覚醒
ブラックブレイド6 覚醒1
俺が起きたのは見慣れた自分の部屋だった。
「おはよー、起きた?」
時雨が話しかけてくる。
「時雨? マーリンは?」
「マーリン? 何それ? 早くしないと遅刻しちゃうよ」
カバンを押し付けられる。
「あのさ。俺の剣は?」
「剣? 物騒だな。頭大丈夫? 中二病? 私たちもう高校生だよ」
「待て、待てよ。ランスロットの剣だよ! どこにやった!」
「だから。知らないって。ランスロット? 何それ?」
「???」
一階に降りるとリードと母さんが朝食を食べていた。
「あら、もう学校?」
「ええ。おばさま。では行って来ます」
「リーくんもカラーコンタクトなんて止めて九郎を見習ったらどう?」
「善処する」
というやり取りを聞き。
ひょっとして、全ては夢だったんじゃないかと考えてしまう。
「早くしないと遅刻だよ!」
「おう。分かった!」
学校。
「遅ーい!」
学校ではボイドが竹刀を片手に叫んでいた。
「ボイド先生。まだチャイムは鳴ってませんよ」
「そうそう」
「ちっ! 二人とも席に座れ」
ボイドに言われ、席に着く。
隣りの席の時雨が話しかけてくる。
「……怖いよね。ボイド先生」
「ああ、そうだな」
「でも趣味は編み物らしいよ」
「へえ」
授業中。
「美術は私、リスカ・ペティリオーネの担当です。皆さん。今日は粘土で相手の顔を作りましょう」
ペアを作らされる。
「時雨」
「いや、私はパスで」
「なんで?」
「九郎はわたしと組むに決まっているからね」
ロウがそう言った。
「ロウ……」
「シルヴィアと呼んでって言っているのに。彼氏なのに……」
「まあ仕方ない。九郎はそういう男だったということだ」
ノアが無表情で言い放つ。
「ノア。あなたはペアを作らないんですか?」
「自分の顔を作ります」
「ダメです」
「母さん」
「母親だからといって特別待遇はありません」
「くっ」
覚醒2
授業中。
「なら、私と組もう」
時雨がノアに近付く。
「時雨。……分かった」
お昼休み。
「紫藤みねねさん。付き合ってください」
「いえ。お断りします」
「早っ!」
「紫藤さん。よく男子にモテるよね」
時雨が、はぁーモテたいとつぶやく。
「なあ。やっぱりおかしくないか?」
「なにが?」
「何もかもだよ。ボイドやリスカが先生で、ノアが学校に普通に通っていて、それで剣が無くて……」
時雨が不安げな顔をする。
「大丈夫? 病院で頭見てもらう?」
「時雨……」
言い返そうとした瞬間、携帯電話が鳴る。
電話の通知は相手は輝夜だ。
「もしもし。輝夜か?」
『僕だ。ルークだよ』
「切っていいか?」
『待てよ! 僕は君とロウのために電話しているんだ』
「ロウのため?」
『ああ、惚れた女の子には一途なんだ』
「やっぱり切っていいか?」
『待てって! その世界、『月読』の中で現実世界の記憶をまだ持っているのは君だけなんだ』
月読。
なんだそれは?
