温泉
ブラックブレイド4 温泉1
温泉が気持ちいい。
俺たちは温泉に入っていた。
「ふー、生き返る」
「ボイド。背中流そうか?」
「九郎。頼む」
なぜ、こんなことになっているかというと。
……
…………
………………
「温泉の団体券が当たっちゃった」
興奮気味の時雨に、
「そう」
冷たく返す。
時雨には命を狙われた過去がある。
強くするためと時雨は言ったが、強くするために死んでは元も子もない。
「九郎くん。一緒に行こう」
「なら、私も行きます」
輝夜はそう言って券を見た。
八人まで大丈夫らしい。
「まあ、人数が多い方がいいからね」
「じゃあ、俺たちもついて行っていいか」
ボイド、ロウ、紫藤がこっちに近付いてきた。
「彼女なら当たり前でしょ」
「九郎が不埒なことをしないように私が監視しなければ」
輝夜は言った。
「監視は私の仕事です」
話は変わるが、ロウたち時雨に操られていた時の記憶はない。
と、そんなわけで。
「来たぞ富士山。露天風呂」
「九郎。あまりはしゃぐな。他の人に迷惑だぞ」
「すまない。浮かれていた」
「反省すればいい」
「で、なんで風呂に大剣を持ち込んでいるんだ」
ボイドの横には丁寧にビニール袋で包まれた大剣があった。
「いや~、無いと落ち着かなくてな」
「風呂に大剣はマナー違反だろう」
「野郎しか居ないし、問題ないだろう」
「そういう問題か?」
女湯。
「輝夜。肌がすべすべですね」
「ちょっと止めて紫藤」
「紫藤は筋肉のバランスがいいわね」
「ロウ。触るのを止めてください」
「いいねえ。姦しいねえ」
「咲畑さん! 言い方が卑猥です」
男湯。
「なあ、九郎」
「なんだ。ボイド?」
「男湯って寂しいな」
「まあ、俺たち二人しかいないからな」
さっきまで老人がいたのだが、今は二人だ。
「九郎。話しておきたいことがある」
「なんだよ」
「お前の剣は異常だ」
温泉2
温泉から上がると、ロウと紫藤が卓球をしていた。
時雨は牛乳をごくごくと飲んでいる。
輝夜はスマートフォンで誰かと会話している。
「ちょっとその辺りを散歩するか」
そうつぶやくと。
「私がついて行きます」
輝夜がそう言ってきた。
「監視?」
「はい」
「でもさ。ロウやボイドには監視する人はいないよね」
「それは……」
輝夜が黙り込む。
「まあ、いいや。行こう」
下駄に履き替え、外に出る。
四月だというのに夜風が冷たい。
「桜。綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
輝夜が何かを持っているのに気付く。
「それは?」
袋を覗き込む。
「あなたの剣です」
袋の中身はランスロットの剣だった。
「なんで、持って来てるの?」
「王権者を狙う者は絶えず居ますから」
夜道を歩く。
と、
「おにーちゃん。遊ぼう」
キツネの仮面を付けた10歳くらいの女の子が現れた。
「君は?」
「彩葉だよ。ねぇ、おにーちゃん。遊ぼう?」
輝夜が女の子に向かってしゃべりかける。
「きみみたいな小さな子はお家に帰る時間だよ。帰りなさい」
彩葉はキョトンとして言った。
「彩葉の家はこの森だよ」
「まさか、迷子?」
輝夜が否定する。
「いえ。恐らく彼女は……」
輝夜が消える。
「輝夜!」
「おねーちゃんを返して欲しければ、わたしと遊んで」
「輝夜に何をした?」
ランスロットの剣を取り出そうとして、輝夜が持っていたことに気付いた。
今ならボイドが肌身離さず大剣を持っていた理由が分かる。
こんな事態を引き起こさないためだ。
「おにーちゃんが遊んでくれたらおねーちゃんを返してあげる」
「……分かった。で、何して遊ぶんだ?」
「隠れんぼ。わたしが隠れておにーちゃんが見つけるの」
「分かった」
「じゃあ、十数えてね」
一。
二。
三。
時間を数えていく。
そして、十秒数え終わると、女の子の姿はどこにもなかった。
俺はロウたち増援を呼ぶため携帯を取り出した。
だが、
「圏外だと」
アンテナが一本も立っていない。
「さっきまで圏内だったのに」
宿に戻る。
だが、
「あれ? おかしいな」
確かに来た道を戻っているはずなのに、宿に着かない。
それどころか、
「ここ、さっき来た道だ」
どうやら不思議な現象に巻き込まれたらしい。
剣のない俺は無力だ。
それを痛感していると、
「お前! ここで何をしている!」
声をかけたのは金髪赤目で右目に黒い眼帯をした青年だった。
そして、刀を差している。
黒い制服を着ていて、腕章には卍に似た紋章が描かれていた。
「誰だ?」
「オレ? オレはリード・リアス」
温泉3
俺の今の親父は仕事中に行方不明になったらしい。
リード・リアス。
それが今の親父の名前だ。
「まさか、親父?」
「は? 何を言っている。俺に息子はいない。居るのは養子の九郎だけだ」
「俺が九郎だ。九郎リアス。リアス家に養子にしてもらった九郎だよ」
「馬鹿な。九郎はまだ赤ん坊だぞ」
まさか?
