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救世の聖女

「あのポンコツ聖女が、こんなにも活躍するとはな……」

大司教は、一人涙を流した。


その視線の先には、

一人の聖女の登場により、

混乱の中から、秩序を取り戻した王国の姿があった。


「聖女ユイ様!私たちをお救いくださりありがとうございます!」


「万歳!万歳!万歳!」


「ユイ様!ありがとうございます」


王国は活気に沸いていた。

遠征から帰還した聖女ユイを一目見たいと思った民衆が、

近隣の村や町から多数集まり、街を埋め尽くした。


民衆の多くは、ぼろを着ていた。

しかし、聖女を迎えるため、

できる限り、キレイにしようという、心に満ちていた。


一団の先頭をゆっくりと黒色の大きな馬で率いるのは、

王国一の猛者とも名高い騎士団長アーネスト。


兜を脱ぎ、

余裕の表情を見せながらも、多数の民衆に警戒を怠ることはなかった。


馬車の中、

聖治療師クラは、聖女の目をじっと見つめて、こう言った。

「私は出世のため、あなたを利用するつもりでした。

そして、それは今も変わっていない。

ただ、私はあなたを尊敬しています」


聖女ユイはクラを見つめて笑った。

「私が活躍できたのは、ほかでもない。

クラ、そしてスミレのお陰よ。

ここでは皆私の名前を称えるわ。

でもね。

私には、クラやスミレ。

そしてこの遠征に関わった沢山の人たちを称えているように聞こえるの。

本当にありがとう」


「私、侍女という立場にありながら、こんなに大事にしていただけて、とても感謝しているんです」

スミレは、涙を流した。


……

三年前―――


「もう!ユイはどこにいってたの」

カズ先輩は眉間に皺を寄せている。


「あぁ先輩!吉田のお婆ちゃんと話をしてて」

私は言った。


「もう!ミーティングあるんだから、時間を厳守しなさい」


「ごめんなさい。

でもそんなに眉間に皺を寄せて、キレイな顔が台無しですよ」


「もう!あんたのせいじゃない」

カズ先輩は呆れ顔で笑った。


私たちはミーティングに向かった。


少し遅いお昼休憩。

私は職員用の食堂で食事を摂る。

カズ先輩は、

「日替わり定食を食っていれば栄養価は問題ない」

よくそう言っていた。


それ以来、私はいつも日替わり定食を注文している。


テーブルに座り、食事を始める。

(ぷるん)

母からメッセージが入る。


「25歳おめでとう。ショートケーキ冷蔵庫にあるから、食べて」


「ありがとう」

メッセージを返す。


母とは十五歳から二人暮らしだ。

同じ看護師でも病院が違い、夜勤と日勤がすれ違う。

最近は、眠っている顔しか見ていない気がする。


隣で同僚が話している声が聞こえる。


「ねぇ。ちょっとうちの彼氏、また浮気してたのよ」


「男なんて、そんなものよ。幻想持ちすぎじゃない」


「え~。そうかな。浮気しない男もいると思うんだけど」


「いないよ。そんな男」


聞き耳を立てるつもりもないのに、

どうでもよい情報が入ってくる。


私はイヤホンをつけ、ノイズキャンセリングモードにする。


男は浮気する生き物。

母は昔からそう言っていた。

……父もそうだった。


結婚しても、最後は離婚するんだろう。

そんな風に思っている。


離婚する時、父は。

「お前が嫌いになったわけじゃない。また会いに来る」

そう言っていた。


「そう」

私は短く答えた。

それから十年。

父の姿を見たことはない。


私は、

ノートを取り出し、吉田の婆ちゃんとの会話内容を書く。

お孫さんが遊びに来たこと。

若い頃はバレーをやっていたこと。

ハイカラものが好きだったこと。


別に仕事でやってるわけじゃない。

ただ人の過去の思い出を知るのが好きなだけ。


……

20時を過ぎたころ、仕事を終え、

私は家に帰ってきた。

郊外にある真っ暗な一軒家。


明かりをつけ、冷蔵庫を見る。

ショートケーキは、

よくあるいちごのショートケーキだった。

私は冷蔵庫からケーキと缶酎ハイを取り出す。

キッチンの水道で手を洗い、

キッチンペーパーを一枚掴む。


テーブルの上にキッチンペーパーを敷き、

その上にショートケーキを載せる。

サイドについているフィルムで、

ショートケーキを手づかみしながら食べる。


缶酎ハイを開け、

流し込む。


皿とフォークを取り出し、紅茶でも入れれば、女子力が高いんだろうな。

そう思いつつ、身体は動かない。


胃に入れば一緒だ。


そう言い訳をした。


ケーキを食べきり、

缶酎ハイを一本飲み切った。

私は服を着替え、ジャージになる。

冷蔵庫から缶酎ハイを取り出そうとするが、

もう冷蔵庫にはなかった。


私は仕事のあとに酒を飲まないと、

緊張が続き、気持ちを切り替えられない。


身体には良くないと思いながら、やめる事ができなくなっている。


私は財布を持ち、近所のコンビニに出かける。

一年前、近所で通り魔殺人が起きたようで、少し怖い。

少し急ぎ気味に、私はコンビニに向かう。

コンビニで六本パックの缶酎ハイを買うと、ピーナッツのオマケがついてきた。


コンビニで買い物を済ませ、コンビニから出て行こうとする時、

目つきの悪い男と目があった。

背中がぞくっとした。


私は駆け足で、家に戻る。

やけに自分の足が遅く感じる。

そしてようやく、家に着いた。


私は戸締りを厳重にして、

再び酒を飲みだした。

看護学校時代の教科書を傍らに置き、

教科書を見ながら、酒を飲む。

ただ、そうして酒を飲んだ。


………


「聖女様。聖女様」

どこからか声がする。


「聖女様。聖女様」


私は目を開ける。

そこは一面真っ白な部屋。

黒いローブを身にまとった白髪の老人が私を見下ろしている。


聖女。

いったいこの人は何を言ってるの?

私は周りを見渡す。

白髪の老人は、

私に向かって聖女と呼んでいる。


「あの。あなたは誰ですか?」


「あぁ聖女様。私はこの王国の大司教にございます」

白髪の老人は、そう挨拶をした。


「私はユイです。聖女という方ではありません」


「いえ。あなたは聖女様です。聖女というのは肩書であって、名前ではありません」


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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