「月読とはなんだ?」
『魔術師マーリンが作り出した夢の世界だ。そこに王権者たちとリード・リアスは囚われている』
「夢なら覚めるだろ」
『覚めない夢が月読なんだ』
「どうすれば出られる?」
『全員の心の闇を埋めろ』
「なぜ?」
『月読は後悔を元にして生まれている。だから、その後悔を思い出させればいい』
「どうやって?」
『方法はある。まずはボイドを攻略しろ』
「ゲームみたいだな」
『月読の様子は輝夜の四方陣で見れる。僕を信じろ』
「分かった」
ルークの指示通りにボイドに近付く。
そして、ルークから聞いた情報を元にして行動する。
「ボイド先生。奥さんは元気ですか?」
聞く。
ボイドは一瞬ボケッとした表情をして、言った。
「元気だが」
「あの、お願いがあるんですけど……」
覚醒3
翌日。金曜日。
「聞いたよ!」
時雨が話しかけてきた。
「なにが?」
「土、日曜日。泊まり込みでボイド先生の補習を受けるって」
「ああ」
「なんで? 九郎くんってそんなに成績悪かったっけ?」
「大人の事情だ」
「なにそれ?」
放課後。
「リアス。行くぞ」
ボイドが車を運転して校門へやってきた。
車のキーに手編みのクマが付いていることを確認し、車に乗り込む。
「今日から日曜日までみっちり教えてやるから覚悟しろよ」
「はーい」
ボイドの家。
「おかえり。あなた」
ボイドの妻が出迎えてくれた。
これからのことを考えると良心が痛む。
「ただいま。話をしていたリアスだ。成績は悪くないが、俺が勉強を教えることになった」
「そう」
「初めまして。九郎リアスです」
「あらあら、お行儀がいいのね」
「ボイド先生。さっそく勉強を」
「分かった」
勉強中。
「ボイド先生」
「なんだ? どこが分からないんだ?」
俺はこれから、ボイド最大の後悔を思い出させる。
それは、きっと悪で。
こんな夢の世界で幻を見た方が楽なんだろう。
だが、夢は夢だ。
いつかは覚めないといけない。
「ボイド先生はなんで編み物をしているんですか?」
「ん? なぜそれを聞く?」
「どうしてですか?」
「それは……」
ボイドがうつむく。
「分からない。ですか?」
「……ああ。だがそんなことはどうでもいい。勉強を……」
「ボイドは妻の死をきっかけにして編み物を始めた。そして、毎月編み物を墓地に飾っている」
「なんの……話をしている?」
「それが、ルークから聞いたボイドの後悔だ。妻の死。それは揺るぎない事実だ」
「嘘だ。妻は生きてる! ほら、呼べば来てくれる!」
ボイドは妻を呼ぶ。
だが、妻は来ない。
当たり前だ。
本当のボイドの妻は何年も前に死んでいる。
夢の中のニセモノも、俺が食事の時に盛った薬で眠っている。
「ボイド。お前は編み物にどんな思いを込めている?」
「俺は……」
「辛かっただろう。苦しかっただろう。だけど、ここは夢だ。覚めるべき悪夢だ」
「……」
「第六王権者、ボイド。お前は妻のことを本当に愛してるのか?」
ボイドは思い出した。
自らの後悔を。
涙を流す。
「……ああ。ニセモノでもいいと思った。妻の代わりになると思った。でも、でも違うんだ。本当の妻はもっと厳しくて、優しい。だから、俺は、今の俺には、ニセモノは、必要ない」
「そうか」
覚醒4
ボイドが妻と酒を飲んでいる。
「すまなかったな」
「いいの。もういいの」
「俺は前に進むよ。お前の意思も背負って進むよ。だから」
「分かっているわ」
ボイドの妻が光の粒子に変わる。
「ありがとう。九郎リアス」
「ボイド……」
妻のいた場所に大剣が現れた。
「一人目。クリアッと」
『そうか。ボイドを攻略したか』
「ああ」
『次に攻略するのはノアだ』
「分かった」
月曜日。
「ノア。一緒に帰ろうぜ」
「いやです。私たちには接点も無ければ会話もほとんどしたことがありません。なぜ私を誘うんですか?」
「それに、母さんが許さないからか?」
「……はい」
ノアの後悔。
それは、母親に一度も逆らわなかったこと。
それを今も引きずっている。
「いいから。行くぞ」
ノアの腕を強引に掴み、学校の外へ連れ出す。
「ノア。ゲームセンターに行くぞ」
「私は、行きたくありません!」
「俺たちは友達だろう。だから仲を深めに行くんだよ」
「いや……」
ノアの態度に本音が出る。
「甘ったれるな! 母さん母さんってなんでもリスカのせいにするな!」
ノアは初めて感情的に言い返した。
「私は、ずっと母さんの後ろ姿を見てきた。だから母さんの正しさが分かる! だから……」
