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7/12

術後

こちらの世界での初勤務を終え、

スミレたちは、大司教に報告に向かった。

私は部屋で一人ベッドに横たわった。


侍女たちに洗浄され、みるみるうちにキレイになっていく兵士たちの身体。

私は嬉しくなった。

キレイにするということが、当たり前になっていて。

そうでないと、気分が悪いのだと気が付いた。

職業病といえば、そうなるのかもしれない。

でも、自分と患者さんを守るためには、良い職業病だ。


一時間ほどして、スミレは部屋に戻ってきた。

お茶を入れます。

そう言い、お茶と茶菓子を出してくれた。

菓子を一口ほおばる。

あまり甘くはないが、天然の甘さがほんのりあり、優しい味だった。


「これは?」


「リンゴという果物を小麦でくるみ、焼いたものです」


「食べたことある?」


「いえ。そのような高価なものは頂いたことがありません」


私は、茶菓子を少しちぎり、


「口開けて」


「はい」


「あーん」


「どう?」


「美味しゅうございます」

スミレは少し笑った。


「そう。よかった。今日はどうだった?」


「どうと申しますと」


「私の行動、おかしくなかったかな」


「スミレは感動しました。私たちのような下賤の者が、聖治療師の補助をできるなど、考えてもいませんでした」


「そう。それで何か揉めてなかった?」


「と、言いますと?」


「大司教様は、私の提案で困ってらっしゃらなかった?」


「スミレが見たところ、面白がっていらっしゃる、そんな気がしました」


「そっか。じゃあよかった。それで気になったことがあるのだけど、包帯とかはどうしてる?」


「包帯ですか?

包帯には聖治療師様の治療が始まるまでの、止血の役割があります」


「使った後は?」


「キレイなものは、そのまま使います。ただ物資が不足しており、汚いものも使うことがあります」


「洗ったりはしないの?」


「なぜ洗うのですか? また血で汚れるのに」


「私が今日教えたことを思い出して」


「……目に見えない悪魔。まさか血のついた包帯にも」


「そうよ。それに一見汚れてない包帯にも、目に見えない悪魔がいる可能性があるわ」


「この場合はどうすれば?」


「スミレはどう思う?」


「普通に考えれば、洗濯をし……、

まさか、布も茹でるとか?」


「そうよ。

その通り、まず洗濯をして、汚れが落ちたら、布をしばらく茹でて、その後、日光の下でカラカラになるまで干す。それで良いわ」


「わかりました。ではまた明日、ご指導してください」

スミレはそう言った。


私は食事をし、

湯あみをし、再び眠りについた。


この世界には、兵士以外に夜勤という習慣はないようだ。

なにしろ、電気がない。

夜間に容態が悪化しても、なんの手も打たずに、亡くなるのかもしれない。

医療従事者の負担は少ないかもしれないが、生存率は低くなる。

そんな風に思った。


私は考えた。

この世界に夜間医療を導入することはできないか。

しかし、夜間医療を導入してどうなる?

まず薬がない。

できるのは、治癒魔法だけ。

それに治癒魔法を使えるのは、聖治療師だけ。


できるのは、看病くらいしかない。

それに手も足りてない。


そうか、夜間医療は高度な文明でないと、運用が難しいシステムなのか。

それより、できることからやらないと。

包帯の洗浄と消毒。

明日はこれを行おう。


しかし、ここは寒い。

ふと隣を見ると、スミレが寝ている。


「ねぇスミレ」


「はい。聖女様」


「起こした?」


「いえ。大丈夫です」


「あのね。こっちで寝て」


「そんな、聖女様の寝所で眠るなど」


「寒いの」


「毛布を持ってまいります」


「毛布では足りないわ。あなたが暖になって」


「しかし、スミレは下賤の者、聖女様が穢れます」


「私は、そんなことでは穢れません。それに寒くて風邪をひいたらどうするの?」


「そうですね。わかりました。ではスミレが暖になります」


スミレはそう言い、ベッドに入ってきた。

冷気が少し入ってくる。

スミレの身体は冷えていた。


「スミレは冷たくないですか?」


「平気、さっきより暖かくなってきた」


「そうですか。それではおやすみなさい」


「おやすみ」


私はスミレがいる安心感と暖かさで、ぐっすりと眠った。


翌朝、

私たちは食事を取った。


「ねぇスミレ。このパン一つで、あの黒いパン五つ分って言ったでしょ。これから私のパンは白いパンじゃなくて、黒いパン五つにできないかな?」


「聞いてまいります」


しばらくして、


「それはできますが、白いパンを増やすこともできますよ、と言われました」


「いえ。白いパンじゃなくて、黒いパンでいいの。明日から五つ貰って」


「はい。わかりました。あの、理由を聞いても良いですか?」


「そうね。

黒いパンはね。全粒粉と言って、小麦の全体を使ってるの。

そして白いパンは、小麦の一部分だけ使うの」


「たしかにそうです」


「小麦全体を使うことによって、栄養が豊富になるのよ」


「それはなぜですか?」


「捨てる部分に、栄養があるからよ」


「じゃあスミレは、栄養のあるものを頂いていると」


「そうよ」


スミレの目は輝いた。


「しかしお貴族様達は、なぜ栄養のないものを?」


「どうなのでしょうね。

白いもののほうが美しいし、美味しいというイメージがあるからじゃない。

でも私はこの黒いパンの味も好き」


「聖女様が、私たちの食べ物を認めてくださって、すごくウレシイです」

スミレは満面の笑みを浮かべた。




食事を終え、

私たちは患者を見に行く。

患者たちの顔色はずいぶん良くなっていた。

しかし、数名の患者がいない。


「ここの患者さん達は?」


近くの患者に尋ねる。


「体調がいいから、稽古しに行くと言ってました」


(はぁ~)

私は溜息をはいた。


そうだ。

運動選手やアスリートとかは、休むことができない。

そのことを忘れていた。


(ぱんぱんぱん)

私は手を叩く。

注目が集まる。


「今ね。稽古しに行ってる人がいるんだけど、今稽古すると、ムダに回復に時間がかかるから、止めて。今稽古している人は、もう一日ここにいてもらうわ」

そう言った。


「早く戦場に戻りたくて、稽古をしに行ったのに、稽古をしたら、一日余分にここに入院させられるなら、バカみたいだな」

笑いと共に、

そんな声が聞こえた。


「じゃあ、あなた、呼びに行ってくれる?」


近くの侍女にお願いする。


侍女は頷き、探しに向かった。


しばらくして、患者が戻り、稽古をしたら、一日余分に入院させる旨を伝えると、うなだれて大人しくなった。


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