完璧を目指すからポンコツ
「ユイ、ユイ、ユイ」
カズ先輩の声が聞こえる。
「もう何してるの?
ユイが話し込んでるせいで、ほかの子にしわ寄せが来てるじゃないの」
「あっ。ごめんなさい」
「患者さんはね。暇なのよ。でも私たちは忙しい。折り合いをつけないと、ほかの子に迷惑がかかるでしょ」
何度も聞いた言葉だ。
「あなたは優秀よ。でも完璧を目指しすぎる。だからポンコツって言われるのよ」
「はい。すみません」
「ユイ。聞いてないでしょ」
「聞いてないわよ。聞くというのは、言われたことを実行するということなの」
「でも先輩。私たちは患者さんの心の支えですよね」
「何度も言わせないで、それは………」
……
「聖女様、聖女様」
眩しい。誰かの呼ぶ声がする。
「聖女様、だいじょうぶですか?何か嫌な夢でも見ましたか?」
スミレが心配そうに見つめている。
あぁ夢か。
「うんうん。だいじょうぶ」
私はそう答えた。
朝の支度を始める。
なんで、カズ先輩の夢を見たんだろ。
そういえばカズ先輩は、
私のこと、
優秀だけど完璧を目指しすぎるから、
ポンコツだと言ってたな。
どういうことだろ。
あれよく言われたよな。
「ねぇスミレ。優秀だけど完璧を目指しすぎるからポンコツって意味わかる?」
「優秀だけど完璧を目指しすぎるからポンコツ……、ちょっとわからないですね。
大司教様なら、ご存じかもしれません。
今日午前中、大司教様がお見えになるから、ご質問されては?」
「そうね。聞いてみましょう」
私たちは食事を済ませ、病室に向かう。
患者は皆元気そうだった。
侍女たちは、朝からあちこちの掃除をしていた。
しばらくして大司教が現れた。
「聖女様、おはようございます」
「おはようございます。大司教様」
「なかなかの成果のようで、なによりです。
それで聖女様に見てもらう範囲を、今の五倍に広げようと。
やってもらえますかな」
「いきなり五倍ですか。もう少し様子を見てみないと」
「いえいえ。
聖女様のやられていることは、マイナスの影響はなさそうなものばかり、
様子を見る必要はありませんよ」
「そうですか。わかりました。ではお引き受けしましょう」
「では、やっていただくのは、この階全ての者たちの管理です。
侍女を三倍に増員しますが、できますかな」
人数が五倍に増えて、侍女は三倍か……。
まぁ今の業務なら、なんとかいけそうか。
「ギリギリいけるかどうかです。足りない場合は、増員願えますか?」
「あいにく、増員は難しいのですよ。なんとか工夫してください」
「わかりました」
「では。お願いしましたぞ」
「あの、少しお待ちください」
「どうかされましたか?」
「優秀だけど完璧を目指しすぎるからポンコツって意味わかりますか?」
「詳しくお聞かせくださいますかな」
それから私は、話の経緯を説明した。
「ということなのですよ」
「なるほど、それならわかります」
「どのような?」
「単純に資源の問題ですよ」
「資源?」
「はい。仕事でも勉強でも、完璧を求めると時間も金もかかる。これわかりますかな?」
「はい。わかります」
「時間と金は無限にありますか?」
「いえ。限りがあります」
「では、あなたが大工を雇うとします。
大工に依頼する仕事は十です。
候補者は二人。
雇えるのは一人だけ。
一人目は、全部の仕事を完璧ではないが、悪くはない程度にこなす者。
二人目は、三つの仕事だけを完璧にこなし、他の七つの仕事は手つかずの者。
あなたなら、どちらを選びますか?」
「そうですね。一人目です」
「それはなぜ?」
「一人目だと困ることはないが、二人目だと困るからです。やはり仕事は最低限してもらわないと」
「それが、優秀だけど完璧を目指しすぎるからポンコツの意味ですよ。まずは本当にその作業が必要かどうか?それを考えなさい」
大司教はそう言い、去っていった。
私はしばらく、
その言葉を噛みしめた。
たしかに、私は完璧を求めるあまりに、時間を犠牲にしていた。
そうか、
資源の問題か。
私がやりたいことをするには、無限の資源がいる。
そういうことか。
でもできる方法はないのだろうか?
諦めることは、私にはできそうにない。
時間を犠牲にせず、
求めることを得る手段は……。
私はふと周りを見る。
スミレや侍女達が、テキパキと動いている。
スミレの言葉を思い出す。
「私は道具……」
洗濯機の発明で、人は洗濯から解放された。
そうか文明の利器や工夫、
それと人手があれば、
やりたいことをできるのか。
でも、
文明の利器はないし、人手も限界がある。
それなら、工夫しかない。
いや違う。
大司教は、
「まずは本当にその作業が必要かどうか?それを考えなさい」
と言っていた。
私は丁寧なのが、大切だと思っていた。
それは確かに事実。
でも本当に、それほど丁寧にしないといけなかったのか?
ここはのんびりとした病院ではない。
負傷者が膨大にいる野戦病院みたい。
私のやり方じゃ、
多くの人は救えない。
私はふと顔をあげる。
クラと目があった。
「クラさん。おはようございます」
「聖女様、おはようございます。聖女様でも悩まれることがあるんですね」
クラは照れくさそうに言った。
「聞いておられたのですか?」
「耳に入ったもので……」
「あのポンコツは私なのですよ」
「気持ちわかります。私も完璧主義者でしたから」
「だったというのは、今は違うのですか?」
「いえ。性格はなかなか変わるものじゃありませんよ。少し方向性を変えたのです」
「方向性ですか?」
「はい。
以前は細かいところを完璧に仕上げたいという願望が強かったのですが、今は時間内に済ませるという完璧さを目指しているのです」
「時間内に済ませる完璧さ……」
「はい。時間の割り振りを考えるパズルのようなものですよ」
「なるほど。パズルですか……。それなら楽しんでできそうです」