「でもな……」
ノアの目を見る。
澄んだ、いい色だ。
だが、少し淀んでいる。
「正しすぎるのはよくないんだよ」
それから、ノアをゲームセンターではなくカジュアルな服の店に連れて行った。
本当は俺もゲームセンターに行くのは初めてなので緊張していたというのもあるが、ボイドからリスカが近所の遊び場で生徒たちを補導して回っているという話を携帯電話で聞き、行き先を変更したのだ。
「好きなのを選べ。買ってやる」
「いや、流石に他人に買わせるのは……」
「友達だろ。あと、今日どこに居たかリスカに聞かれたら俺の家で勉強してるって言え。いいな」
ノアは少し迷い、頷いた。
「……分かりました」
「さあ、買い物を楽しむか」
ノアが服を選んでいる間にATMから金を引き出す。
どうせ夢の世界だ。
派手に行こう。
もしもの時のため、ルークに言われたものもネットショッピングで買ってある。
「服。選んだか?」
「こんなのは、どうでしょう?」
ノアの服はゴシックな黒いドレスによく似た服だった。
「似合いませんよね?」
「いや。似合っているよ」
リスカにもゴスロリ服が似合うが、ノアにもその服がリスカ以上に似合っていた。
「綺麗だ」
「そうですか」
ノアの顔に一瞬赤が見えた。
それを照れだと解釈し、俺は次に進むことにした。
「今度の土曜日。俺とノアと時雨とロウの四人で勉強会をしたいんだが」
「勉強会?」
「ああ。その時にその服を着て来てくれないか?」
覚醒5
俺は時雨に土下座していた。
「ノアとデートがしたい。家に来たロウを何か理由をつけて連れ出してくれ」
「はあ?」
時雨は呆れ返っている。
「九郎くん。ロウという彼女が居ながらデートとは、あれ? 二股。二股ですか?!」
「いや違うって。デートは比喩だって。ノアは友達居なさそうだから友達になるために映画観たりしたいんだって」
「確かに。九郎くんは二股出来る人じゃないか。分かった。いいよ」
「ありがとう」
「いやいや。今度何か礼を貰うから」
「じゃあな」
「じゃあね」
土曜日。
「あの」
何かを問い詰めるようなノアの視線が痛い。
「なぜ、私たち以外居ないんですか?」
「両親は仕事。ロウや時雨は急な用事が出来たっぽい」
「急な用事?」
「ああ。それより勉強しようぜ」
「そうですね」
一時間後。
「ヤバい」
ノアは無表情に聞いた。
「何ですか」
「今日の映画の前売り券がある。だから映画を観に行こう」
「なぜそんな都合よく前売り券が?」
「多分両親のだろう。今日は急な仕事っぽかったから」
嘘だけど。
本当は今日のために買ったのだけど。
「仕方ありませんね」
「行くか。気分転換にもなるし」
「そうですね」
映画館。
『くっ。まだ、私は負けない』
『何故だ』
『約束したから。きっと帰って来るって』
「テンプレートなセリフですね」
「だが、王道で面白い」
「ですね。私にも友達が居たら、あんなことを言えるのでしょうか?」
「友達ならいるだろう」
「えっ!?」
「ここに。ノアの友達の九郎リアスがいる」
「そう……ですね」
映画館を出る。
と、
「隠れろ!」
ノアを連れて女子トイレに入る。
「いきなりどうしたんですか?」
ノアは怒っている。
無理もない。
だが、
「リスカがいた」
「……そう、ですか」
「なぜ。こんな時に……」
「もしかして」
ノアは携帯電話を取り出した。
覚醒6
ノアの説明によると、ノアの携帯電話はGPSでリスカの携帯電話から位置が分かるようになっているらしい。
「じゃあ、隠れても無駄か」
言い訳は出来ない。
少し駆け足だが、やるしかない。
「ノア。ここにいろ」
「九郎リアス? 何をするんですか?」
「リスカの野郎を殴る」
女子トイレから出てリスカを探す。
居た。
「リスカ先生」
「あら、リアスくん。何か用?」
「あの。携帯電話片手に何をしているんですか?」
「娘が遊びまわっているんです。だから注意しようと……」
プチンと、なにかが切れた音がした。
ノアはお前の所有物じゃねぇ!
「ちょっと歯ぁ食いしばれババア」
「えっ!?」
思いきり、全力で腕を振り上げる。
「子供は親の所有物じゃねぇんだよ」
振り下ろされた手は、リスカには届かなかった。
寸前で、ノアに手を掴まれていた。
「ノア……」
「これは、私たち親子の問題です」
リスカがわめく。
「ノア。なんで遊びまわっているの! 帰って勉強しなさい」
「母さん!」
初めての反抗。
ノアは後悔を思い出したのか?
