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聖治療師クラ

「ちゅんちゅんちゅん」

小鳥の声と共に、目が覚める。

気が付くと、スミレが床に毛布を敷いて眠っている。


「ちょっと。スミレ何してるの?」


「すみません。寝坊をしましたか」

眠たそうな顔をしている。


「そうじゃないの。なぜベッドで寝ないの?」


「ベッドは聖女様のもの。身分の高い方が使うものです」


「そうなの。みんな?」


「はい。皇族、貴族、官僚、司教、騎士団長クラスの方以外は、雑魚寝です」


「そう……、わかったわ」

私は言葉を失った。

ベッドなどそれほど高いものでもないだろうに。

身分の高いものしか使えないって、身分制度の厳しい国なのだ。

そう感じた。


「洗面器と食事をお持ちします」

スミレは軽く髪を整え、動き出す。


「てつだ……」

そう言いかけ、私は言葉をのみ込んだ。


スミレはこちらを振りむく。


「だいじょうぶ。行って!」


「はい」

スミレはドアを開け、出て行った。


私は窓を開ける。

空気は澄み、冷たい。

風には草と土の匂いが感じられた。

石造りの外壁。

壁や建物の天井にはところどころ、雑草が生えていた。

周りを見渡す。

一面石造りか、木造、藁ぶき、そんな建物ばかりだった。

コンクリートもなければ、アスファルトもない、電線もなく、

もちろんソーラーパネルもない。

そして車もなかった。

まるで現代社会ではない。

そう感じた。


「お待たせしました」

スミレが食事と洗面器を持ってきた。

私は顔を洗い、食事を摂る。


白いパンに、りんごのような果物。そして豆の入ったスープ。


「いただきます」

私は食事を取り始める。

堅いパン。りんごのような果物は、予想に反してすっぱく甘みも少なかった。

そして豆の入ったスープは、味が薄い。


スミレはじっとしている。


「あなたは食べないの?」


「聖女様とは同じ食卓を囲めません」


「どんなものを食べるの?同じもの」


「いえ。滅相もございません。そのような御馳走は滅多に」


「あの。その食事を見せてもらえる?」


「我らのような下賤の者の食事を見せるなど」

スミレは頑なに断る。


「こっちに来なさい。口を開けなさい」


私は、パンを少しちぎり、スミレの口に入れる。


「聖女様。こんな事をされては困ります」

スミレは吐き出そうとする。


「スミレ。あなたは私の道具なのでしょ」


「はい。私は聖女様の道具です」


「私の国では、道具を大切に扱う者を、聖人とするの。

だから私はあなたを大切にする。

ちゃんと噛んで食べなさいよ」


「はい」

スミレの目は潤んでいた。


「美味しい?」


「はい、とても柔らかく美味しいです」


このパンが柔らかい……。

私には不思議だった。


「このスープも飲みなさい」


私はスープをスプーンで与える。


「はふ」

スミレは口を開け、スープを飲み、豆を食った。


「美味しい?」


「はい、とても美味しいです」


「ねぇ。スミレが食べてるのも、少しちょうだい」


「そんな。お口に合いませんよ」


「私の国では、聖人は民の食べ物の味を知るのが、尊いこととされてるの」


「そうですか。わかりました。こちらに持ってきます」


スミレが持ってきたのは、

黒いパンと、スープだけだった。


「こちらです」


「これだけなの?」


「はい」


量が少なく、栄養価も乏しそうだ。


「すこし食べてみて良い?」

私は少しパンをちぎり、

口に含む。

全粒粉なのだろう。

味は悪くはないが、白いパンより堅い。


「私、こっちのパンのほうが好きよ」


「そうなんですか?

こっちの白いパン一個で、黒いパン五個は買えますよ」


「そっか」


「スープも飲んでいい?」


「どうぞ」


スープを飲む。味はほとんど同じだが、豆のスープをさらに薄めたような味で、豆もほとんど入ってなかった。


……

私は食事を終え、

治療の現場を見に行くことにする。


「大司教に話を通しておきましたので」


「そう。じゃあ魔力のことは?」


「理解していますので、言う必要はありません」


部屋に到着する。

そこには白いローブを着た女がいた。

女は頭を下げる。


「聖女様。聖治療師クラにございます」


「はじめまして。ユイです。さっそくですが、治療を見せてもらえるかしら」


「はい。こちらの兵士を治療いたします」


兵士は腕に噛まれた跡のような傷があった。

兵士の体にはあちこち泥汚れがついている。


「ヒール」

クラは杖を持ち、傷口にかざす。

杖からは光が出て、傷口を照らす。

徐々にだが、傷口は消えていく。

十分ほど経ち、傷口はふさがった。


「これで終了です」


クラの顔は少し疲れたようだった。


「素晴らしいですね。これで一日何人くらい診る事ができるのですか?」


「このレベルだと私で三十人くらいです」


「他の方だと」


「我が国のトップクラスで五十人くらい、多くは十人くらいしか治療できません」


「人材が不足しているという事ですか?」


「はい。そうなります」


「あの。魔法以外の治療はないのですか?」


「あるにはあります。民間療法の類ですが、薬草を使ったり、そういうものです」


「つかぬ事をお伺いしますが、治療に成功したのに、亡くなった方とかいらっしゃるのでは?」


「なぜそれを?」


「やはりそうですか。

いえ私の国でやっていた方法と、クラさんのやられている方法は、まるで違います。

そして私の国でやっていた方法に照らし合わせると、治療に成功したのに、亡くなるというケースは減らすことができると思います」


「私たちのやり方が、劣っていると?」


「いえ、そうではありません。

このような傷を十分で治すような技術は持ってはいません。

正直驚きです。

ただ治療に成功したのに、亡くなる方は、おそらくこの国より少ないです」


「つまり聖女様のお国の技術を導入すれば、亡くなる方は減らせると。そうお感じなのですか?」


「はい。ただ何事もやってみないとわかりませんが」


クラは腕を組み考え込んでいる。


「少しお待ちください。大司教様にお話をしてきます」

クラはそう言い、その場を立ち去った。



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