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聖職者


「いえ。私の肩書は正看護師です」


「ほう、なるほどあなたは異世界でも、聖職者だったのですね」


聖職者、まぁ医療関係者を聖職者と呼ぶ人もいる。


「まぁ聖職者には変わりはないと思います」


「そうでしたか。そうでしたか。では我が王国も救っていただきたい」


はぁ? この老人は何をいっているのか。


「あの、話が見えないのですが、それに私は自宅にいました。でもここは私の家ではない」


「なにからお伝えしましょう。まぁ混乱されるのも無理はない。あなたは召喚されたのですよ」


「召喚……、呼びだされたということですか?」


「ご理解が早くてありがたい。そういうことです。我々が呼んだのです」


「ちょっと待ってください。事前に連絡もなくですか?」


「そうですね。事前にご連絡することはありませんね」


「あの。私も仕事があるんですよ。明日日勤ですし、シフトに穴を開けられませんよ」


「日勤、シフト……。よくわかりませんが、我々は人命がかかっているのですよ」


「それを言うなら、私も看護師ですから、人命を預かっています」


私はそう言いながら、

正直戸惑いがあった。

人命を預かっているのは、本当だ。

しかし、毎日引継ぎのためのデータは共有している。

それに私はポンコツ。

もしかして、

いてもいなくても変わらないのかもしれない。


「しかし、我々はあなたの召喚に国中の財を投じました。ご理解いただきたい」


「あなた方は、私を拉致したのですか?」


「拉致……、まぁ拉致と言えば、拉致なのかもしれませんが。国家存亡の危機なのですよ」


私は言葉に詰まった。


「あの。大司教様。聖女様を現場にお連れしてみては?」

大司教の近くにいた若い女はそう言った。


「聖女様。どうぞこちらに」

私は手招きされ、

あとをついていく。


キシキシときしむ木の床。

木の床と言っても、フローリングの床ではない。

塗装も何もされていない。無垢の木の床。

壁は石だろうか。

表面には漆喰のようなものが塗ってあった。

廊下は暗い。

大司教と女はランプを持って移動していく。

電気による室内照明がまったくない。


十五分ほど歩き、私は広い部屋に連れてこられた。


そこには、おびただしい数のけが人がいた。

血の匂い

うめき声

包帯から染み出した血

手足を失った兵士


「こ……これは」

私は状況に混乱する。


「彼らは我が国の兵士と民です。

魔導国との戦いで負傷し、ここに連れてこられました。

ここは、ほんの一部です」


私にこの状況を救えるのだろうか。

まったく自信がなかった。


「私には自信がありません。

こんなにも多くの方をお救いしたことはない」


「いえ。だいじょうぶです。古より聖女様には莫大なヒーリング能力があると言い伝えられております」


「そうですか。やれるだけの事はやってみますが……」


「では、こちらに」


私は大司教についていく。

数分歩き、

小さな部屋に案内された。

真ん中には高さ1m、直径30㎝ほどの円柱があり、水晶の玉のようなものが載っている。


「この玉に両手を添えてください」


私は指示通り、両手を添える。

突然透明の玉が、青く光り出した。


「これは?」


「これは体内の魔力を調べるものですが、いやはや。魔力量が異常に低いですな」


魔力。

魔力量が低い。


「あの、それでは?」


「いや。まことに言いにくいのですが、使い物になりませんな」


使い物にならない。

ここでもポンコツ扱いか……。


「それでは帰してください」


「申し訳ないが、それはできませぬ」


「なぜですか? 私は使い物にならない。では返せばいいではないですか」


「いえ。もとより手段がないのもそうなのですが、莫大な予算を使ったが故、活躍している振りでもしてもらわないと、教会の威信にも、王国の威光にも泥を塗ることになります」


「そ、そんな」


「まぁ悪いようにしません。

食事も部屋も衣装も良いものを提供いたしますし、良い家柄の者との婚姻も認めましょう。

ただ魔力が低いというのは、最小限の者にしか、知られないようにいたしましょう」


「いや。そんな嘘をつくような真似は」


「いいんですか?

それでは、召喚を進言した者も、儀式を執り行った者も、責任を問われるでしょう。」


「最悪、この場の者たちは処刑されます」


私は周りを見る。

皆下を向く。

胸の辺りが苦しくなる。


「嘘をつくのではありません。ただ不要な事は言わないようにすれば良いだけです」

大司教は長く白い顎髭を触った。


「わかりました」

私はそう答えた。


「こちらは侍女のスミレです。お側にお付けしますので何かありましたら、この者におっしゃってください」


「はじめまして聖女様。スミレでございます。スミレとお呼びください」

スミレは言った。


ずいぶん若いようだ。


「スミレちゃんはいくつ?」


「十八にございます」


「そっか」

七歳も年下かと思ったが、私は何も言わなかった。

不要な事は言わない。

大司教の真似をしただけだ。


「あの。答えにくい質問をされたらどうすれば?」

大司教に尋ねた。


大司教は長く白い顎髭を触る。

「そうですな。

無礼な!と一言いえば良いでしょう。

目上の者には使えませんが、この国で完全に目上となると、王や王女、皇族の一部と私くらいの者ですから、気にする必要はありません。

魔力量について聞かれたら、それは大司教より、教義上禁忌に触る故、答えるなと言われている。そうおっしゃってください」


「じゃあ。大体の人には無礼な!で、王族には、魔力量について聞かれたら、その際は、大司教より、教義上禁忌に触る故、答えるなと言われている。と答えればいいわけですね」


「左様でございます」


「いやぁでも。私覚えていられるかなぁ」

私は頭をかく。


「私で対応が可能な時は、私が聖女様に代わってお伝えします」

スミレは言った。


「すごい助かる。ありがとう」


「滅相もございません。私は聖女様の道具ですから」


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