「私は、ずっと母さんの言うとおりに生きてきた。でも、それは違うんだ」
「ノア。あなた何を言って……」
「九郎は正しすぎるのは駄目だと言った。今、私もそう思う」
「ノア。いい加減にしなさい!」
パチンッ!
リスカの頬をノアが叩く。
「母さん。今まで育ててくれてありがとう。だけど、今からは自分で自分の道を進む」
リスカが微笑む。
これまでとは違う。優しい微笑みを。
「私が居なくなっても、一人で歩く決意はある」
「ええ。母さん。私は私のために生きる。だから、後悔のない生き方をする」
後悔を思い出した。
その証拠にリスカが光の粒子に代わり、ノアの剣。クルタナが現れる。
「全て思い出した。ありがとう。九郎リアス。私を夢の世界から連れ出してくれて」
「まだ夢の世界だけどな」
ノアがうつむく。
「その……さっき言っていた私たちが友達というのは本心からですか?」
「ああ。夢でも現実でも、俺たちは友達だ」
「そうですか」
フッと、ノアが笑った。
二人目。クリア。
『三人目は紫藤みねねだ』
「後悔なんてする性格には見えないが?」
『紫藤みねねの後悔は恋をしなかったことだ』
「最近思うけど、お前はどうやってそれを調べているんだ」
『そうだ。リード・リアスに代われ』
話をはぐらかされる。
「なぜ?」
疑問に思いながらリードを呼び、携帯電話を代わる。
しばらくして、リードがつぶやいた。
「エル……」
リードの横にいた母さんがニッコリと笑った。
「リーくん」
母さんが光の粒子に代わり、鞘に収まった刀が現れた。
携帯電話を代わる。
「なあ。リードの後悔って何だったんだ?」
『秘密だ』
覚醒7
残りは紫藤、ロウ、時雨だ。
「紫藤」
「なんですか。リアスくん」
夢でも相変わらず刀を所持している。
無論、木刀だが。
それが、学校でも異彩を放っていた。
「紫藤。剣道で勝負しよう」
「私は剣の道を諦めました。だから戦う義理はありません」
「そうか」
意外だった。
紫藤は修行のために俺を殺そうとしたくらい。剣の道に一途だった。
それなのに。
「お前ら。テストの返却だぞ」
ボイドが先日受けた複数のテストを返却した。
「この中に保健体育で100点をとったやつがいる。みんな、見習えよ。以上だ」
紫藤がサッとテストを隠す。
チラッと見ると、保健体育が100点だった。
放課後。
「紫藤。お前すごいな」
「何の話ですか? リアスくん」
「保健体育のテストの話だよ」
かぁあああ!
紫藤の顔が赤くなる。
「み、見たんですか!」
教室の視線が集まる。
「体育館裏に行こう。人が居ないし」
「そうですね」
体育館裏。
「なんで見たんですか!」
「いや、ごめん。悪気はなかったんだ」
「で……」
「なに?」
「保健体育が100点で、軽蔑しましたか? エッチな子だとか」
紫藤の返事は予想の斜め上をいっていた。
「ううん。全然思ってないよ。むしろ勉強を教えてもらいたいなーなんて思っているんだ」
「話はそれだけですか?」
「ああ。紫藤がすごい奴だから勉強を教えてもらいたいなってだけ」
「勉強なら自分でしてください」
「冷たいな。クラスメイトだろ?」
「クラスメイトだから、です。他人に頼らない。それが一番です」
紫藤はさっさと出て行く。
携帯電話でノアとボイドを呼び出す。
「ノア。ボイド。お願いがある」
「なんだ?」
「なんですか?」
「俺とノアが体育館裏で何かを話していたというウワサを流してほしい」
「私は友達が居ないんですが」
ノアはキッパリと言いきった。
じゃあ、頼れるのは……
「ボイド」
「分かった」
リード・リアスは後悔していた。
幼い頃、エルを失ったことを。
そして、思い出した。
だから、
「みんなを、悪夢から解放してやらなきゃな」
刀を、握った。