ある可能性を思いつき、聞いてみた。
「今は西暦何年だ?」
「それは■■■■年だ」
やっぱり、
「あの、それ12年前の西暦なんだけど」
「は? 馬鹿な」
リードはノキア製の携帯電話を取り出し、日付を確認する。
「間違いない。■■■■年だ」
「いいや、■■■■年だ」
「証拠は?」
「携帯を見れば分かる」
携帯を取り出す。
スマートフォンだ。
「これが携帯? ボタンが無いぞ?」
「だから、画面をタッチするんだよ」
スマートフォンの説明をする。
「確かに、オレの知らない技術だ。だが、まだ完全には信用してないからな」
「ああ。俺もまだ確信がないんだ」
「ん……」
私は起きた。
周りには和菓子がたくさんあった。
「どうぞ。好きなのを食べてね。おねーちゃん」
「お前は……」
私はぼんやりしたまま聞く。
「土地神だな」
「いえす。正解だよ。彩葉はキツネの土地神なのです」
「私を早くここから出しなさい」
「無理だよ。だってここは時間の狭間。誰もここには入れないし、出れない」
「まさか、九郎を閉じ込めるつもりか?!」
「ううん。隠れんぼしているの。彩葉の元にたどり着けるかどうか」
「なんですって」
魔術の知識もない九郎がここを見付け出すのは奇跡が起こらない限りあり得ない。
「彩葉! 九郎に勝ち目はない。だから、早く帰して!」
「おねーちゃんうるさいよ」
和菓子が飛んでくる。
口を和菓子で塞がれた。
「……!」
「おにーちゃんたち、まだかな?」
「なあ、親父」
「親父と呼ぶな。リードだ」
「リード。何でここにいるんだ?」
「それは……」
「それは?」
「秘密だ」
温泉4
時を超えて、二人は出会った。
「リード。お前はなんでそんな腕章を付けているんだ」
「これはリスカ・ペティリオーネの親衛隊の証だ」
「リスカの?」
「知り合いか?」
「ああ、俺は一度だけ会ったことがある。だが、中学生くらいの外見だったぞ」
「オレが見た時もガキみたいな外見だった」
「ってことは、リスカは今いくつなんだ?」
「さあな」
いきなり、
キツネの仮面を付けた女の子が目の前を通る。
「「待て!」」
俺とリードは同時に手を伸ばす。
だが、届かない。
女の子は茂みに隠れてまた見失なった。
「ちっ、また見失なった」
「隠れんぼ。意外に難しいな」
リードが聞く。
「隠れんぼ?」
「ああ、俺はあの子と隠れんぼをしている」
「どうやら、無関係というわけではなさそうだな」
「ん?」
「オレはリスカからこの土地にいる土地神を探し出す命令を受けてここにいる」
「土地神?」
「土地に住む神様だ。時間を操る神らしい」
「それで、リードは行方不明になったのか」
「何の話だ?」
「リード。お前は仕事中に行方不明になったんだ」
「……」
リードは何かを考えこむ。
話が進まないので強引に話を進める。
「話を戻すぞ、あの子が土地神なのか?」
「ああ、そうか、それで時間を超えてオレたちが出会ったのか」
リードと出会った理屈は分かった。
だが、
「これからどうする?」
「強引に抜け出す手もなくは無いが、どの時間に出るかは分からない」
「じゃあ」
「あのガキを見付け出すしかないな」
「あてはあるのか?」
「オレの蒼炎で辺り一面を焼き尽くす。それで決着がつく」
蒼炎?
