はこれだけじゃない」
光が集まる。
それは、記憶。
それは、奇跡。
それは、希望。
「王権者だからじゃない。ランスロットの剣を持っているからでもない」
「俺は、俺だからここにいるんだ!」
「よく言った!」
時雨の声がした。
パリンッ!
ガラスが砕けるように世界が砕けた。
現れたのは三人。
時雨。
「私の後悔は九郎くんをいつも見てるだけで、告白出来なかったこと」
そして、
柔らかい感触が唇を支配した。
ロウ。
「わたしの後悔は九郎にキスしてもらえなかったこと」
「もしかして……」
「オレが教えた!」
リードが刀を手に現れた。
「さあ、王権者たち。全力を出せよ」
次々と現れる。
ボイド
ノア
リード
紫藤
時雨
ロウ
全員が、手に武器を持っている。
そして、仮面を付ける。
武器に纏うのは紫の炎。
「「ああ」」
悪夢5
「なぜ? なぜ俺様の空間に入れる!?」
リードは言った。
「呼ばれたからさ!」
ランスロットは問う。
「誰に?」
「えっと、誰にだっけ?」
俺も忘れている。
俺に大剣を与えたのは、えっと誰だろう?
「まあいいさ。今はやつを倒すことだけ考えろ」
今は、俺のことは忘れろ。
北神はそう、夢の中でつぶやいた。
「仲間が来たから? 俺様に勝てるのか?」
「ああ」
ランスロットとリードと王権者たち全員がぶつかり合った。
「そして……」
黒の炎と純白と紫の炎がぶつかり合った。
そして、
「勝てるじゃねぇか……」
ランスロットはそう言って俺に仮面を渡した。
ランスロットの体は灰になっていく。
「勝った……のか?」
「ああ、お前の勝ちだ。月読から出ていけよ」
「そうするよ」
悪夢から、覚めた。
「おかえり」
母さんが座っていた。
辺りを見渡すと病院だった。
「リード。起きたよ!」
「起きたか?」
「リード……」
「早速だが、世界の危機だ。行くぞ!」
バベル本部。
「マーリンを倒すぞ」
リードが言った。
「どうやって?」
話は聞いた。
王の力を吸い取り、力に変える。
なのにどうやって倒すというのか?
「過去に遡る。そして、聖杯を手に入れる前の魔術師マーリンを倒す」
「話が分からないんだが?」
温泉近くの森。
「おにーちゃんたち? なぜ来たの? 遊びかな? んー? 違うな? なぜ?」
彩葉は無邪気に言った。
リードは無情に言った。
「アーサーたちが聖杯を手に入れる前の過去に飛びたい。出来るな?」
「んー、1500年くらい昔かな~」
「ああ。だいたい合っている」
「じゃあ、飛ばすよ」
「まて、場所は……」
「分かってるって。じゃあ行くよ」
目の前が真っ白になる。
そして、
「ここは、どこだ?」
俺はたった一人で見知らぬ街の中にいた。