一瞬聞き間違いかと思ったが、本当に蒼炎らしい。
聞きたいことはたくさんあるが、
「土地神なら土地を燃やしたら死ぬんじゃないのか?」
「ちっ! そうだった」
リードは頭をかきむしる。
「どうすれば?」
温泉5
リスカと女の子が対話している。
「第三王権者。ノア・ペティリオーネ」
「何ですか。母さん」
「第五王権者と戦った時と同じように人工衛星の探査機から九郎さんの反応が消えました」
「だから?」
「九郎さんを助け出してください」
「断わります」
「なぜ?」
「裏切りの騎士、ランスロットの剣。それも異端中の異端である魔剣使いを助ける義理はありません」
「でも、第一王権者の力の集中は避けれたし、第五王権者の襲撃から第四王権者を守った」
「結果論です。やつは偶然助けただけです」
「反論は聞きません。九郎さんを助けに行きなさい」
「くっ」
ノアは自身の剣を取り、九郎の元へ向かった。
朝。
「ロウ。居るか?」
ノアはロウたちの泊まる宿に向かった。
「ノア。なぜあなたがここに?」
「九郎さんが危ないので、助けに来た」
「確かに昨日九郎は帰ってこなかったけれど……」
「異空間に連れ込まれたんだ。探査機で監視していたから間違いなない」
「ノア。そんなストーカー行為をしてたの!?」
「いや、母さんが……」
「まあ、いいわ。ちょうど空間を斬れる刀もあることだし」
ロウはちらっと紫藤の方を見る。
紫藤は応える。
「分かった」
「なあ、そろそろ二十分は経ったんじゃないか?」
「ああ」
「リード。休憩しよう。疲れた」
「ふん。まあいいだろう」
リードが無造作に刀を抜刀する。
ギィイイイ。
二本の木が根元から切断され、座るのにちょうどいい椅子が出来上がる。
「座れ」
「ああ」
「では、空間を斬り裂きます」
「頼むわ」
紫藤は刀で森の入り口をなぞる。
パックリと空間が斬り裂かれる。
向こう側は闇。
「行きましょう」
「ああ」
「そうね」
「待てって!」
ボイドが遅れながら来た。
「ボイド。遅い」
「すまん」
温泉6
「紫藤?」
「九郎!」
夜。歩いていたら、俺たちと紫藤たちは出会った。
「ノアです。初めまして」
「よろしく」
ノアに手を差し出すが、拒否される。
「仲間か?」
リードが聞く。
「ああ、紹介する」
俺はみんなを紹介した。
「つまりリスカの部下か」
紫藤が反論する。
「まあ、意味は間違っていませんが」
「ああ、もういい。話は分かった。お前は帰れ。後はオレがやる」
「まだ輝夜が見つかっていないんだ。帰れるわけないだろ!」
「輝夜はオレが見つけてやる。だから帰れ」
「嫌だ」
「強情なガキだな」
そう言うリードも高校生にしか見えない。
ガキはどっちもだ。
「わあ、たくさんおにーちゃんやおねーちゃんが来た」
振り向くとキツネの仮面を付けた女の子がいた。
「待て!」
リードが追いかける。
俺も追いかけようとして紫藤に肩を掴まれる。
「何だよ!」
「残像。影です。本体はすでに遠くにいます」
「遠くにって?」
「ボイド。この辺りに神社がありますよね」
「ああ。確か宿で聞いたな」
「そこへ向かいましょう」
神社。
「見つけた」
「見つかっちゃった」
女の子はテヘッと笑う。
「隠れんぼはわたしの負けだね。おねーちゃんは返すよ」
ポンッ。
隣りに輝夜が現れる。
「九郎!」
「輝夜。大丈夫だったか?」
「はい。でも何故ここが分かったんです?」
「それは紫藤が……」
紫藤がしゃべる。
「土地神なら神社にいるのがセオリーですから」
「じゃあ、おにーちゃんたちを帰してあげるね」
女の子はそう言った。
「待ってくれ」
「??」
「リードを、俺の親父も一緒に帰してくれ」
「いいよ」
女の子は仮面の内側で笑った。
「バイバイ。おにーちゃん」




